113 海の宝石
一時間ほど雑談して時間を潰していると、ようやく神から声が掛かった。
『お待たせしました……! 出来ましたよ……!』
『がんばりましたぁ……!』
「おお! でかした!」
神達はへとへとだがやり遂げた顔をしている。
『ケンの希望で海が綺麗な場所に出しましたので、此処からは遠いですが……』
「あっ、座標を頂ければ私が繋ぎますよ」
『そうですか。ではこちらで……』
マーモットの神が座標をカイに伝えると、頷いて早速空間を繋ぎ始めた。
「はあぁ……わくわくするねえ……! 僕らも話だけで実際どんな船なのかは知らないからさ……!」
「わはは! 期待しておけ! 世界の規模からしてもリョウさんの知るどの船より大きいぞ!」
「ハァ、楽しみです……! っと、繋がりました!」
「キャア! ほらガンナー行くわよ……!」
「おれが持つのかよ!」
ベルが荷造りしたトランクケースを押し付けられ、ガンが渋々と抱える。それからカイが繋いだ空間ゲートを全員で潜った。
潜った瞬間に感じたのは潮の匂い。海岸に面した高い崖の上にゲートは繋がっていた。辺りを見渡すと、今まで居た地方の海岸に似ているが少し植物の感じも違うし、何より海の色が違った。
「おお、海の色が違うぞ……!」
「透明度が高いし、凄く綺麗ですねえ」
『此処からの方が、全景が見えると思いまして……』
「全景……?」
「ガンさん! カイさん! こっちだ!」
崖の端の方で、リョウとベルを伴ってケンが手を振っている。何だ何だと近付いていくと、リョウはへたり込み、ベルは目を輝かせていた。
「リョウ、どうした!?」
「大丈夫ですかリョウ!?」
「あ、れ……あれ…………あれ見て……」
ぷるぷるとリョウが震えて指を指す。その先を視線で追ったカイが、同じくへたりこんだ。ガンは理解出来ないものを見る顔になった。
「わはは! どうだ! 素晴らしいだろう!」
「……ケン」
「どうしたガンさん! あれが俺の船だぞ!」
「ばか! あれは船ッて言わねえんだ!」
『ですよね!?』
『ですよね……!?』
神達のですよね顔を背景に、思い切り顔を顰めたガンが“船”を眺める。大きい。意味が分からない程大きい――というか、船の大きさじゃない。島、島といって良いのだろうか、島も違う気がする。
「あれはな…………」
適切な表現を求めて“船”を眺める。少なくとも船ではない。絶対に違う。海上都市――というのが一番近いのではないだろうか。ちょっとした島なんか比べものにならない大きさの、巨大な円形台座に乗った都市らしきものが海に浮いている。あれは海上都市でいいのか? だが城のようなものが建っている。海上城下町と言う方が正しいのか? 等と考えれば考える程意味が分からなくなってくる。
「…………少なくとも船ではない……」
「溜めた割には大した事を言わんな!?」
「煩えな!?」
結局呻くように当たり前の事を重ねて言うだけの人になってしまい、やや気恥ずかしい。そんな事には構わずケンが自慢げに仁王立ちした。
「まあ、人によっては違うだろうが俺にとってあれは“船”なのだ! 改めて紹介しよう! 船の名はジェムドゥメール! 海の宝石を意味しているぞ!」
「まあ、素敵ですこと!」
「だろう! そうだろう! 海の女神の力も借り、海上であらゆる不便が無いよう設計されたまさしく海上都市と言っていい船である!」
「海上都市って言ッちまってるじゃねえか! 船じゃねえだろやっぱり!」
「はええ……凄い……こんなの初めて見たよ……!」
「流石にこのレベルとは思いませんでしたね……」
リョウとカイはまだへたり込んでいる。それも無理からぬ事だった。ケンが言う通り海上都市と呼ぶのに相応しい広さを備え、城と城下町ごと皿に乗せたような外観が遠目でも理解出来た。それもただの城ではない。贅の限りを尽くしたような城――というか宮殿が輝いている。恐らく自給自足システムもあるのだろう、船が停泊する港をはじめ、巨大な温室らしきドーム状の建物や、農地や牧場のような緑も見て取れた。
「基本的に俺が移動する時に使っていたのだが、勿論各地の賓客をもてなす事も可能だ! 誰にでも対応できるよう世界中の食材やら花やら贅沢品やら娯楽やら職人やらが揃っている! つまりリョウさんとカイさんが欲しい物も大体揃う!」
「おい、職人ッて言ったか!?」
「言ったぞ!」
「そこ揉めてましたよね? 結局乗組員までコピーしたのですか……!?」
「神達よ! 説明するがいい!」
『はい……』
しおしおした顔でカピバラの神が説明を始める。
『ケンの最強装備で馬が居ますよね? あのように実在の生命をコピーする事は技術的には可能なのですが、あの規模の船の乗組員となりますと数が多過ぎますし、そもそも別世界の生命のコピーは評議会の許可取りやら色々大変ですし問題がありまして……』
「うん、まあ……最強装備ならまあ……って思えるけど、乗組員を全員コピーしろって流石に酷いよね……」
『ですので、せいめいとしてはこぴーしていません』
「生命としては……」
『はい。とはいえ乗組員が居なければ維持も大変でしょうし……これからあなた達が遭遇するであろう“船の住民”に見える者達は、かりそめの使い魔のようなものだと思って下さい』
『あのふねにのっている、ひとにみえるものたちはひとではありません』
『ゴーストのような情報の塊と言いますか……彼らが船から降りてあなた達と生活する事はありませんし、成長する事もありません。人のように振舞うとは思いますが、それはケンの世界に実在する方達の過去の情報がそこにあるだけで……ええと、説明が難しいですね……』
どう説明したものかと神が難しい顔をしている。
「つまり、これまでの情報を入れただけのロボットみたいなもんッて事か?」
『ですね、その表現が一番近いかもしれないです……!』
「ロボットってなに?」
「あー、おまえらの世界だと逆に説明し辛いんだな、これ。ええと……」
ガンも難しい顔をする。
「魂も何も入ってない人形があるとするじゃん?」
「うん」
「そこにリョウの情報を入れたとする。情報だけで、魂は入ってない」
「ええ」
「リョウの記憶と経験があるから、人形は料理が出来たり、聞けば巨乳が好きですとかは答えてくれんだけど、それはリョウの情報を再現してるだけなんだよ」
「巨乳のくだり必要だった?」
「ふむふむ」
「これまでのリョウの情報までしかないし、船の設備としての人形だから、船を降りて一緒に暮らす事も無ければ、新たに情報を得て進化することもない、あくまで船の備品である――ッつう認識で合ってるか?」
『はい、あっています』
「あなた達に分かり易く言えば、ゴーレムかしらね?」
「あっ、ゴーレムね!? 分かった!」
「成る程、ゴーレム!」
ロボットとゴーレムで大体全員理解する事が出来た。
「うむ、つまり俺が王であった頃――あの船を使っていた時の記憶が再現されていると思えば良い。ロボットだかゴーレムだかゴーストだか、実物でなくとも働き自体は変わらんだろうしな!」
「成る程なあ……!」
「ハッ、再現という事は……ケンはあの船では王様扱いされるのですか?」
『そうなると思います。他の方達は、ケンの賓客か友人のような扱いで設定されるのではないでしょうか?』
『なかにはいったときに、せっていするといいですよ』
「わたくしは特別な賓客として登録して貰おうかしら! うふふ!」
「無論だ! 皆俺の特別な賓客である! 後は実際見ながら把握して貰うとしよう! ひとまず行くか!」
ケンがぱちんと指を鳴らした。すると呼応するように“船”の方からするすると崖まで光の橋が伸びてくる。
「!?」
「神造だからな! こういう便利な機能が付いている!」
「特大のバカ船の予感しかしねえよもう……!」
光の橋に続き、橋の中央に真っ赤な絨毯までもがくるくると広がって来た。呆気に取られたまま、一同はいざ船へと踏み入っていく――――。
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