112 きらきら船曜日

 次はガンの番だった。


『では次はガンナーですね』

「おう……」

『まずはぼうぐのそざいですね』

『製作はベルの方で行うのですよね? ベルも確認をお願いします』

「よくってよ」


 カピバラの神とマーモットの神がそれぞれ盆を持つように手を掲げると、実際に盆が現れその上には紬糸の束や反物のように巻かれた布や皮が置かれていた。ベルに言われていた、防具を作って貰う為の素材だ。


「えっ…………」

「あら、これなら良さそうね?」

「わっ、ガンさんこれで防具作って貰うの?」

「流石神の素材、輝かしいですね……!」

「うむ! 派手で良いぞ!」


 素材は全て、二神の髪色の反映したかのようにキラキラと輝く黄金色と虹色をしていた。あまりのカラーにガンが三度見位する。


「えっ、まじで?」

「これならパンツどころかちゃんと全身一式作れるわよガンナー!」

「いや、まじで?」

「何よ! 何が不満!?」

「い、いや……色……? 色がちょっと……」

「俺は良いと思うがなあ!」

「ケンは黙って」


 神達はきょとんとしている。ケンとベルも怪訝にしている。リョウとカイだけが察して慌てて助け舟を出した。


「ほ、ほら、ガンさんって軍人さんじゃない? あまり派手な装備は着慣れないんじゃないかな……!?」

「そ、そうですね……! 砲手ですし狙撃の時とか向かないでしょうし……!」

「だが神造伝説装備など光ってナンボだろう!? なあリョウさん!?」

「や、いやいやいや、それは勇者とかケンさんの装備はね!? これはガンさんの装備だから……!」


『折角の神造素材なので、輝きを大事にしてみたのですが……』

『ガンナーは……きらきらがおきらいですか……?』

「ウッ……!」


 悪気無き無垢な神達の視線に一瞬負けそうになる。なるが、此処を譲ると本当に黄金レインボーな最強防具になってしまう。ガンは心を鬼にした。


「…………絶対嫌だ……地味な色にしてくれ……ッ!」

「ガンさん偉い、ちゃんと言えた、偉い……!」

「意思表示大事ですよ……!」


『そうですかぁ……』

『そうですか……』


 神達があからさまにシュンとする。大変胸が痛んだが、譲る事は出来ない。


「地味な色を求めるとは! 無欲にも程があるぞガンさん!」

「煩えこれは無欲じゃなくて切実な要求だ……!」

「まあ実際キラキラでもガンナーには似合わないだろうし仕方ないわね!」


 ベルが頷き、袖からメモとペンを取り出すと何事か書き付けた。そのメモを神達に押し付ける。


「追加でこれだけ寄越しなさい。染料にするから」

『あ、はい……確かにこの染料なら、更なる補強にもなりますね……』

『きらきらのぼうぐ……すてきですのに……』

「少しは金色と虹色を残してあげるから。我慢なさいな」

『むぅ……しかたありません』

「……!? 少しだぞ!? 少しだけだぞ!?」


 カピ神よりマモ神の方がきらきら防具に未練があるらしく、まあまあ不満げだった。それでも何とか頷かせる事に成功し、ひとまず追加素材は後日貰う事にする。


『後は、祝福ですね』

「あっ、祝福も貰えるんだ?」

『はい、こんかいはそうごうてきにガンナーのいのちをまもるかんじのおねがいですので』

「成る程、それは良いお願いです……!」


 防具の素材の方は心配したが、祝福なら滅多な事は無いだろうとリョウとカイも安心する。招かれたガンは二神に挟まれ、やや緊張した面持ちだ。


「ついにおれにも神の祝福が……!」

「わはは! 今までひとつも無かったからな!」

「ケンは黙って」

「酷くないか!?」


『ガンナー、以前相談した形の祝福で良いんですね?』

「ああ、アレで頼む」

『わかりました。じっとしていてくださいね』


 左右からぎゅっと手を握られ、何か覚悟をする間もなく温かいものが流れ込んでくるのを感じた。驚いて動きそうになるが、言いつけを思い出してじっと堪える。体内に流れ込んできた何かが、身体の中心に留まり形を結んだような気がした。


「…………おお」

『痛くはないと思いますが、大丈夫ですか?』

「大丈夫だ。なんかあッたけえ感じ……」

『うふふ、わたしたちのあいですから』

「これが愛……!」


 流れ込む何かが止まっても、形を結んだ胸の中の“ぽかぽか”はそのままだった。不思議な感じがするが、悪くはないものだ。完成を告げるように、二神が手を離すと優しく微笑む。


『完全に成功しました。良い出来ですよ』

『はい、ちゃんとできています』

「おー、良かった。さんきゅな……!」

「ガンナー、ちょっと見せなさい」

「あっ、おう……」


 ベルに手招かれ、一応出来を見せに行く。じろじろと観察されるので、万歳してぐるりと回って見せた。表から裏から厳しく観察されているので、思わず神達もハラハラする。


「どうだ、カーチャン」

「……ふん、及第点よ」

「よっしゃ」

『ホッ』

『ほっ』


「あそこすっかり母子なんだよねえ……! ほっこりしちゃう……!」

「可愛らしいですねえ……!」

「うむうむ!」


 最初は不仲だったガンとベルがいまや母子のようで、見ている野郎どもはニコニコしてしまう。ともあれ、ガンの分のお願いも終わったという事で神達は改めて残る三人へ向き直った。


『では最後に……ケンとリョウとカイの合同のお願いの方を叶えたいと思います……頑張りました、頑張りましたよ……!』

『はい……とてもがんばりました……!』

「へえ、おまえら共同で頼んだんだ?」

「あまりに強欲過ぎるから、三人分のお願いを併せたのよ」

「ベルが強欲過ぎるッて言うレベルやばくねえ?」

 

 思い返せば確かにこの三人は数日にわたり神達と相談というか交渉を繰り広げて粘っていた。神達も先程までとは違い、交渉の件を思い出したのか憔悴した顔つきになっている。


「何を言う! 世界を救ってやったのだからこの位当たり前だろう! 俺達とて企画書や今後の運用や妥協案を提出したり恋文まで書いて色々手伝ったのだぞ!?」

「そうだよ! 僕らも頑張ったんだから……!」

「そうですよ! 私もリョウも恋文以外は頑張りましたよ……!」

「恋文ってなに?」

「うふふ、楽しみねえ! 早く叶えなさいよ!」


 内容を知っているのかベルがきゃっきゃと喜んでいる。ガンは分からん顔のまま首を捻った。やがてしおしおした顔つきの二神が諦め顔で両手を握り合う。


『では、はじめます』

『あまりに複雑で巨大ですので、少し時間が掛かります。しばしご歓談でもなさっていてください』

「あまりに複雑で巨大ってなに? 恋文ってなに?」

「わはは! 待つ間に説明してやるとしよう!」


 神達が頑張って祈り始める傍ら、どっかとケンが腰を下ろす。他の面々も話を聞くべくその場に座った。


「俺達は共同で船を頼んだのだ!」

「船ェ? あまりに巨大って軍艦か何かか?」

「いやいや、そうじゃなくてね。前の世界でケンさんが持ってた船なんだよ」

「世界征服を終えた後のケンが、世界を周る為に建造したそれは豪華な“王の為の船”なんですよ……!」

「ああ…………バカ船ッてこと……?」


 ガンの脳裏にはバカ風呂が即浮かんだ。だがそれにしては、リョウとカイが協力している事が不思議だ。首を傾げていると、ケンがニヤニヤする。


「実際見た方が早いが、ただのバカ船とは思わぬ事だ! なにせ神造だからな!」

「えっ」

「俺を激しく愛する海の女神が製造には関わっている! 故に別世界の神造製品のコピーはちょっと……とカピモットの神達には渋られたのだが! 俺が海の女神に恋文を書く事で許可を取り解決した!」

「正確にはその規模の神造製品プラス諸々の人材素材は……みたいな感じなんだけどね……!? 世界を跨いでの許可取りとか大変みたいでさ……」

 

「生きる世界は分かたれたが、其方の造ってくれた愛しき船を手元に置いて偲びたい……というような恋文を書く事で先方には快諾頂いたそうです」

「オホホ! 流石ケン様だわ!」

「分からん……! いや、恋文の件は分かッたけどさっぱり分からん……!」

 

 神達に散々迷惑を掛けた事は伝わって来たが、さっぱり船の全貌が見えてこない。二神を見ると必死に頑張っている。まだまだ時間が掛かりそうだ。


「えーと、その船の中に? リョウとカイが欲しい物も揃ってるッつうこと?」

「そうなんだよガンさぁん……! 何を頼もうか迷ってる所に、迷ってる全部が揃う船があるなんて言われたらさ、そんなの協力しちゃうじゃない……!?」

「えへへ、そうなんですよぉ……! 欲張りセットなんですよぉ……!」

「そうかァ…………」


 喜んでるリョウとカイきもいな……と思いつつ目を反らした。反らした先で、何故かベルが旅行にでも出かけるようなトランクケースを魔法で取り出し荷造りを始めている。その様子から、ベルも楽しめるというか――長期滞在したいようなバカ船なんだと察した。


「まあまあ、見てのお楽しみだ。期待していろ、ガンさん。生まれて初めて見るものを、それはもう沢山見せてやる……!」

「あー……うん……」

 

 ケンが自信たっぷりに笑う。その笑みを受けて、ガンの方はなんともいえない顔で頷くのであった。

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