106 ごほうび
「じゃあ、全部上手くいったって事なんだね」
『はい、お陰様で……!』
神達の報告によると、凶兆達は魂以外を再生エネルギーに変換され、二神の力も完全に戻ったそうだ。マーモットの神とカピバラの神の世界それぞれで生まれ、生きていた魂達もちゃんと輪廻転生の輪に戻ったという事だった。
「あの、魂達って結局どの世界に生まれ変わるの?」
『それなのですが、ケンが救った魂の方は此方の世界と前にケンが居た世界に振り分けられています』
「俺の民として俺の世界での転生を許す、と言ってしまったからなあ!」
『はい、そうです』
全員ふむふむと聞いている。
『カイとリョウが救ってくれた魂の方ですが、此方の世界と――早く転生を希望する場合は更に他の世界に振り分けられる事となっています』
「早く、とは?」
『こちらのせかいには、にんげんがいないのでてんせいさきがすくないのです』
「ああ……!」
『無論、生まれ変わる先は人間だけではありません。鳥獣や虫や魚、植物に至るまで転生先は幾らでもあるのですが……』
カピバラの神が少し難しい顔をする。
『元々この世界に居た魂、
「成る程……」
『ケンが前居た世界は水槽が大きいですから、半分以上はあちらに振り分けています。その残りと元々この世界に居た魂の100憶、更にカイとリョウが救ってくれた魂の80億となると結構な数になります』
「確かに、そうなると人間以外でも転生先不足しそうだね……」
この世界に今は“人間枠”が無いから余計に混み合うだろうとも思う。
『ですので、待ってでもこの世界に転生したいという場合は待って貰い、他でも良いという場合は他の神々の世界に引き取って貰っています』
「ふむふむ」
「なあ、凶兆達も転生するのか? 再利用システムって、力だけ再利用して魂は使わねえだろ?」
話を聞いていたガンが不思議そうに尋ねる。
『そうですね。凶兆達と――転生待ちの魂達も同じくですが、生前悪行を働いていた場合はすぐ転生とはなりません。あなた方の言う所の“地獄”で罪を清算してからとなります。凶兆達は、現在罪を清算中ですよ』
「へえ……そんなら良いや」
あのド変態どもがすぐ転生してきたら嫌だなあと顔に書いてあったので、説明を聞いて安心したようだった。
『魂達の今後はこれで大丈夫でしょうかね? 次に、ケンが神々と交渉していた褒賞の件なのですが』
「うむ!」
『戦場はあのままあなた方に譲渡されます。使い方のレクチャーもこの後行います。また、今後新たな英雄や勇者がこの世界に送られる場合。通常の転送の場合は今まで通り山頂から。以前の五人目のようなイレギュラーの場合は、直接戦場へ転送されるように設定しました』
「わあ、滅茶苦茶ありがたい……!」
「これで村がいきなり吹き飛ぶ事は無くなりましたね……!」
また五人目みたいなのが来た時の村の安否が心配だったので、リョウとカイが手を叩いて喜ぶ。
『そして、もうひとつ――私と我が友がこの世界の神となる件も了承されました。現在の我々は神々から修復を受け、当初と同じ力を取り戻しています。未熟者同士、二神で今後この世界を運営していく事となります』
『わがともと、がんばります。みなさんどうかよろしくおねがいします』
男児と女児の姿をした二神が深々と頭を下げる。
「うむ、よろしくされようではないか!」
「――――今後人間にあたる生命を生み出していく予定なの?」
首を傾げてベルが問う。顔を上げた二神はぱちぱちと瞬いた。
『いえ、暫くその予定はありません。まずこの世界は傷んで修復中ですし、先住のあなた方も居ます。最優先は世界の修復、それから新人類ですが……』
「そうか……新人類が……」
神が就任したのだから、また人間が増える可能性はあるのだ。想像して、少しリョウが難しい顔をした。以前の世界のように、大勢の弱き人間達に差別されて居場所を奪われるのは怖いと思った。それを見越したように、カピバラの神が微笑む。
『……新人類をもし生み出すのであれば、あなた方と同じように強き者として設計する予定です。そうすれば、全員対等でいられるでしょう?』
「……!」
『そうしたじんるいをせっけいするのはむずかしいので、とてもじかんがかかります。たくさんもいちどにはつくれません。なので、ずっとさきですよ』
「良かったあ……!」
リョウが胸を撫でおろす。マーモットの神も微笑んだ。
『それに設計を開始する時は世界の状態と、皆さんにご相談の上で進めたいと思っています。どうかご安心ください』
「ふん、なら良くってよ」
ベルも納得したようで頷いた。
『それで……お約束していた褒賞は以上なのですが……』
『なのですが……』
「おお?」
神達がもじもじとしはじめる。全員不思議そうにする中、ケンだけが目を輝かせてソファから勢い良く背を起こした。
「何だ! 此度の我らの活躍に感謝してカピモットの神達からも謝礼があるだと!? 我らの偉業を称えて銅像――いや、金、いや、金剛石……オリハルコン像を建造するだと!? 苦しゅうないぞ!?」
「ケンさんちょっと流石にオリハルコンは厚かましくなぁい!?」
「像とかクッッッッソ要らんだろ! 他のもんにしろよ!」
『像が良いのですか!?』
「像はちょっと……!」
「あなた達、ひとまず先を聞きなさいな」
ベルの声掛けに、一同座り直す。改めて神達がもじもじする。
『私達にも力の限界がありますし、神々の制約もありますので“何でも”という訳にはいきませんが。“七人の村の仲間”達にひとりひとつ、出来うる限り』
『なにか、ねがいや、ほしいものがおありでしたら』
『今回の御礼に二人で叶えさせて頂こうと思っております』
「モイ……ッ!?」
『はい、あなたたちもですよ。そうだんしてひとつ、きめてくださいね』
“七人の村の仲間”と聞こえて小人達がざわめく。微笑んで頷くマーモットの神の言葉に、モイモイ騒ぎ始めた。
「ねえ、願いを3つに増やして欲しいというお願いは出来るのかしら?」
「何と慎ましいのだベル嬢! 俺は10個で聞こうと思っていたのに!」
『あっ、そういう裏技は無しでお願いします……! ひとつ、ひとつで……!』
「そう……」
「そうか……」
「おまえら厚かまし過ぎだろ……!?」
ケンとベルが舌打ちする。ガンが理解出来ないものを見るような目で諫めた。
「えーっ! 滅茶苦茶嬉しいんだけど……! 神様にお願いできるの……!?」
「リョウ、これはちょっと……高まりますね!? 今まで入手出来なかったアレやソレが……!?」
「そうなんだよカイさぁん……!」
リョウとカイがきゃっきゃと両手を合わせて目をぎらつかせ始める。ケンもベルも真剣に悩み始めて欲しい物を吟味している様子だ。小人達もモイモイしている。ガンだけが戸惑った様子で皆を眺めてから、神達を見る。
「……えーと、欲しいもんが無い時ってどうしたら良い? 誰かにおれの分遣っていいのか?」
「ガンさん! 俺が貰ってやろうか!?」
「ガンさん!? 防具強化して貰えば!?」
「ガンナー……! 防具とか何かあるでしょう!?」
「ガンナー! わたくしが貰ってあげてもよくってよ!」
「モイィィ!? モイッモイイイ!」
「………………」
『………………譲渡は無しにしましょうね。無しです』
『…………ごそうだんには、のりますし、ゆっくりかんがえてもらえれば……』
「…………おう、そうだな」
ひとまず、全員1週間後に望みを確認する事になった。
それから全員で戦場の使い方のレクチャーを受け、そろそろ神が戻るとなった所で――ベルが思い出したように言った。
「そうそう、大事な事を忘れていたわ。 神達、丁度良いから立ち合いなさい」
『……?』
『……なんでしょう?』
答えずベルが小人達へ向き直る。怖い顔をしていた。
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