105 小休止

「おお、やったぞ!」

「やったぜリョウ!」

「リョウ、頑張りましたね……!」

「よくやったわ……!」

「モイモイモイー!」

 

 リョウの勝利にコントロールセンターはどっと湧いた。神達もドッキングを解いて、床にへたり込む。


『ああ、ああ……良かった……! リョウ……! ありがとうございます……!』

『これですべてのたましいたちが、すくわれました……!』


「あなた達ほんっっっと役に立たなかったわね!」

「ちょ、ベル……!」

「ま、まあ! まあ! 神達も一応全身引き裂かれていた訳ですから、すぐに本調子は出せなかったのでは……!? ねっ!?」

「わはは! まあ終わりよければ総てよしでよかろう!」


 改めて神達を詰めそうなベルを押し留める内に、リョウが戻って来る。


「わ、みんな居る……!」

「おまえで最後だったんだよ」

「オホホ! 皆で観戦していてよ!」

「私とリョウが最後だったみたいです」

「そうだったんだ……!」


 全員居る。完全に無傷という訳ではなさそうだが、揃っている。つまり全員勝利したという事なんだろう。リョウが深い安堵に胸を撫でおろした。


「良かった、皆無事で良かった……!」

「おまえやカイがボコられてる時、見てたのに増援行けなくて悪かったな。ケンが止めるからさ……」

「や、僕もガンさん一対二なのに助けに行けなくて……というかケンさん?」


 ケンを見る。腕組みして滅茶苦茶偉そうにしていた。

 

「カイさんもリョウさんも! 双方自力で男子おのことして更なる覚醒を得たようで何より!」

「…………いや、うん……」

「ええ……まあ……」

 

 カイもリョウもケンのいつものアレかと理解し、したものの、けど流石にこういう時にする……? という気持ちが否めずやや歯切れが悪くなる。


「まさか!? 増援が欲しかったのか!? 立派な男子が!? 一対一で!?」

「いや、いやあ……うん! 要らなかったです! 男子としてひとつ成長出来たしね!? 今回は……うん、まあ……ノーカンかな……!?」

「そ、そうです……ね……?」

「濁すな! 言い切れ!」

「増援なんか要りませんでした! 僕は男子としてやり遂げてきましたァ!」

「私も同じくやり遂げて参りました! 増援は不要でしたァ!」

「よろしい!」


「…………あのたまに発生するケンの男子塾おのこじゅく何なんだ?」

「オホホ! 殿方には必要な成長過程という事よ!」


 ガンが分からん顔をしたまま、結局ケンがカイとリョウを押し切った。


「カイ、リョウ、いらっしゃい。治療をしてあげるわ」

「あ、ありがとう! けど先に――」


 ベルの促しにリョウが、思い出したようにマーモットの神へと向き直る。向き直る前にゴールデン化したカピバラの神を二度見したが、ひとまずマーモットの神へと向き直る。


「えーっと、初めまして、だよね? 最初の世界の神様、で良いかな?」

『はい、おはつにおめにかかります。このたびは、たいへんなごめいわくを……』

「や、大変だったけど結果良ければ……という事で。これ、どうぞ」


 取り返して来た神の一部をマーモットの神へと差し出す。カイが取り戻して来た分と合わせて、これで二神が完璧な状態に戻る筈だった。

 全員がハッとして、マーモットの神を見る。ゴールデン化するかもしれない。


『ありがとうございます……』


 つぶらな瞳で、ふくふくとした頬を震わせマーモットの神が一部を受け取る。全員が無駄に緊張して見守る中、一部を胸に収めるように押し込んだマーモットの神が辺りに光を放って輝いた。光が収まるとそこには。


「ほう!」

「わあ! レインボー!」

「ゲーミングマーモットじゃねえかよ!」

「神々しいというか派手というか……!?」

「虹色の輝き、良くってよ……!」


 ゴールデンならぬレインボーの輝きを放つ、ゲーミングキーボードの如きマーモットがそこに居た。皆の視線を受けて、少しはにかんでいる。


『ああ、我が友……! 皆さん、本当に、本当にありがとうございました……!』

『みなさん、ほんとうにありがとうございます。たくさんごめいわくをかけてしまって、ごめんなさい』


 ゴールデンとレインボーのカピバラとマーモットが寄り添い、皆に深々とお辞儀をする。仲睦まじい様子に、ベル以外は全員ほっこりした。


「今後の事など積もる話はあるが、ひとまず皆治療と休息が先だな。カピバラの神とマーモットの神も、分かたれた力を馴染ませる時間が必要だろう」

「んだな。ひとまず飯食って寝てえわ」

「僕も割と限界でぇす」

「では、事後処理などは後日にして――ひとまず休みましょうか」

「そうね、話し合いより今は治療を優先したいわ」


 それぞれ頷き、神達も深々感謝を表しながら同意した。

 ひとまず、全員治療と休養に専念し、今後の事は後日話し合う事にする。



 * * *



 ――――丸二日後。小人達も含め、全員ツリーハウスの集会所に集まっていた。神達は一度詳細な報告をする為天界へ戻り、今日また合流する事になっている。その合流を待っている所だ。


「ベルさんの薬のお陰で前より回復早い気がするぅ……!」

「オホホ! そうでしょうそうでしょう! ひれ伏して感謝するが良いわ!」

「ひれ伏さないと駄目!?」


 リョウが元気そうに腕を回して調子を確かめている。その横でベルが高笑い、向かいのソファではガンが爆睡していた。その隣でケンが小人の焼いたマフィンを両手に持って頬張っている。


「ふぅむ、今回は中々腹が減ったな。幾らでも食べられるぞ!」

「ケンでも消耗するのですねえ。お茶が入りましたよ」

「うむ、御苦労!」


 カイが全員分の紅茶、小人達が追加の茶菓子を用意し配っていく。


「ガンナーはまだ寝ていますか」

「カピ神さん達が来たら起きるって寝る前に言ってたよ」

「回復の為とはいえ寝過ぎだろう! 全然俺の相手をしてくれんのだ!」

「ケン様、回復中は流石にわがまま言わないのよ……!」

「ほらケンさん、僕とカイさんが相手してあげるから……!」


 既に全快して元気が有り余っているケンの相手をしている内、不意に集会所の中央に光の塊が浮かび上がった。


「あっ、来たんじゃない!?」

「あら」

『お待たせしてしまったようで……! 申し訳ございません……!』

『おまたせしてしまいました……!』

「ほらガンさん起きろ! 神達が来たぞ!」

「んァ゛ァ……」


 浮かんだ光が少しずつ膨れ、神の輪郭を作りながら床へ着地していく。揺り起こされて目を擦りながら、何とか起きたガンが神達を見遣った。


「……誰だよこいつら。カピ神とマモ神が来たら起こせッつっただろ……」


 そのまま二度寝に入ろうとした。


『いえ! 我々です!』

『まぎらわしくてすみません!? これがしんのすがたです!』

「ガンさん! 真の姿らしいぞ!」

「えっ、え~! 人型じゃん!」

「おや、これは可愛らしい……!」


 リョウとカイが思わずほっこりした。ベルは難しい顔をし、ガンは眠そうな半眼で神達を見ている。ガンが寝ないようしっかり揺さぶってからケンも神達を見た。

 真の姿というだけあって、今回は獣ではなくちゃんと人型だった。二神とも白い一枚布を巻いたような神っぽい服を着ており、カピバラの神の方は黄金の豊かな巻き毛で、マーモットの神の方は虹色の髪を長く垂らしていた。つぶらな瞳と毛色には何となく名残がある。


「何と! 子供ではないか!」


 ケンが叫んだ通り、二人とも子供であった。神だから実年齢はまた別なのだろうが、カピバラの神は十歳位の男児、マーモットの神の方は六歳位の女児に見える。


『はい。人間と同じ年齢ではありませんが、神の中では若い方です』

『わたしたちがみじゅくなせいで、たくさんしっぱいをしてしまいました。すみません……』

「…………ッッ、」

「ベル……?」

 

 ベルが、難しい顔を通り越して険しい顔で両手をわきわきさせる。また烈火の如く責任追及を始めるのではないかとカイが心配そうに様子を窺ったが。


「ッッ……! 若過ぎる、未熟過ぎる……! これじゃ難癖付けて怒れないじゃないの……ッ!」


 大変に悔しそうな声が聞こえて、思わず笑ってしまった。

 ともあれ、神達にもお茶と茶菓子を出して、事の顛末を聞く事にする。

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