05 拠点作り

 まず洞窟前の整地を行う事にした。

 洞窟前は地形としては平地だが、伸びた草や大小の木が幾つも生え、大きな岩が幾つも突き出し勝手が悪い。


「後で作業したいし、まずちょっとこの辺り綺麗にしようか」

「外出た一歩目から仕事があってウケたわ」

「あは、ごめん。洞窟も野宿には向いているんだけど、此処のはそんなに広くないし、色々しようと思うと煙も出るし広さも欲しいし、やっぱりちゃんとした作業場が欲しいなって」


 暫くは此処が拠点だろうし、と話しながら。

 作業範囲を定めるよう歩いていく。


「美味い料理を作るには場所も要るという事だな! ガンさん、頑張ろう!」

「頑張りまァす」


「……ありがとう、じゃあそっちから此処まで位の距離で、まあ広さは大体で良いんだけど。岩や大き目の石は退かして一か所にまとめて下さい。草や小さな樹は刃物で刈ってまとめます。毒蛇とか毒虫が隠れてる場合もあるから素手はお勧めしないんだけど――まあ僕ら毒効かないしね。大きい樹はそのままで。剥き出しの土広場を作るようなイメージだよ」


 広さを決め、身振り手振りを交えて指示を出す。二人も頷き動き出した。


「分かった。おいケン、おまえ馬鹿力だし岩係な」

「ああ、心得た!」

「大変だけど、三人でやれば早く終わるよ。あ、そういえば此処って天候はどう?」

「……んん、そうだな。だいぶ気まぐれだ。晴れてる日もあるが、突然すげえ雷雨になったり、一日中降る事もある。ただ雨は午後のが多いかな」

「うむ、ガンさんに会う前からもそんな感じだ」

「なるほど」


 それなら作業場に屋根は必須だなと考えつつ、自分も腰から剣を引き抜いて草を刈る。刈りながら、ふと二人の様子を見る。

 ガンの方はまあ普通に草を刈っていた。ケンの方は大岩を軽々と幾つも抱えて運んでいる。


「いやもう、フィジカル突き抜けてるだろうし予想内ではあるんだけどさ……通り越して面白いんだよな……」


 キリが無いから深掘りすまい、と首を振り作業に専念した。

 草木を刈った後は落ち葉一枚残さずに、即席の竹箒で掃き清める。集めた草木は一か所にまとめて燃やしてしまう。毒虫や毒蛇が隠れる場所を無くし、接近があればすぐ気付けるようにだ。毒は効かないのだが一応作法通りにする。

 最後に広場を囲むよう、排水溝を掘り川側の地面に雨が降っても流れていくようにする。


 時折雑談も交えつつ、それはもう異常に早く整地は終わった。

 ケンの力だけではない。残りの二人もこの程度で集中は途切れず、一切パフォーマンスも衰えず、慣れれば慣れるほど処理速度も上がっていった結果だった。結局三人共とんでもないのだ。


「ふう、この位で十分だな。良い感じだ、二人ともありがとう」

「こん位全然、何でもねえよ」

「ああ、久しぶりの作業で寧ろすごく楽しい!」

「元気で何より。じゃあ次は――」

「なあ、新入りさん」

「なんだいケンさん?」

「ついでに水場までの道も作ってしまうのはどうだろう。行き来も楽になるし、二人が他事をしている間に俺一人で出来ると思うのだが」

「確かに……」


 水場までは直線で50mも無いが、道が無いため行き来は手間だった。


「じゃあ、お願いしてもいいかな。一人だなんて悪い気がするけど……」

「よく見ろ新入り。おれもはじめケンにしては気が利いた事言うなって思ったけど、開拓楽しかったからもっとやりたい!やらせろ!って面だぞこれ」

「わはは、ばれたか!その通りなんだ!」

「わあ、ほんとだ。じゃあ気兼ねなくお願いします」

「心得た!」


 ケンが嬉しげに水場方面を開拓し始める。鼻歌まで聞こえて本当に楽しそうだった。


「んでおれらは何すんだ」

「そうだなあ。狩りに時間が掛かりそうなら、別で行って貰ってる間に僕が此処の作業をしても良いんだけど」

「肉だろ?獲るだけなら半時も掛かんねえぞ」

「えっすごい。じゃあそれは僕も見学したいので、一緒にまず作業をしよう」

「おう」


 二人で真っ直ぐな竹を何本も切り出してくる。柱用、これは加工用と並べていると、物珍しそうにガンが覗き込んできた。


「これは何つう樹? 植物なんだ?」

「これは竹といいます。世界が違うから厳密には違うのかもしれないけど、見た感じ元の世界と一緒の気がするなあ。色んな種類があるよ」

「へええ」

「生えてない土地もあるんだけど、すごく便利でさ。ほら」


 実演するよう、枝を落とし両端に節を残すようにして断つ。

 それを更に半分と、縦に割って並べて見せる。


「こうすると、コップや皿の代わりになったりする」

「うおーすげえ! 中が空洞になってんのか!」

「そうそう、水筒や煮炊きにも使えるし、小屋や籠も作れる」

「なんだそれ、万能じゃん」

「っふふ、そうだね」


 聞く限りガンの居た世界は自然が縁遠いようだったから、本当に知らないし興味深いのだろう。鋭い顔立ちなのに、今は夢中で物を教わる子供の色をしている。


「色々作れるから、一緒に覚えよう。これをこうして――」

「おう、おう」


 竹を細く薄く割り、紐代わりのストラップを大量に作る。穴を掘り柱の根元を埋め立て、残していた大きい樹と梁をわたして小屋状の骨組みを作る。

 それらをストラップで括って固定する。続いて屋根部分に格子状に梁を置いてまた固定する――と、地味で手間と時間が掛かる作業だったが、二人で行った事もあるし、ガンの飲み込みが早い事もあってこれまた普通より早く仕上がった。


「……いや、本当早い。普通の人と作る数倍は早い。素晴らしい」

「なあ新入り、これ屋根スッカスカじゃん」

「ああ、これは後で椰子の葉で屋根を作ります。大丈夫だよ」

「椰子。分かんねーけどすげえなあ……」


「ガンさんは飲み込みも早いし、こういう物づくりに向いてるかもしれないな。楽しそうだし」

「そうか?……そんなら嬉しいな」


 未だしげしげと、屋根なしの骨組みを見上げていた顔が振り返る。

 今まで見た事の無い、嬉しそうにはにかんだ顔をしていた。


「おれはさ、……いや、まだ完成してねえな。してから言うわ」

「……?」

「ほら、屋根作るんだろ。椰子だか何だか知らねえけど行こうぜ」

「ああ、うん。じゃあ葉を採りに行こう」

「おう。ついでに狩りも出来たらしちまうかァ」

「ほんとガンさん気軽に言うから見学めちゃくちゃ楽しみなんだけど」

「おれは屋根の方が楽しみだよ」


 気になったが、ばんと背中を叩かれ歩き出す。

 ガンは気軽に言うが、狩猟は通常難しく時間も掛かるものだ。だがそれもきっと、今から謎が解けるんだろう。

 狩りと屋根、それぞれわくわくしながら二人は樹海に潜っていった。

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