04 戦力把握

 夜明けと共に起き出し、三人は今日の予定の相談を始めた。

 まだ辺りは薄暗く霧がかっていたが、賑やかな鳥獣の気配が一日の始まりを感じさせる。これから徐々に明るくなっていくだろう。


「何からはじめるのが良いかな……肉か魚は欲しいし、採集もしたい所だ。いやけどその前に……」

「今日はおれらァおまえの助手だからな。何でもするぜ」

「そうだぞ!何でも言うといい!」


 考え込む前で、ケンとガンがわくわくと指示待ちの助手の顔をしている。その様子にちょっと笑ってしまいつつ、ふと。


「そういえば、昨日は何の肉だったんだ?」

「あれか、確か4つ足の動物だったな。全身毛が生えてた」

「ははっ、ガンさんは動物も植物も全然詳しくないんだ! あれは確か山羊か鹿か猪かそのような感じの肉だったと思う!」

「煩えなお前もふわっとしてんじゃねえかよ! おれの世界じゃこんな自然環境は記録でしか無かったの!詳しい訳ねーだろ!」

「相変わらずガンさんの世界がめちゃくちゃ気になるんだけど今広げる話じゃないんだよなあ……ひとまず食用になる獣は居る、と」


 これから離れる間に焚き火が消えないよう、整えながらふむふむと。


「ちなみに昨日の肉以外、他に何を食べてたとか、というか二人ともこういう野宿や野営の経験はどんな感じなんだろう?」


 実は昨日から気になっていた。ケンとガンが合流してから半月ほどと聞くが、この拠点には焚き火しかなく、水を汲む器すらなかった。すぐ近くには幾らでも生活を向上させる植物が生えていたというのに。

 また昨日出された肉も保存方法というか捌き方というか調理法が残念というか、この二人はサバイバルに慣れていないのではないか?という疑念だ。

 今のやり取りで更に疑念が後押しされている。


「……なるほど、戦力把握だな。わかった」


 ガンが意図を察したように、深く頷いて座り直す。


「おれは軍人だったから、サバイバル訓練ってのは受けてんだよ一応。けど、この世界は環境が違い過ぎてマジで役に立たねえ。おれの居た世界はな、こういう自然環境はもう無いんだ。すげー昔の記録として残ってる位でさ」


 会話を聞いてケンも察したようで、腕を組んで話を聞いている。


「だが、生きるのに必要な栄養や要素は変わんねえだろ。火と水はある。地べたで寝んのだって慣れてる。だからとりあえず必要栄養素持ってそうな動植物を解析して適当に食ってた。味は二の次だ」

「そうか、ガンさんがしつこく勧めてきたあの不味い草にはそういう意図があったんだな……!」

「そうだよ。あ、あと狩猟はすげえ得意だと思う。狩るまでな。そっから先はケンがなんやかんやしてたから分かんねえ。おれは、そんなもんかな」


 次はおまえの番、とばかりにガンがケンを促す。


「俺の番か! 俺はそうだな……すべて薄っすらとしている」

「薄っすら」

「薄っすら」


 思わずハモる。ケンは自分の番が来て嬉しそうにしていたのは最初だけ、今はどう説明したものかと唸っている。


「ふうむ、どう説明したら良いかな。ガンさんみたいに説明出来たら良いのだが。……まず、そうだな、俺は王をしていたんだ」

「王」

「王様」

「そういや世界征服とか言ってたな」

「ガンさんそのワード気になっちゃうから今はやめてほしい」

「ああいや、それは後の話でな!」

「後ではするんだ、世界征服……」

「新入り、話が進まねえからやめよう……」

「はい……ケンさん、どうぞ続けて」


「うむ!最初は本当に貧しい小国の王でな。その頃は狩りに農業畜産、土木治水に兵の鍛錬だの色んな事の手伝いをしていたから野宿もあった」

「王様めちゃくちゃ働かされててウケるんだが」

「ガンさん!しっ!」

「これきついってェ……!」


 思わず突っ込んでしまわないよう、二人で口を押え唇を引き結ぶ。その様子が愉快だったか、段々とケンに笑顔が戻って話は続く。


「ふふ、それでな。長い戦が始まって、野営も数え切れないくらいした。こういう自然環境に置かれた事もあったように思う。だから色々経験はしている筈なんだ。だが段々勝って領土が増えて――ええと、偉くなると設営や雑務からは遠ざかっていくだろう」


 口を押えたまま、二人がこくこくと頷く。


「まずそれで記憶が薄まった所に、世界征服を終えてしまうと後は治世というか、もう完全に遠ざかってしまう訳だ。それが千年も続いてしまうともう本当に、記憶の彼方というか。とても薄っすらしている……」

「端折りがすごいし千年って言った!ワード増やさないでケンさん!」

「千歳越えか!ジジイが過ぎる!」

「ああ、途中で不老の祝福を授かってな!不死ではないから安心して欲しい!」


 努力はしたが堪えられなかった。

 ガンは耐えきれず転がったし、新入りは床を叩いて呻いている。


「あとそうだ。調理に関しては、女達や料理人の仕事だったから、目にする位で経験はしていない。こんな所だな」

「……な、るほど…………つまり、昨日の肉は……薄っすらした経験で捌き、薄っすらした見よう見まねの記憶で焼いたと……ガンさんもそれを見て学習し……今がある……と…………!」

「うむ、そうだな!」

「ああ、そうだよ……!」

「わかっ……たよ……!」


 何とか色んな衝動を堪え、姿勢を正す。ガンも立て直しているようだった。ケンはにこにことしている。


「……ええと、じゃあ、二人に聞いておいて自分が言わないのもフェアじゃないから、僕のことも少し」

「お、聞きてえ~!」

「うむ!次は新入りさんだ!」


「僕は昨日も話した通り、勇者として魔王を倒すための旅をしていたんだ。倒したら次が出てくるみたいな感じで、十年以上は魔王が現れる毎に旅をした。それこそ世界中を巡ったと思う」

「世界中に魔王出すぎじゃね? 害虫か何か?」

「勇者と魔王の数、バランス悪くないか?」

「いやもうそういうツッコミやめよう? 続けます! 基本野宿なのと、立ち寄る先で色んな方法を教わったりもしているから、今の二人よりは詳しいと思う。それに魔王討伐の後もずっと旅をしていたから、薄っすらではなく現役です」


 そこまで告げて、立ち上がる。

 咳ばらいをひとつ。それから二人を招くように手を出す。


「期待をされ過ぎては困るけど、今よりはましな生活が出来ると思う。……けど一人じゃ手間な事ばかりだ。手伝ってくれると嬉しい。行こう、二人とも」


 ニッと笑うと、二人も笑って腰をあげた。


「ひひ、今日はおれらァおまえの助手だからな。何でもしてやるぜ」

「ああそうだ。何でも言うといい!」


 相談はまとまり、三人は行動を開始した。

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