□□□の場合⑦


 ぶじレベル100を達成し小屋に戻る。室内には変わらず三人がいた。


 室内で。決闘していた。


 厳密には決闘していたのはヴルシェとリューであり、ペルメスはそんな二人が同じ狭い空間にいるにも関わらず、大胆にも床に寝転がっていた。しかし斬り合いで部屋じゅうを飛び回っている二人を、上手く避けながら眠り続けているようだ。


「……あの、何してんですか」


 ゲンはカイを後ろに下がらせながら言う。ヴルシェは彼に気づくと足を止め、「ああコレ? コレは呪具――」透かさずリューが繰り出した猛攻を、簡単にいなして距離を取る。「――‘メイ器’ウツワだよ」


「そんなことは訊いてないです」


「そんなことって。ちょっと相手してただけだよ」ヴルシェは顔の向きを変えずリューのいる方向へ呪具を投げた。再度斬りかかろうとしていたリューは飛んできた剣を自分の剣で受け、ヴルシェが丸腰になったことを知るとそのまま足を止め、剣を収めた。「それで、レベルは?」


「100になりましたよ」


 ついでに限界突破も済ませ、カイのスキルはゲンと同じく【天元突破】となっている。



 …………。


「「…………?」」


 ゲンとカイは首を傾げる。


 二人が分かっていないまま、ヴルシェは自分の頭に手を伸ばし――三本ある角のうち二本の先端を、小刀で斬り落とす。そのふた欠片を、ゲンとカイ、それぞれに差し出した。


「えっと……」ゲンは視線でヴルシェに説明を促す。


「食べてよ」


「食べる?」


「経験値。これが一番、効率がいいと思うから」


「……どうして最初から渡さなかったんですか」斬ってしまった以上は元に戻せないためとりあえず受け取りながらも、そう言うゲン。溢れた経験値は持ち越せるのだから、渡す気だったのなら、わざわざレベル32から100まで上げる必要はなかっただろう。


「なんでキミにも渡してると思ってんの。二人共、120


 カイが前に出て伸ばしていた手を、ぴたと止める。


 この欠片一つで、20レベル、それも100から120まで上がるとヴルシェ言っている。


 それは、その辺の石など目ではない、とんでもない量の経験値である。レベル120といえば、フウだったり、“白い杖”のメンバーだったりが思い浮かぶが、彼らはそれだけ強かった。経験値とは自分の経験を指さないとはいえ、経験を積まなくていい訳ではない。彼らが日々努力して得ていった大量の経験値を、この、たったひと欠片で。


「レベル100→120は確実に上がるよ。それ以上は分からないけど」


 ヴルシェは追い打ちをかけるように言う。


 もはやスケールが大きすぎて分からない。ゲンはカイに目配せをし、観念して――同時に、口に入れた。


 こくん、と喉を通っていく。


「ほら、確認して」


 ヴルシェが急かす。リューは何も言わずただ様子を見守っていて、ペルメスはそもそもまだ眠っている。



『スキル【天元突破】 lv.120。

 スキルのレベルが最大です。』



 確かに、レベル120となっている、しかし、


「レベル30台とかだとこの急激な経験値供給に耐えられないんだよね」そう、レベル100→120には大量の経験値が必要で一般にはレベル1→90の五~六倍とされている、つまりレベル30程度で食べれば一気にレベル110くらいに上がるほどの経験値が入り、それは確かに負担になりそうだ。しかし、


「キミもいる?」「いらん」ヴルシェの言葉にリューはそうとだけ返す、楽しそうに戦っていたがまだ打ち解けてはいないようである、それはいいのだが、しかし、



 


 


 今まではレベルが最大になっている場合は必ずその言葉が聞こえていたはずだ――と思ったが、そうだ、言葉がなかった時が、二度あった。すなわち、


 フウの、レベル120を確認した時と、


 ロイツのレベル150を確認した時だ。


 あの時は使用するかどうかという文言はなかった、それはその時点でスキルを使用できなかったからだろう。フウのレベルを確認した時、ゲンのスキルはまだ【限界打破】だった。スキル【限界打破】ではレベル120の限界は突破できない。またロイツのレベルを確認した時、ゲンのスキルは【天元突破】――つまりレベル120の限界を突破できるスキルだ。レベル150より上が存在するかは分からないが、あるとしたら【天元突破】の一つ上の段階のスキルが必要だろう。そしてそんなスキルがあるとしたら、『』、それに則るなら、この限界を突破できなくてはならない、つまりスキルを使用するかどうか訊いてもらわなければならない。しかし訊いてこないということは、レベルはここで打ち止めなのだろうか。そうとは考えにくい。なぜなら限界突破スキルもあくまで他のスキルと基本は変わらない。つまりレベル120の上限を他のスキルが突破できる以上、自身もレベル120の先があるはずである。ではなぜ使用するか訊いてこないのかという最初の疑問に立ち返ることになる。


 ゲンが頭の中でぐるぐると考えていると、痺れを切らしたヴルシェが、


「とっとと『限界突破』してよ」


 と言ってきた。


「あの、ヴルシェさん、その――」ゲンはちらとカイを見る。彼女も恐らくゲンと同じことに気づいている。「もう限界突破できないみたいで」




だって言ったでしょ」




 それは――確かに言っていた。ヴルシェがカイも連れて帰ると言い出した時に。あの時点では意味が分からなくて無視していたが、


、ってことですか」


「物分かりがいいね」


 ヴルシェは満足そうに笑む。


 ゲンは再びカイを見遣る。彼女もゲンの言葉で理解できたようで、すっと右手を伸ばす。ゲンも応じて右手を伸ばし、


 互いの胸に手をかざした。



『『スキル【天元突破】 lv.120。

 スキルのレベルが最大です。

 スキルレベルの限界突破が可能です。

 スキル【天元突破】を使用しますか?』』



「「――使用」」



『『スキル【天元突破】を使用。

 スキル【天元突破】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【天元突破】はスキル【天元打破】に進化しました。』』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る