●●●●の場合③
そう、忘れていた。
ゲンの身体は真っ二つになった――多くがそれを目撃していた。
死亡したとしてパーティから除籍されたのだ。最初に聞いた時は今までの二度の追放が頭をよぎったが、死亡扱いなら当然の対応だ。
魔人と死者の二人組。
どうにも動きづらくなってしまった。
「どうするの?」呑気に尋ねるヴルシェは何も発案してくれそうにない。とはいえ発案も何も、これからすることといえば自分たちの足で地道に探すくらいしかない。ここで待っていてもいいのだが今ので少し居づらくなった。会館の前で待つか、探しにいくか。
「おい、お前」
その時。
食堂から出てきた強面の男に話しかけられた。背中に大剣が一本見える。
「俺のパーティに入らないか」
彼は言った。見れば後ろに数人、これまた強そうなメンバーたちが控えている。そう、勧誘である。非戦闘員の受付が反応したほどの強者を、実力ある冒険者たちが見逃すはずがない。他にもいくつかヴルシェを狙っていたパーティはあったようだが、先を越されたことを知ると遠巻きに動向を見守る姿勢を取る。
「え、誰キミ」
ヴルシェは声をかけてきた男に対してそう返した。提案を受け入れるでも拒むでもなく、なぜか相手を煽る。
「おい、この方を知らねーのかあ!? この方は超級パーティ“
「そんな名前を聞いたことが、あったようななかったような……」
彼も特に知らなかった。
二人の反応にカチンと来たらしいその男、モークツは、
「スキル
そう言って、受付前の共用スペースだというのに背中の大剣を抜いた。その剣――それこそが、彼の強さの芯、源だというのが分かった。かなり使い込まれているようで、刃毀れしているが、そんな劣化を感じさせないほどの気魄がこもっている。剣に、である。しかしゲンにとってそれは目新しいことではなかった、彼は似たものを知っている、似た『呪具』を――
「
ヴルシェは。ようやくモークツに興味を持ったようで、立ち上がり、
「来なよ」
斜めに立って、挑発した。
モークツは問答無用で剣を振り上げた。ゲンと、モークツの仲間たちはすぐ二人から離れた。ゲンはヴルシェの後ろを回り、受付の前に立つ。
剣が振り下ろされる。ヴルシェは避けようとも受けようともしない。ただ止まって、自分の脳天に落ちてくる剣を観察している。
「
言いかけて、ゲンはその名が会館に知られていることを思い出し、口を噤んだ。剣はまっすぐ、ヴルシェの頭へ――
当たった、
ところから、
崩れていった、
砕け散った、
どんどん、
剣の形でない、鋼の塊が生み出されていく。床に落ちる度にがんがちゃと音を立てた。受付の女性は小さく「きゃ」と声を上げる。
刃が全て砕け終えて、その場は静寂に包まれる。ヴルシェを除く全員が呆然と立っていた。ヴルシェはかがんで、「少し貰お」と言い欠片をいくつか拾う。人間たちは動けない。何が起こったのか、それはモークツたちは勿論、ゲンも分かっていない。しかし彼には、この場をすぐに去ったほうがいいことはよく理解できた。魔人と死者の二人組――しかも、会館の冒険者と問題を起こした。冒険者同士の喧嘩はたまにあるが、それは会館の規則で裁かれる。しかしヴルシェは何にも属しておらず、あまつさえ魔人である。
「大丈夫でしたか。すいませんでした」ゲンは受付にそれだけ言い残し、床に傷がついていないことを確認すると、すぐヴルシェに駆け寄った。「もう戻りましょう」
「え? 情報収集は?」
「言ってる場合ですか」
「こんにちはー――うわ、何だこれ」
そこへ。
現れたのは冒険者ではなさそうなひょろっと背の高い男だ。にこにこと笑っているがその奥の真の感情は窺えない――
「――ヒッツさん」
「ん? お、ゲン! 久し振り」
ヒッツ・ガイスト。“オリーブの鱗”の
*
とりあえず、ヒッツの防具屋に行くことになった。ヒッツはパーティ活動休止以後、元々勤めていた防具屋に戻ったと聞いていたが、それなら会館に何をしに着たのだろうと思ったら、冒険者たちの壊れた武器や防具を回収するつもりだったらしい。モークツの粉々になった剣もヒッツが集めて持ち帰った。
「悪かったな、あの時は。そのツケなのか“オリーブの鱗”自体がなくなったから、償いも何もできないけど」店の裏のほうに二人を通して、ヒッツは言う。どうも彼にはまだ、ゲンの死は伝わっていないようである。
「そういえば、リーダー――リョーとかフウには会った?」
やはりそうだ。ヒッツがフウと会ったなら、ゲンの話になるに決まっている。ゲンはフウの目の前で命を落としたのだ――まあ実際には生きているが、知らないということは解散してから会っていないのだ。なら、フウはどこにいるのだろう。
「一応会いました」「ゲン、コイツ誰」ヴルシェが遠慮なく尋ねる。「……ヒッツさん。僕とリョーさんの、元同じパーティのメンバーです」
「へー」
ヴルシェは自分で訊いた割に興味なさそうに返す。一方のヒッツは逆に興味を持ったようで、「リョーを知ってるのか。というか君こそ誰なんだ?」と問うた。
「ボク? ボクはヴルシェ、ゲンの飼いぬ――」
「い、今の仲間です」ゲンはヴルシェが余計なことを言いかけていたので慌てて被せて言う。「りょーさんも、今同じパーティにいて」
「うん? うん」
ゲンの態度を少し不自然に感じたものの、とりあえず頷くヒッツ。
「じゃあ何か、聞かせてくれよ。最近はほとんど店に籠もりきりだから――」
「こんちはー」
一人の女性が来店した。
「あ、いらっしゃい」ヒッツは客の顔を見るとすぐ応対しにいった。「どうです調子は」顔見知りのようで彼はそう声をかける。ゲンは表のほうに顔を出してみた。
「いい感じ。でももう少し指の関節が――」
彼女は。髪は短く、目つきは鋭い。着崩しているがその身に着けているのは修道服である。そしてその左腕は、
「…………」
フクシー・ブルートー。“白い杖”の
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