▲▲▲▲の場合②


「ボクたちがやってるのは、仲間捜し。募集じゃなくて、捜索ね」


 ヴルシェはそう説明した。


 場所は移動して、森の中に建っていた小屋の中。ちなみにヴルシェがクレミェにあげた『呪具』だそうだ。


「クレミェ、全然使ってないでしょ。こんなに埃が積もってる」


 ヴルシェは窓枠を人差し指でなぞってそんな小言を漏らす。


「ダルテリは使ってくれてるのに!」


「使い勝手の違い」クレミェは椅子を四脚用意した。「それから、埃の問題は解決した」言って、リョーを指す。


 リョーの尻尾は左右にゆらゆらと動き、床の埃を掃いていた。


「……私!? こ、これは不随意で動いてるのであって、動かしたい訳では――」


「なるほど、掃除しなくていいのか」ヴルシェは彼女の話は聞かずそう結論づけた。「まあそれじゃあ、話を始めようか」そして、出された椅子に座った。クレミェ、リョーにゲンも続いて腰かける。


「ボクの担当は、いなくなった仲間たちの所持品の捜索。あと最近は、魔人ボクたちの情報を人間キミたちに流してる、ヴィダツって奴を始末するために追ってる」


 ゲンは頷く。やはりソレが裏切り者で、最終的には――始末するらしい。


「私は見つけた者たちが再び行方が分からなくならないよう、追跡する」


 それが会合で言っていた、『標を付けた』という言葉の意味かと彼は考える。クレミェのスキルだろうか。


「じゃあ今日はクレミェのほうについていこうか。ボクのほうは一旦全部投げてあるから」ヴルシェがそう言い、視線がクレミェに集まる。


「ヴィヴェに会う」


 クレミェは端的に言った。ヴィヴェとは――先ほど出た名だ。『獵神』のモデルとなったという魔人。


「訊きそびれてたんですけど、私と、そのヴィヴェさんが会うのは大丈夫なんでしょうか」


 リョーが小さく手を挙げて言った。


「大丈夫っていうのは?」


 ヴルシェが訊き返す。


「えっと、『獵神』のモデルってことで――んー、差し迫った危機という訳ではないんですけど、何というか」


「『獵神』が神だとするとキミはさしずめ祭司なんだよ。だからむしろ、会ったほうがいいんじゃない?」ヴルシェは答えた。「まあ皆そうだけど、大層な名で呼ばれてたってだけで、実際は大したことないよ」そして笑う。


 ただ、大したことある魔人をヴルシェ含め何度も見たゲンにとっては笑えることではない。とはいえ魔人の仲間扱いをされている今、危害を加えられることはない――と思いたい。


「ただ問題点がある」


 クレミェは話を続ける。


「ヴィのスキルのせいで、近づくとバレて逃げられる」


「…………」


「…………」


「仕方ないねー」ヴルシェだけは呑気に言った。


「たまに機嫌がいい時は会ってくれるから、とりあえず向かう」


 クレミェは立ち上がり、続いて弟子を立たせる。リョーとゲンは同時に椅子を降りた。



   *



 かくして。


 連れていかれた場所に、その魔人はいた。


「あれ、いるじゃんヴィヴェ! 久し振りー」


 しんがりを務めていたヴルシェが建物内にその姿を認め、手を振った。


 魔人は、頭の左に、これまで見てきた中でも一際大きい、曲がりくねった角を、右に、それには劣るものの十分大きい――リョーの左角と同じくらいだ――角を生やしていて、部屋の真ん中でグラスを傾けている。建物は、古いバーのようだが魔人以外には誰もいない。


「よう」ヴィヴェは振り向かず右手を挙げて挨拶する。


「珍しい。私も会ったのは半年振り」


 クレミェが口を開く。ヴィヴェは「そうだな」と返し、


「だが貴様ではない、興味があるのはその人間二人だ」


 そこでようやく、来訪者たちのほうを見た。


 その目は――ひどく冷たいものであるように二人には思えた。価値を推している――ようなものではない、決めている価値通りか、照らし合わせている。作物の出来を調べる農家のほうがまだ温かい眼差しを提供するだろう。相変わらず魔人という存在は、人間と同じ形をしていながら全く違うモノである。




「『と――だな」




 …………?


 ゲンは首を傾げる。『獵神の信者』がリョーのことだとすれば、その後に言った『スヴァドの下僕しもべ』とは彼のことである。しかし――聞かない名だ。ゲンのスキルは霊系スキルではないし、一体どういうことなのだろう。


 と、




「ヴィヴェ」




 ヴルシェは、負けず劣らずの冷ややかさを発揮し、ヴィヴェとまみえる。


 ヴィヴェのほうは薄く笑うと、「ああ、――」と呟き、


「まあ話でもしよう、竜人」


 リョーに狙いを定め、そう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る