■■■■の場合①
ダルテリがキレて。
ヴルシェが宥めて。
ようやく会合が始まった――ダルテリが切り株に座り、その左にヴルシェ、その左にゲン、リョー、クレミェと続き円となって座る。
「ここ一年の報告からだ。俺はリェシャを捕捉した、引き続き監視する。
まずダルテリが言う。
「
続いてクレミェである。
「ペルメスとしばらく一緒にいたけど、
「簡潔に述べろ」ヴルシェの報告を遮りダルテリが言った。
「ハイハイ。会館の魔人リストを入手できたよ」
魔人リストとは恐らくロイツが言っていたものだとゲンは勘づく。人数くらいしか聞いていなかったためもう少し聞いておけばよかったかと彼は少し後悔した。先程から知らない名前がいくつも出てきている。
「いいだろう。ではそのリストについて詳しく聞こうか」
ダルテリは興味を持ったらしく続きを促した。
「うん。まず登録されてるのは死者を含めて全部で十七人。そのうち名前が割れてるのがボクとダルテリと
ゲンは――少し引っかかるものがあった。
「ヴレディがこの間ので登録されたばっかりで、最新だね。ヴィダツもヴレディは怖がるんだ」
ヴルシェは笑いながら言う。
「私はリェの話を聞きたい」クレミェが小さく挙手した。
「リェシャの面影はなかったがな。た
「ダルテリはリェシャに甘いからなあ」
「黙れ。お前からはないのか?」
「あ、あの」
ゲンはおずおずと手を挙げてみる。
「貴様に発言は許可していない」ダルテリがすぐに言った。
「まあまあ、いいでしょ質問の一つや二つ」
「一つ二つで済む訳がないだろう。知りたいことは後でヴルシェに訊け」
「えっと、その、だ、ダルテリさんに訊きたいことが一つあって……」ゲンはがんばって言葉を続ける。ようやく威圧感に慣れてきたので訊けそうな時を逃す訳にはいかない。そしてこの質問は恐らく、ダルテリに対してしかできない。
「ほら、答えてあげなよ」
ヴルシェは言い、
弟子の視線に気づいたクレミェも、「聞くだけ聞いたらいい」とゲンに加勢する。
リョーは小声で、「ありがと
「そうそう、答えるかどうかは別としてさ。ねえゲン」
彼としては当然答えてもらうために質問をするのだが、「まあ、あまり込み入った質問ではないのでとりあえず聞いて頂けたらと」と下手に出る。
形勢は四対一、魔人だけで見ても二対一である。ダルテリは舌打ちをしてから、
「言え」
とゲンに告げた。
「えっと、じゃあ――
――ダルテリさんは、どうしてあの森でノリアに、僕と一緒にいた女の子に、会いに来たんですか」
それは。
ゲンとリョーには分からなかったが、非常に込み入った、ごくごく私的な問題に関わる問だった。これには調子に乗っていたヴルシェもスンと真顔になった。
「近づくつもりはなかった」それでもダルテリは答えた。他の魔人二人は少し驚いて仲間を見る。「危害を加えるつもりもな。これは言っておこう」
「だったら」ゲンは、「どうして、フクシーさん――女性の腕を、斬り落としたんですか」そう尋ねた。
そこで魔人たちはそれこそ彼が訊きたかったことだと気づく。ダルテリは安心したように一つ息を吐くと、「あれは正当防衛だ。私が遠巻きにあの子供を見ていたら、女が私を狙って仕掛けてきた。腕はヴルシェに渡した」
「コレだね」
ヴルシェは言って、再び袖から例の鞄を取り出し、その中に左手を突っ込む。中から出てきたのは、手――左手。続く手首。下腕。肘。上腕――は、途中で切れていた。
「ダルテリに頼まれて呪具化してある。名づけて‘
それがヴルシェのスキル、【呪具贈与】。
ゲンの昂っていた感情は、とりあえず収まっていった。
「質問は一つと言ったな。なら以上だ、会合も終了する」ダルテリはそれだけ言うと、一番先にその場からいなくなった。ゲンに最初に会った際と同じだ。いつの間にかいて、瞬く間に消えてしまう。
「キミ度胸あるね。いきなりダルテリにつっかかるなんて」
ヴルシェはそうゲンを褒める。「ども……というか、結局、ヴルシェさんに訊けば済むことでしたね」
「それは結果論だよ。キミの発言で、ダルテリの中でのキミの評価が変わったはずだ。良い方向にか悪い方向にかは分からないけど。さあ、ヤツの話はもういいから、積もる話があるだろ」ヴルシェはニヤニヤしながら言ってゲンの背中をばしと叩いた。
「……ゲン」
ずっと隣で待っていたリョーが、口を開いた。
「えっと、」
リョーは。先程と同様に、まず彼に抱きつく。
「ごめんね。許してもらえる訳ないけど、というか許さなくていいけど、まずごめん。その上で言うことなんだけど――見違えたね。逞しくなったというか、頼り甲斐みたいなものがある」
その言葉は、ゲンにとって意外だった。再会したのに何も変わっていない姿を見せてしまったとすら思っていたからである。ただ彼女がそう感じたのならそうなのだろう、そう変えたのは、“白い杖”との出会いか、魔人たちとの出会いか、あるいは、
「“オリーブの鱗”に拾われてなかったら、今の僕はありませんよ」
彼はかつての仲間に言う。
「リョーさんたちが、僕が変わるキッカケだったんです」
それは感謝であり、
それは許しでもある。
ちに対してはない。説明がなかったとはいえ、自分を死なせないための決断だというのは分かったからだ。
「うん――そういうとこだよ」
彼女はゲンの左肩に顔を埋める。
「リョーさんは――重くなりましたよね」
ゲンが言った。
「は?」
「え?」
二人は顔を見合わせる。
「失言だね」ヴルシェは笑顔で言い、
クレミェは何も言わず二人を見る。
「いや、尻尾のぶん――」
ゲンは。
尻尾で思いっきり――弾き飛ばされたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます