フウ・ドリットの場合②


「今日はオレの番だな」


「……はい」とりあえずゲンは手を前に出す。



『スキル【不屈フ クツ】 lv.100。

 スキルのレベルが最大です。

 スキルレベルの限界突破が可能です。

 スキル【限界打破】を使用しますか?』



 レベルは100である。しかしヒッツの話によれば、既に次の限界、レベル120までのぶんの経験値を貯め終わっているらしい。


「――使用」



『スキル【限界打破】を使用。

 スキル【不屈】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【不屈】はスキル【不朽フキュウ】に進化しました。

 サブスキルが解放されます。

 サブスキル【三本目サンボンメ ウデ】を獲得しました。』



「【三本目の腕】ェ?」


 フウは頓狂な声を上げるが、その気持ちは分かる。腕が三本になるというのだ。「まあとりあえず使用」


 言葉に合わせて、彼の右肘の辺りから――言葉通りが生えてくる。手の向きからして二本目の右手。彼は左手で、その生えてきた三本目を揉んだり叩いたりして、「感覚はあるし――スキル【不朽】使用」二本の右手それぞれに剣を持ち、振り始める。「動かせる。何だコレ」


「あの……盛り上がってるところ悪いんですけど、レベルを確認してもいいですか」


 ゲンはおずおずと尋ねる。フウは頷いてスキルを解除した。



『スキル【不朽】 lv.120。

 スキルのレベルが最大です。

 サブスキル【三本目の腕】 lv.1。

 サブスキルのレベルが最大ではありません。』



 やはり――レベル120に到達している。


「サブスキルはレベル1からか」と呟いているフウに、



「一体なぜ、これほど経験値を貯め続けているんですか?」



 直球でそう訊く。


 フウは昨晩、彼が自分の稽古の場面を見ていたことを思い出し、頭を掻いて、「まあ、教えたほうがいいことだよな。同じパーティの一員なんだから」と言い。



「話そう。オレの過去について」



  *



「オレとリョーとヒッツ。三人が集まってできたのが”オリーブの鱗”だ。今はお前が加入して四人パーティになっている。


「リョーは里から追い出されたところを、ヒッツは行きつけの武器屋の店員だったのを、声をかけてパーティを作った。パーティを作った理由はかたき討ちだ。


「――オレは、前いたパーティをさせた。


「壊滅させたといっても、破壊工作とかじゃなくてな。単純に、めちゃくちゃ強い魔物と戦って、全滅した。四人パーティだったが、生き残ったのはオレを入れて二人。そのもう一人はずっと昏睡状態だ。


「オレが生き残ったのは、オレのスキルのせいだ。初期スキル【不撓フ トウ】。進化スキル【不屈】。基本効果は『再生』。


「死以外のあらゆるダメージを時間経過により回復できる。対象は自分のみ。まあ連続使用とかに制限はあるが、独りで戦うぶんにはいいスキルだろうさ。だがパーティで戦うには、あまりに独りがりなスキルだ。


「戦ったその魔物は、相当賢い奴だった。まずうちの回復手ヒーラーを瞬殺した。防御手タンクの護りをしてな。そこからはひどかったぜ。回復しようにも逃げだそうにも、ヒーラーがそれらを担っていたから相手を倒すか全員死ぬかしか選択肢がなかった。詠唱手キャスターとタンクはじわじわ削られ散っていった。タンクは最後の最後にスキルが間に合って一命は取り留めたが。


「オレは最終的に、息のあるタンクだけ連れて走って逃げた。致命傷だけは避けて、受けた逃げ傷は走りながら治した。そのうち巣を脱したのか、攻撃は飛んでこなくなった。オレは走り続けた。体力消耗も回復できるからな。それでこの街に帰ってきた。


「しばらくは外出すらできなかった。タンクがどうなったかも分からなかった。ただ分かっていたのが、自分たちを襲ったあの天災は、まだ生きているという事実。それでオレは部屋から一歩も出ようとしなかった。


「一週間くらい経って、オレは本館のクエストを見にいった。そこにはあの怪物の討伐クエストはなかった。受付のお姉さんに訊いたら、超級クエスト指定されたらしい。超級ってのは、レベル91以上が要件の上級クエストの更に上――レベル110以上三人が必須のクエストだ。


「オレはオレの手で奴を倒すことを決めた。復讐だ。それで”オリーブの鱗”を作った。こんなところだ」



 *



「つまり、とにかく限界突破したらすぐに受注できるように、経験値を貯め続けたってことですか」


「それとスキルとの親和性だな。オレのスキル【不屈】――今は【不朽】か。面白いスキルで、今まで受けた傷のを再現することができる。剣で斬られたら剣を」言って彼は右手に剣を出した。「槍で突かれたら槍を」次に槍を出す。「炎みたいな物質じゃないものはちょっと難しいんだが――こう」


 彼が右の掌を上に向けると、ぼっ! と揺らめく火が現れる。


「こういうのをいろんな相手と戦って使ってるうちに経験値が貯まっていったんだな」彼は軽く言った。


 しかしゲンは見ている。昨夜、彼が出していた武器の数々。あれほどの武器を、復讐のためその身に受け続けたと。どれほどの思いが、その身体に詰め込まれているのか。


「……話してくれて、ありがとうございます」ゲンはひとまず、ぺこりと頭を下げる。「参考までに、何ていう魔物なんですか?」


「…………」


 フウは一瞬言葉に詰まる。深呼吸をして、改めてゲンを見た。



靁羆ライクマ



 ――それが、名前だ」


 今もなお、名前だけで人を恐れさせるような存在。いつか倒せる日が来るのだろうか。ゲンはこのパーティで立ち向かう時を想像する。かつては散々だった結果を塗り替えられるかどうかは今後の自分たちの鍛錬に関わってくるのだと。フウがしているくらいの努力を積む必要があるのだと。


「そういえば、なんでうちのリーダーはリョーさんなんですか?」


 ゲンは何とはなしに尋ねた。


「オレの復讐のために作ったとはいえ、負けた奴が頭だと縁起が悪いだろ。それと単純な話、リョーのスキルのためだな」


「スキル?」


「スキル【獵神の加護】――今は【運命サダメ】か。基本効果はステータスアップだが裏の効果で猟の成功率上昇がある。ほら、洞窟で石を掘る時、リョーのスキルを使っただろ。あれは石を効率的に見つけるためだ」


 それが霊系スキル【獵神の運命】。


「まあこれも験担ぎの域を出ないと言われるとそうなんだが、ないよりはいいだろ」


「そうですね」ゲンは頷く。


「おおい、お二人さん」


 そこへリョーがやって来て、


「指名クエストだって」


 彼女はそう伝えた。


「指名クエスト?」


 ゲンは繰り返す。


「クエストは基本的に会館を通してオレたちに提示されるだろ。それとは別に、特定のパーティにどうしても頼みたいっていう依頼主が直接指名してくることがある」フウが解説した。「報酬が高めになるからたいていは受けるが――内容は?」


「護衛」リョーは簡潔に答える。


「護衛で指名とはよほどオレたちの名前が知れ渡っているらしい」ふふんとフウは笑み。「よし、受けよう! リョー、ヒッツは?」


「会館で依頼主と話してる。私は逃げてきた」


「よし、向かうぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る