第49話 ロマンチックな告白じゃなくていいですか?
で、本当に千代はさっさと帰って行き、私と三島君は取り残されてしまったわけだが。
一体、私たちにどうしろと?
どうして千代は一人で帰ってしまったんだろう。
いつも千代がいてくれたから三島君が私の部屋にいても平気でいられたんだけど、二人きりになるとさすがに緊張する。
さっきからスーパー無言タイムだ。
二人でいられるのは、ちょっと嬉しいけど。
けど!
一つ心配なことがある。
千代が帰ったことは、まだ父は気付いていないと思う。けど、もし気付いて私が三島君と二人で部屋にいることなんかがわかったら、きっとまた乱入してくるに違いない。
千代は用事があって帰ることになって、二人でまだやることがあったとか言えば大丈夫だろうか。
せっかく三島君と二人きりなのに、父のことを心配しなくちゃいけないのが辛い……。
さっきはびっくりした。
ずっと千代は三島君のことが好きなんだと思ってた。
だから、私は三島君のことが気になっていても大事な友達の千代と仲良しでいたいから、これ以上考えちゃいけないって思ってた。
千代のあの態度。あれは多分本気で言ってた。本当にびっくりしてたみたいだったから、あれは本音だ。
千代がなんとも思っていないのなら、私は三島君のこと好きになってもいいのかな?
けど、三島君はいつも千代と仲良さそうに話してた。
そうだ。三島君の気持ちだってある。三島君は千代のことを好きなのかもしれない。
え? だとしたら、三角関係の報われない片思いの連鎖!?
「藤沢。藤沢? おーい」
ハッ。
三島君に話し掛けられて我に返る。
本人を目の前にして、私は何を考えていたんだ!?
「な、なに? どうしたの?」
「どうしたのって、ぼんやりしてるみたいだったから。……ごめんな。俺といてもつまらないよな」
「ち、違っ! そんなことないよ! 本当に全然!」
私は慌てて否定する。つまらないなんてことはない。むしろ、一緒にいられて嬉しいと思っているのに。
「そっか、ならいいけど」
三島君がはにかむように笑う。やっぱり笑顔、可愛い。普段あんまり見せない分、レア!
「あのさ。アレ」
三島君が私の机の上を指さす。視線を向けると、そこには。
「あのタヌマル。気に入ってくれたんだ」
三島君からもらった、小さいタヌマルのぬいぐるみがあった。
「あ、うん。可愛くて気に入ってるから。いつも見えるところに飾ってるんだよ」
タヌマルを見る度に三島君のことを思い出してしまうとか、さすがに言えないけど。
「あ、あのさ……」
三島君が何か言いたげに私のことを見る。
タヌマルのことずっと話したかったのかな、なんて思っていると。
「藤沢が俺のあげたタヌマルを飾ってくれてて嬉しい。それと、さっき藤沢のお父さんが言ってたことだけど……」
「うん」
なんだろう。
何か気になることがあったのかな。
三島君はなんだかとても真剣そうな顔だ。
「藤沢のお父さん。猫野まふやってる藤沢の声、すぐにわかったって言ってたよな」
「? うん」
なんの話かな? と私は首をひねる。
「俺も、わかる自信あるんだけど。藤沢の声」
「私の、声?」
「あれは、知ってて作ってるからわかるに決まってる。けどもし、全然別のキャラで藤沢が声をあててたとしても、俺だってわかるよ。どんなキャラやっててもわかる!」
「え? 私の声。すごいね、三島君。お父さんにはわかったけど、クラスの子も新居さんもわからなかったのに。どうして?」
「……。確かに藤沢のお父さん、すごいけど。俺じゃ全然敵わないかもしれないけど……。俺だって、ちゃんとわかるのに悔しくて……!」
「?」
「ぐぐぐぐぐぐ」
三島君が頭を抱えている。そして、顔を上げて言った。
「俺だって好きな子の声だから、わかるんだって。だから! 絶対! 間違えるはず無いんだ!」
「……へ?」
今、なんて言った?
「え? え、え? 三島君、千代のことが好きなんじゃ、ないの?」
「はぁあああああああ!? 俺はずっと藤沢のことしか好きじゃないんだけど!?」
思わず大声が出てしまったようで、三島君が自分で自分の口を押えている。
そうだ。気を付けないと父が飛んできてしまう。
「そもそもなんで、そんな勘違いを!?」
三島君も警戒してくれているのか、こそこそ声で問い掛けてくる。
「え、だって、いつも千代と楽しそうに話してるし、千代もわざわざVtuberやろうとしたときに三島君を誘ったし、三島君のこと気になってるからなんじゃないかなって」
三島君が深々と大きなため息を吐く。
「違う」
「違う?」
「逆だよ、それ。吉田は俺たちをくっつけようとして、そうしてたんだ」
「え、そうなの?」
「楽しそうに見えたのは、俺のことからかって遊んでたんだよ。俺が藤沢のこと好きだって気付いてたから」
「……!?」
「あ゛ーーーーーーーーーーー」
三島君が再び頭を抱える。
「ど、どうしたの?」
「こんなはずじゃなかった……。もっとかっこよく告白するはずだった。せめて振られるならそっちの方がマシだった……」
「え?」
「じゃ、俺、帰るから」
「ちょっと待って!」
急に立ち上がって、こっちを向いてくれないまま部屋を出て行こうとする三島君を私は慌てて引き止めた。思わず手、掴んじゃった。でも、離さない。
「振られるって、どうして?」
「……藤沢。その気、無さそうだから」
「そんなことないって」
「それって、どういう……」
三島君がやっとこっちを向いてくれる。
「私も三島君が好きって意味、だけ、ど……」
あ、しまった。私も全然考えないで言っちゃった。かっこいいとか、かっこ悪いとか全然考えてなかった。
さっきから三島君があんまり無頓着な感じで言ってくるから、こっちまで思わず。
「え、マジ?」
信じられない様子で目をまん丸くしている三島君に、私はこくんと頷いた。
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