第45話 ついにバレた!?

「これ、収益化とか出来ちゃうんじゃない?」


 うきうきと千代が言う。


「さすがにそこまでは、ちょっと」

「いけるって!」

「それに、収益化なんてしたらさすがに親にもバレちゃうんじゃない? まだ未成年だし。それに、そこまで大々的になるのは、ちょっと怖いというか……」

「えー、もったいない。このままいけばVtuberとして食べていくことも夢じゃないかもだよ!」

「ええ!? そ、そこまでは考えてなかったよ? それに私、Vtuberじゃなくて……」


 頭の中でまだ考えていたせいか、うっかり本心を打ち明けてしまいそうになったとき、私の部屋に近付いてくる足音が聞こえてきた。この足音は、きっと父だ。

 また飲み物でも持ってきてくれたんだろうか。それにしては慌てたような足音だけど。


「天音!」


 ドアが開く。

 やっぱり父だ。なんだか慌ててるみたい。どうしたんだろう。

 三島君がもう慣れた様子で画面を閉じてくれている。ありがたい。

 父はスマホを握りしめている。


「どうしたの?」

「天音! これ、天音だよな!?」

「え?」


 私は慌てて父のスマホの画面をのぞき込む。

 そこに映っていたのは……。


「!?」


 紛れもなく猫野まふだった。

 千代と三島君ものぞき込んで固まっている。


「え、えーと。誰? それ」


 とりあえず、とぼけてみる。

 クラスの子たちにだって疑われたことがある。だけど、結局あの時も似ている声だと思われただけで気付かれなかった。むしろ冗談で言っていた感まである。

 自分から言い出さなければ気付かれないはず。

 新居さんのやっているVtuberだって、未だに疑惑が出ているだけで確定はしていない。ちなみに私も毎回見ている。新居さんだろうなとは思っているけど、本人にまだ聞いていないので確信には至れていない。

 ここは、とぼけるが勝ちだ。

 が、


「この声、絶対に天音だろう?」

「ち、違うよ?」


 父は引き下がる様子もなく、私をじっと見ている。

 千代と三島君も、緊迫した様子で私たちの様子を見守っている。口が出せるような状況じゃない。


「大体、お父さん。いつの間にそんなの見てるの。Vtuberとか興味なさそうだったのに」


 あはは、と私はわざと笑ってみせる。本当は冷や汗出そうだけど。

 そう。父はVtuberにはあまり興味が無い。まあ、おじさんだし。だから、見られることもないかと安心していたのに。

 どうやって気付いたんだろう。


「新居君に聞いたんだ」


 新居さんかーーーーーーーーーー!

 自分もVtuberやってるから(推測)、他の人のも見てたのかーーーーー!


「新居さんが?」

「ああ、天音の声に似ているから本人なんじゃないかって、聞かれたんだ。天音がそんなことしてるはずないだろうって否定して、新居君も似てる声だと納得してたんだけどな」


 そこで父は言葉を切って、動画を再生する。

 嫌ぁあああああああ! やめてぇええええええええ!

 聞こえてくるのは紛れもなく私の声なわけで。

 けど、今は猫野まふの声なんだ!

 私自身じゃないんだ!

 なのに。


「で、聞いてみれば俺には天音の声にしか聞こえないんだが」


 きっぱりと父は言い切った。

 これ以上、どうやって弁解したらいいんだろう。というか、なんでわかったの!?

 とぼけても無理なんだろうか。

 新居さんだって、確信して父に言ったわけではなさそうだし。

 このまま知らないフリをすれば……。


「ええっと、それは私じゃなくて……」

「天音だろう。可愛い娘の声がわからないと思うか?」

「あ……」


 思わず声を上げてしまう。

 さすが父だ。

 感心してしまった私の心がわかったのか、心なしか父が得意気な顔になる。

 そうだった。うちの父、親バカだった。

 私の声がわからないはず無いんだった。

 他の誰かがわからずに聞いていたとしても、この父にだけはわかってしまう。

 嬉しいような、困るような……。

 って、今回は困るに決まってる!

 私がこんなことをしていると知ったらどうするんだろう。

 友達が来て変なことしてるんじゃないかとか心配してたし……。

 せっかくここまで来れたのに消しなさいとか言われちゃう?

 父だったら私のことを心配しすぎて言い出しかねない。

 新居さんのバカー!

 大好きだけど! 私の声なんじゃないかって気付いてくれたのは嬉しいけど!

 それにしても、わざわざ父に言うことないじゃないか!

 そもそも、父も知っていると思ったのかもしれないけど!


「あ、あのっ」


 私が固まっていると、割って入る声がした。

 三島君だ。

 千代はまだ、ぽかんとしてる。


「ん? ああ。すまん。友達が来てたんだな」


 どうやら父の目には二人の姿が映っていなかったらしい。それだけ慌ててたってことか。


「あの、すみません。そのVtuberは確かに藤沢さんですが、彼女は悪くないんです。俺が勝手に誘ってしまったんです。ごめんなさい!」


 三島君が立ち上がって頭を下げる。


「へっ!? 三島君!?」

「なっ!? 君がうちの娘をたぶらかして!?」


 私と父の声が重なる。

 たぶらかすって人聞き悪すぎる!

 父が怒ることなんてほとんど無いんだけど、怒ってる!?

 それにしても、三島君どうして?

 まさか、私を庇ってくれてるの?

 どうしてそこまで?


「お父さん! 三島君は全然関係なくて! むしろ、私の方が誘ったんだよ!」


 だけど、三島君が罪を被ることなんて無い。

 このままじゃ、三島君に怒りの矛先が行ってしまう!

 私は慌てて誤解を解こうとしたのだが。


「え、違うよ。それは私が! そう、私が誘っちゃったんです! 天音っちは悪くないんですっ」


 そこに千代まで口を挟んでカオス状態になってしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る