第46話 私の夢は……
「どうなってるんだ?」
父が困ったように私を見る。
「もしかして、二人ともただ遊びに来ていたわけじゃないのか?」
「はい」
「……そうです」
三島君はきっぱりと答える。千代は大好きな声優に問い詰められて辛いのか、しゅんとしている。ごめんね。
「三人でやっていたのか?」
「うん」
「はい」
「……はい」
「それで何かこそこそしていたのか」
「……うん」
ちゃんと隠せていると思っていたけど、どうやら怪しいとは思われていたみたいだ。父がため息を吐く。
「どうして黙ってそんなことをしていたんだ? ネット上の誰でも見られるところにこんな動画を上げるなんて危ないじゃないか!」
言葉の調子はキツいけれど、どうやらそれが一番の心配事だったみたいだ。怒っているのかと思った。けれど、どうやら心配が爆発してこうなっているらしい。
いつもの父で少しほっとする。
あんなに慌てて部屋に入ってくるからびっくりした。
ちゃんと話したらわかってくれそうだ。
バレたのは気まずいけど。
と、思っていたら。
「こんなことをするのは反対だ」
「どうして!?」
「さっき言ったとおり、危ないだろ。考えてみろ。天音の可愛い声が世界中に拡散されるんだぞ!? お父さんも一回聞いただけでメロメロになるくらいなんだ! 熱烈なファンが付いてストーカーにでもなったらどうする!」
うん。親バカ爆発。
私はため息を吐く。
「それ言ったら、お父さんなんていつも顔出してイベントとかやってるでしょ? 私は名前もわからないようにしてやってるよ」
父がぐっと詰まる。
それって、父にも言えることだ。当たり前に私なんかよりずっと熱烈なファンが大勢いるんだし。父のファンはマナーがすごく良さそうではあったけど。
父が再び口を開く。
「お父さんは仕事だからいいんだ。きちんとリスクもわかってやっている。それに天音は学校の勉強だってあるだろう? こんなことをしていたら、そっちが疎かに……」
「この前のテストの点数見たでしょ? どうだった?」
「む。上がってた、な。さすが天音」
これにはぐうの音も出ないようだ。
三島君のことがあって気は散ったけど、それでも頑張ったのだ。テストの点数で私の夢を反対されたりしないように。
「もしかして、将来Vtuberになりたかったり、するのか?」
今度はおずおずと父が言う。
「Vtuberなんて生活の保障も無いし、簡単に上手くいくものでもないだろう? お父さん、それはやめた方がいいと思うんだが」
ああ、と納得した。
どうやら父は先読みしすぎて、そこまで心配した上でさっきみたいな行動に出てしまっていたらしい。
「将来というか、Vtuberにはもうなっちゃってるよ」
父が私の将来を心配している様子を見て、私は少しだけ落ち着いて答えた。誤解されたまま心配されるのは困る。どっちにしても心配するとは思うけど。
「でも、私が将来なりたいのはそれじゃない」
私はきっぱりと言う。
「ええ!? 大人気Vtuberになるんじゃなかったのっ!?」
口を挟んできたのは千代だ。明らかにがっかりした顔をしている。
「うん。すごく楽しくはあったんだけどね。それに、私の声を聞いて色んな人がコメントくれたりするのは本当に嬉しかったよ」
私は千代に微笑み掛ける。
「でも、そうしてるうちにね。私、思ったんだ」
「……天音。一体何になりたいんだ? ハッ、もしや誰かのお嫁さんとか言わないよな? お、お前じゃないよな!? さっきも天音のこと庇ってなかったか!?」
バッと、父が三島君に対して戦闘態勢のような構えを取る。
「い、いえっ。俺たちそんな関係じゃっ……!」
「ち、違っ……。そうじゃなくてっ」
「って、天音! 赤くなってないか? お、お前~~~。ちーちゃんと上手く行ってるんじゃなかったのか!」
「は?」
「へ?」
「待って! お父さん! 聞いてーーーーーー!」
何故かきょとんとした顔の千代と三島君。叫ぶ私。
そこでようやく父が私の方を向いてくれる。
本当に本当にっ! こんな時まで親バカで困る!
私も前ならこんなことで動揺しなかったんだけど。三島君のことを意識してしまっているのが父にも伝わってしまったみたいだ。
三島君は……、気付いてない、よね?
「とりあえず、お嫁さんが夢ではないから!」
「そうか、よかった」
父が胸を撫で下ろしている。そこ、そんなにほっとするとこ?
三島君は何故か下を向いて暗くなってる。なんで!?
「じゃあ、なんなんだ?」
改めて聞かれて、私はちょっと口籠もる。
急にそんなことを言うことになるとは思っていなかった。
ここには千代と三島君もいる。でも、元々この二人には打ち明けてもいいと思っていた。私がやりたいことに気付くキッカケをくれた二人だから。
父には絶対にいつか言うことになる。
それなら今、言ってしまってもいいだろうか。
だけど、さっき私が将来Vtuberになりたい勘違いしたあげく反対したように、私の夢もきっと反対される。
優しくて親バカで私のことを大事に思ってくれている父だからこそ、反対するに違いない。
前にも勘違いして言っていたことがある。
反対されたら、きちんと反論することが出来るだろうか。諦めたくはないけれど。
私はちらりと三島君の方を見る。多分、無意識だった。
目が合う。
三島君は一瞬驚いたみたいな顔をして。
それから、小さく頷いた。
それはまるで、私に大丈夫だよって言ってくれているみたいで。
背中を押されたみたいな気がして、私の心はふわりと軽くなった。
三島君が本当にそう思ってくれたのかわからないけど、きっとそうだって思った。
三島君が今ここにいてくれてよかった。一人じゃなくてよかった。
私は、小さく息を吸い込んで。
「私、声優になりたい」
言った。
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