第41話 応援感謝!

 チャイムが鳴って、クラスのみんながざわざわと立ち上がる。もうすぐテストだから、今日は部活が休みだ。


「じゃあな、三島」

「おう」


 先に教室を出ていく友人に答えながら、俺はまだゆっくりと鞄に教科書をしまっていた。タイミングを見計らうためだ。

 周りのみんなはテストの話をしているが、俺は別のことがずっと気になっていた。

 さっきの休み時間のこともある。クラスの女子が俺たちのVtuber猫野まふの話をしていた。正直、かなりひやひやした。似てる声だということで納得してくれたみたいで、ほっとしたが藤沢の声を褒めていた。それは誇らしい。やっぱり藤沢の声は他のやつが聞いてもいい声らしい。藤沢が好きだからいい声だと感じてしまうのかと思っていたが、どうやらそうではないみたいだ。

 誇らしいと思うと同時に他のやつが藤沢の声が好きだとか言っていると、複雑な気分にはなる。あいつらは藤沢の声だとは知らないわけなのだが。

 けど、バレなくて本当に良かった。

 それも本当によかったのだが。

 藤沢の席への方を不自然にならないようにうかがう。

 いない。

 慌てて周りを見ると教室から出て行こうとしているところだった。もちろん、いつも一緒にいる吉田が隣にいる。本当に仲がいい。藤沢の部屋では二人でやけにくっついていることがあるくらいだ。距離感、近すぎじゃないだろうか。女子のやることは、わからない。

 ……羨ましい。

 じゃなくて。

 俺も立ち上がって後を追う。が、校内は人が多くてここで声を掛けたりなんかしたら噂になってしまいそうだ。なにしろ、いつもは必要な用事でもなければ自分から女子に話し掛けることはしない。自意識過剰かもしれないが正直、単純に恥ずかしい。

 声を掛けようかどうしようか悩んでいる間に、下駄箱を通り過ぎて校舎を出てしまった。俺は自転車通学だから自転車置き場に向かわなければいけない。見失ってしまうのは困る。

 と、思っていたら。


「どうしたの? 三島」


 くるりと吉田が振り返った。

 藤沢は全く気付いていない様子だったのに、どうして吉田なんだ!

 藤沢はきょとんとした顔で俺を見ている。今日も可愛い。


「なんか用?」


 吉田はそこから小声になる。


「あの件ならlineにしてよ。クラスの子もあの話題、話してたし、バレるとまずいでしょ」

「あ、いや、そうじゃなくて。藤沢に用が……」


 それは俺も気を付けているつもりだし、あれはかなりひやひやしていた。吉田たちも気付いていたらしい。さすがに吉田でもしっかりとあの件などと言葉を濁して言っているくらい警戒してはいるみたいだ。こんな風に話し掛けてしまう俺が一番迂闊か。

 が、それもこれも最近は藤沢とVtuberのことで休みの日にも会えたり、話したり出来ていたのにテスト期間中でそれを自粛しているのが悪い。前なら話せないのなんか当たり前だった。むしろ、それが普通で見ていることしか出来なかった。

 もちろん今までと同じように教室では姿を見ることが出来るのだが……。

 正直、足りない!

 遠くからこっそり眺めたり、話している声に聞き耳を立てたり、今までだったらそれで満足出来ていたはずなのに。今の状況の方が夢のようだとはわかってはいる。それでも、一度知ってしまったら以前のようにはもう戻れない。


「天音っちに用? ふーん。そっかそっか。なるほど」


 問題はこの吉田だ。俺の藤沢に対する気持ちがバレている。そのせいで無駄にお節介を焼いてくる。

 応援するとか言われた気がするが、これまでの言動を考えると応援しているんだか邪魔しているんだかわからない。


「なんだよ」

「それなら私は退散するから、二人でどうぞどうぞ。あ、でも他の人に見られるとまずいから、人目に付かない道で行きなよ~。じゃあね!」

「え? ちーちゃん?」

「いいからいいから! ごゆっくり~」


 藤沢は何が何だかわからない様子でおろおろしている。


「ばいばーい」


 そう言って、吉田は去って行く。

 そして、俺は、


「あ、えーと。三島君? 用事、なんだった?」


 藤沢と二人で残されたのだった。


「それは……、そうだ。とりあえず、吉田に言われたとおり移動した方がいいかもな」

「そうだね。うん」


 こくんと頷いた藤沢と二人で歩き出す。もしも、藤沢と付き合うことが出来たりなんかしたら、こうやって毎日一緒に帰ることが出来たりするんだろうか。隣に並んでいる藤沢を横目で見て思わず妄想してしまう。

 緊張してロボットみたいな歩き方になっていないか心配になる。

 ふわりと隣の藤沢からいい香りがする。何も付けていないような気がするのに。何の匂いなんだ、一体。

 とにかく、夢みたいなシチュエーションであることは確かだ。

 すまん、吉田。前言撤回。応援感謝!


「三島君とこうやって話すの、久しぶりな気がするね。不思議だね。前はただのクラスメイトだったのに、今はこんな風に話すようになってて」


 藤沢が俺を見上げて微笑む。

 ああ、眩しい。

 お節介とか言って悪かった。吉田が振り向いて、気付いてくれてよかった!

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