第33話 まふ、逝きます!
「それにしても、再生数って増えないものなんだね」
千代が一回目よりは少しは増えたものの、雀の涙くらいしかない再生数を見て肩を落としている。
「企画がつまらなすぎるのかなあ。むーん」
「なあ、あれって」
三島君が、どこかを指さす。その先は。
「藤沢って、ゲーム好きなの?」
ゲーム機だった。
「あ、うん。好きだよ。子どもの頃からハコモンやってるし、最近はちーちゃんとオンラインで遊んでたりもするよ」
「そっか。俺もゲーム好きだから、気になって」
「うんうん。三島君もハコモン好きなんだもんね! 小学生の頃はみんなやってるけど、意外と高校くらいになるとやってないもんね。面白いのに」
「だよなー」
「あ、でもハコモン以外も色々やってるよ」
「俺も俺も」
「三島~。盛り上がってるとこ申し訳ないんだが、今は再生数の話してるんだけど」
「だから、再生数の話だろ」
せっかく盛り上がっていたのに横から入られたことにムッとしたのか、ちょっと機嫌悪そうに三島君が千代を見る。
「って、ゲームと何の関係が……、あっ!」
何かに気付いたように千代が叫ぶ。
「なるほど、ゲーム配信!」
◇ ◇ ◇
『こんにちは。猫野まふですにゃ。今日はゲーム配信をやっていこうと思いますにゃー。というわけで、誰でも知ってるこのゲーム! ハイパーマリヨシスターズ、スイッチオンですにゃ!』
オープニング画面が映る。もちろん、その横にはちゃんと猫野まふのアバターがいる。
ちゃんとネットで下調べして、配信しても版権が問題ないゲームを選んだのでそこは安心だ。
安心なのだが。
『では、いきますにゃー』
ゲームキャラのマリヨがすたすたと動き出す。気合い入れて走り出す。
そして、最初に出てくる超雑魚キャラを華麗に避けようとして、ジャンプ!
『あ』
でっ!
ででっでででっででっでっで!
『……嘘』
コメント
『逝きます!』
『まふ、逝きまーす!』
頭の上にあったブロックに気付かず、思いっ切り頭をぶつけて落下。下にいた雑魚キャラに当たって、死。
『あうううううう。あ、あのっ、いつもはもっと普通に出来るんです! 出来るんですよー!』
必死に弁明しているが、空しい。
そもそもアクションはちょっと苦手だ。でも、いつもならこれよりはマシなのに!
普段やっているオンラインRPGの方が食いつきがいいんじゃないかとも話したが、そっちは垢バレして好きに遊べなくなるのが嫌だったので却下した。
そっちの方が、難しいアクションは無いし慣れているからいいかとも思ったんだけど、楽しみでやっているゲームで話し掛けられまくったりしてゆっくり遊べなくなるのは困る。
が、それはそれとして。
「なんでこれそのまま使うわけ? 録り直すことも出来たのにー!」
「可愛いから」
千代に即答される。しかも、また三島君も頷いている。
やっぱり、この二人気が合うみたい。こんなところで合わなくていいのに。
「こんな動画流されるとか、羞恥プレイ……」
私自身の顔が見られているわけでもないのに、顔を押えて俯いてしまう。顔から火が出そう。
しかも、この動画のタイトル。
『ハイパーマリヨシスターズ・秒速で攻略します!』
なんだよね……。
明らかにタイトル詐欺だと思うんだけど。
コメント
『確かに秒速だった!』
『まふたん可愛い』
『秒速で逝った!』
入っているコメントを見ると、詐欺でもなかったんだろうかと思ってしまうところが恐ろしい。しかも、こないだより何故かコメント増えてる。
「やはり、天音っちの可愛さに気付く人たちはいるな」
またしても千代の言葉に三島君が頷いているが、ちょっと難しい顔をしている。どうしたんだろう。
「でもさ、再生数の伸びは悪いね。再生数が増えてくれたら嬉しいんだけどなー。コアなファンが付いてるけど、それだけって感じなんだよね」
はー、と千代がため息を吐く。
確かに、コメントが入っている割に再生数は少ない。
「なんか間違ってるかなあ」
間違っているかと言われれば完全に間違っている!
「どうしたらいいのかな。見てもらえてなくても上げ続けるしかないのかな。それとも、私たちってこんなもんだったってことで諦める、か。うー」
千代が頭を抱えている。
「ここまでやったんだから、もったいなくね? いや、けど、うーん」
三島君もうんうん唸っている。
私はといえば。
やっぱり悩んでいる。
流されてやってみたけど、二人が一生懸命準備したりしているのをずっと見ていた。私はほとんど猫野まふとして動画の中に出ているだけで何もやっていない。それどころか失敗ばかりしている。
「このままドジッ子路線で色々やってみるのがいいのかなあ。けど、なんか頭打ちっぽい感じもするし。うーむ」
「ドジッ子……。うう」
わざとそうしているわけではないのに、なんか段々そうなってきているみたいで複雑だ。
千代と三島君はそれでいいって言ってくれるけど、本当にこのままでいいのかな。
私がもっとしっかりしていれば、そうしたらもっと再生数は伸びるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます