第34話 私の気持ちは……

 送信ボタンを押すかどうか少し迷った。だけど、一人でもやもやしてるのも辛い。

 あれから結局、次の動画をどうするか決まっていない。

 千代に相談しても別に大丈夫だからって、今の路線のままになりそうだし。本当にそれでいいのかなって、私は悩んでしまう。

 自分の部屋のベッドの上でごろごろと転がってから、私は意を決して送信ボタンを押した。


「えいっ」


 送っちゃった。


『ちょっと相談したいことがあるんだけど』


 すぐに返信があるとは思わない。三島君て、そんなに頻繁にスマホを見ているイメージが無い。

 そう思うんだけど、早く返事が来ないかなと思って画面を見つめてしまう。こんなことをしていても仕方ない。ずっと見ていたくなってしまうけど、まずは起き上がってスマホを机の上に置いて……。

 ピンポン!


「わっ」


 絶対すぐ来ないと思っていたら、急に通知音が鳴って思わずスマホを落としそうになった。


『何?』


 三島君だ。たまたまスマホを開いていたんだろうか。

 って、慌ててる場合じゃなくて相談しなきゃ。ここでやっぱりなんでもないとか言ったら変な人だ。


『Vtuberのことなんだけど、このままでいいのかな』

『?』


 これじゃ、確かになんのことかわからないよね……。


『いつもちゃんと出来てなくてごめんね。私、上手く喋れなくて迷惑掛けてるよね』


 なんて言ったら伝わるんだろう。と、思ってまずは謝っておく。本当に迷惑を掛けている気がするから。

 ちょっとだけ間がある。

 なんて答えればいいか迷ってるのかな。

 急に相談なんて言い出して、それ自体が迷惑な気もする……。


「あ、返事来た」


『それは無いから大丈夫』


 気を遣って言ってくれているだけだとしても、ほっとする。三島君が他人を責めるような人ではないと思ってはいるけど。

 男子だけど三島君は話しやすい。趣味が合うからっていうのもあるのかな。

 だから、こんな風に相談しようかなと思ってしまった。


『むしろ、すごいと思う。始めたばっかりなのにちゃんとコメント入ってるし』


 すごい、のかな。


『でも、全然再生数増えないし……』

『それは、これからだろ?』

『でも、このまま増えなかったら二人に悪いというか』

『そのことで悩んでるの?』


 ……。


『うん』

『なんで俺に? 吉田だっているのに』


 やっぱり気になるよね。

 そこも言っとかなきゃ。


『ちーちゃんは思い込んだら突っ走るタイプだから、相談してもこのままで大丈夫! とか押し切られちゃうと思って……』

『あ・・・(察し)』


 どうやらわかってくれたみたいだ。

 最近三人で一緒にいることが多いから、千代の性格もわかってくれているみたい。

 三島君と二人でこうして連絡を取るのも千代に悪いかと思って、ちょっと悩んだ。けど、他に相談できる人もいないから仕方がなく、だ。


『確かに上手くいってるとは言えないけど、別にそこまで悩まなくても大丈夫だと思うけど』

『そうかな……』


 なかなか上手く伝えられない。

 やっぱり、lineだと限度がある。だけど、電話も抵抗があるし。lineだからこそ気軽に話せるわけであって。


『あのさ、もしかして』


 そこで三島君からのメッセージが一旦途切れる。こういう切り方をされると気になる!

 続きが来るのを待つ。


『藤沢、Vtuberやるの嫌だったりする?』


「……あ」


 画面の向こうの三島君は、私の返事を待っているはずだ。

 三島君、そこまで考えてくれたんだ。

 私は……。

 私からの返事が来なくて不安になったのか、更に三島君からのメッセージが届く。


『吉田、突っ走るタイプなんだろ? 俺は誘われた方だから。藤沢もやりたくてやってるんだと最初は思ってたんだけど、そうでもないのかと思って』


 私は……、どうなんだろう。

 やりたくてやってる?

 流されて仕方なく?


『もしそうだったら、ごめんな』

『どうして三島君が謝るの』


 こんな当たり障りの無いメッセージなら、すぐに返せるのに。


『三島君こそ巻き込まれた方なのに』

『俺はいいよ。前にも言ったけど、結構楽しいし』


 そうだ。前にもこんな会話をしたっけ。

 三島君はすごい。巻き込まれたのにちゃんと楽しんでて。

 私は、巻き込んじゃった方なのに上手くいかなくて悩んでる。私も千代に巻き込まれたと言えなくも無いんだけど。


『藤沢は楽しくない?』


 楽しいか楽しくないか。

 そうやって聞かれたら、楽しいのかもしれない。

 だけど、自分がやっていることが上手くいかないことは辛い。

 千代はあのままでいいって言うけど、なんだか違う気がする。


『みんなでわいわいしてるのは楽しいよ』

『そっか、よかった』


 ほっとしている三島君の顔が浮かんで来るみたいだ。

 みんなでわいわいとしているのは楽しい。

 それだけ?


『だけど』


 三島君は続ける。


『もし、藤沢が嫌なら無理することはないと思う』


 三島君がくれたのは、私が言って欲しかった言葉だったのかもしれない。

 急に泣きたくなった。

 三島君は優しい。

 私は無理しなくていいよって、言って欲しかったのかな。自分の中でもまとまっていなかった答えを言われてしまった気がした。

 千代が私に期待をしてくれているのも、心の底から嫌だったわけではきっとなかった。だから、千代には言い出しにくかった。

 がっかりさせるのが嫌で。ずっと流されていた振りをしてた。

 自分で決められなかったから。

 だけど、本当にやめてもいいって言われたら、私は……。

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