第27話 父の叫び
「めっちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……。う、うう。それに、語尾のにゃが付いてたり付いてなかったりブレブレだし」
自分が声を当てている動画が全世界に流れているなんて顔から火が出そう。
「それは別にいいんじゃないかってことになったでしょ? 天音っち、録音しようとすると緊張しちゃってそれどころじゃなくなるから」
「うう。……たどたどしいのも気になるし」
「それも可愛いからいいんじゃないかってことになったでしょ。そういうのが好きな人も結構いると思うし!」
「うう」
可愛い、だろうか。
三島君も、それでいいと言ってくれたからあの状態で動画になったわけだし。本当はもっとしっかりしていた方がいいとか思ってるのかもしれないけど。
何を思っているのか、三島君はうんうんと頷いている。そして、画面を見つめて難しい顔をした。
「うーん」
三島君が唸る。
「どうしたの?」
「三島君、なにか気になることあった?」
私と千代が話し掛けると、三島君は顔をこちらに向けた。
「再生数が……」
そこは私も千代もまだ口に出していなかった。なんとなく、言葉にしてしまうことで現実が確定してしまうみたいで。
「8回……。再生数、8回……」
「……うん」
「……はい」
知ってた。目に入ってた。
少ないなー、と思ってたー!
「はい!」
千代が手を上げる。
「辛いです!」
「うーん」
再び三島君が唸る。
「正直、最初は再生数伸びなくてもしょうがないと思ってたけど」
「ええっ! 最初から大人気になるの目指してたんじゃないの!?」
「いや、無理だろ。藤沢の声でなんとかなるかもしれないとか、ちょっと思ってなくはなかった、けど」
「そうでしょそうでしょ。あー、やっぱり天音っちの声好きなんだー」
「ん、ごほんごほん。それはともかくだ。新人Vtuberなんてこんなもんらしいぞ。よっぽど運が良かったり、ものすごいアピールポイントがあったりすれば別だけど」
「そうなのかー」
千代がしょんげりと肩を落とす。
「最初っから天音っち無双で人気Vtuberへの道を駆け上がっちゃうかと思ってたのに~」
千代、本当にめちゃくちゃ期待していたみたい。
「アピールポイント、アピールポイント……」
うんうんと今度は千代が唸る。そして、急にハッと思い付いたような表情になって……。
なんか、嫌な予感。
「そうだっ! 藤沢さんの力を借りれば! ぐっ、もががっ!」
私は慌てて千代の口を塞ぐ。
「うぐっ。天音っち、何を。って……」
私と千代は三島君をちらりと見る。三島君は不思議そうな顔で私たちを見ている。
良かった。バレてないみたい。
「ごめんごめん。そうだよね。まだ三島には言ってなかった……」
「何を?」
三島君が首を傾げる。
一瞬危なかったと思ったけど、考えてみれば千代が私の名字を呼んだだけでおかしなことは何も無い。
私がこうしてVtuberやることとか誰にも言わないと言ってくれたし、すでに三人でここまでやってきた仲間でもある三島君のことだ。父のことを知っても言いふらしたり、変な目で見たりしない人だと思う。
というか、私の為に内緒にしているのもあるけど三島君も友達とか知り合いに自分がVtuber作ってるとか言いたくないって前に言っていた。ネット上で観てくれる人がいればそれでいいって。むしろ、リアル知り合いには知られたくないんだって。
私と似てる。私も絶対知り合いになんて知られたくないから。だけど、ネット上の誰も知らない場所でならいいのかなって。
なんか、親近感。
でも、それとこれとは別だ。父のことは積極的にバラしたいとは思わない。
私は千代に目配せする。頷いているところを見るとどうやら言われたくないことをわかってくれたみたいだ。
千代は本当にうっかりで困る。
父と関係なくやりたいって前にも言ったのに。
確かに藤沢和孝の娘だってわかれば動画の再生数は伸びるかもしれないけど、なんだか嫌だ。どうせやるなら私たちだけの力でやりたい。
「何の話?」
「あ、えっと、なんでもない。なんでもないよー」
三島君の問い掛けに、千代がわざとらしく答えている。うん、怪しい。
でも、三島君もこれ以上ツッコまない方がいいと思ったのか特にそれ以上聞いてくる様子は無い。いい人だ。
「じゃあ、次何すればいいか考える?」
しかも、次に話を変えてくれる。三島君、本当にいい人。千代が好きになるのもわかる。
これで話は丸く収まった。なんて思っていたら、部屋がノックされた。
外から聞こえてきたのは……、
「天音~、友達来てるんだろ? 飲み物持ってきたぞー」
父の声だ!
今日は出掛けていたと思っていたのに、いつの間に!?
母は今日はいないって言ってたし、止めてくれる人が誰もいなかったのかー!
動画に集中しすぎて玄関の音とか気付かなかった。
「三島君、画面消してっ」
「お、おう」
三島君は素早くまだ猫野まふが映っていた画面を消す。これは父に見られるわけにはいかない。家族には内緒だと三島君にも言ってあったから、迅速にやってくれた。
ジュースの載ったトレイを持っているだろうに、今日の父は器用にドアを開ける。
後は三島君だ。三島君は父の正体に気付くだろうか。千代みたいに父のファンでもなきゃ気付かないかもしれない、なんて思っていたら父の姿が現れて、
「いやあ、いらっしゃ……」
挨拶が途中で止まった。硬直してる。
そして、
「天音の部屋に男がーーーーーーーー!」
父の叫びがこだました(イメージです)。
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