Vtuberやってみた! 編
第26話 Vtuberはじめました
『え、えーと。初めまして。新人Vtuberの
画面の中では、猫耳で眼鏡でセーラー服という盛り盛りな女の子キャラがもじもじしている。最初セーラー服属性は無かったんだけど、千代が更に設定を盛った方がよいのではということで追加されることになったのだ。
客観的に見ればかなり可愛いキャラだとは思うんだけど。
問題はその声なわけで。
『あ、あの。これから動画配信とか、やっていこうと思ってます。生配信だと失敗しちゃうといけないので、主に録画になる予定です。あ、それと、高校生なので、テスト期間とかに重なっちゃうとしばらく配信は出来なくなると思います。それでもよければ見て欲しいです、にゃ』
恥ずかしい。
めちゃくちゃたどたどしい!
こんなのネットで配信してるなんて!
そう。もうネット配信されてしまっているのだ。
あれから、動画がなんとか出来上がって、本当に私が声を入れることになって。
そうして出来たのがこの動画というわけだ。
私たちは本当にやり遂げてしまったのだ。
動画が出来上がったら、もちろんネット上に上げないわけにはいかなくて。その辺は三島君が色々とやってくれて本当に助かった。三島君に頼んだ千代、偉い。
で、誰も見てなければいいんだけど……、なんて思ってしまうけどコメントはしっかりと入っているわけで。誰か、見てる……。
違う違う。千代と三島君が一生懸命作ってくれたから見られてた方がいいに決まってるんだけど。
声を吹き込んだのは私なわけで……。
二人がすごく素敵なものを作ってくれたのに私の声で本当によかったのかと思ってしまうわけで。
そのコメントなのだが……。
コメント
『え、マジで女子高生!?』
『喋り方、棒だけど声ちょっと可愛くない?』
棒。
はい、そうです。
「あ~、やっぱりそこに食いついちゃったか。そんな気はしてたけど」
動画を見ながらリアルでコメントしているのは千代だ。三島君は何も言わずにじっと画面を見ている。
もちろん、私たちが集っているのはいつも通り私の部屋だ。もう恒例になっている。教室でこんなものを見ているわけにはいかないし。
「だから、それは言うの止めようって言ったのに」
「いや、動画には話題性が必要っ! その為には現役女子高生であることも武器にするべきだよ。なんの為にわざわざセーラーにしたと思ってるの!」
キリッと千代がポーズを決める。
「それに、声も可愛いって言われてるよ、ちゃんと」
千代が今度はにまりと笑う。
言われてはいるけど、棒とも言った。確かにそうだけど。
『ええっと、ですね』
画面の中では私というか、Vtuberの猫野まふが喋り続けている。
私だけど私じゃない。変な感じ。
『その、このチャンネルでは色々チャレンジしていこうと思いますのでよろしくお願いします、にゃ』
ぺこんと猫野まふが頭を下げる。
にゃ、の取って付けたような言い方が気になるー!
『このまま終わるのもさみしいので最後に、早口言葉やろうと思いますっ。き、聞いてください』
ぐっと、猫野まふがタメを作るような仕草をする。この辺、ほやほやと動いているだけじゃなくてちゃんとそれっぽい動きを付けているのがすごい。三島君、すごい。
一緒に画面をのぞき込んでいる三島君を思わず見てしまう。すごく真剣な顔で画面を見ている。自分が作ったものが気になっているのかな。
教室では結構ぼんやりしているようなイメージだったけど、こんな顔も出来るんだ。動画とか、そういうものを作ることがすごく好きみたい。自分の得意なことを極めてる人っていいよね。私の父もそうだけど。
って、そんなことを考えていたら。
『にゃんここにゃんこまごにゃんこっ! に゛ゃっ!』
なんだかめちゃくちゃ気合いを入れて早口言葉を成功させた猫野まふが、画面の中でやりきった感を出した顔をして汗を拭っている。
そうだった。
ここだけは絶対成功させようとして頑張ったんだった。
しかし、これまでのところがたどたどしかっただけに、こうして見るとめちゃくちゃ浮いてる。しかも、気合いを入れすぎて最後に変な声出てるし。
は、恥ずかしいっ!
三島君を見ると……、さっきの真剣な顔とは打って変わって今度は嬉しそうな顔をしている。満足できる動きとかになっていたのかもしれない。
だけど、私は……。
「うんうん。ここは成功して良かったよね。天音っち頑張った!」
自分の不甲斐なさに打ちひしがれそうになっていたら、千代がぽんぽんと肩を叩いてくれた。
「とりあえず、何かはやった方がいいかと思って入れたけど猫キャラが猫早口言葉とか、いいよ。うん」
千代は納得しているようだ。
『そ、それでは、またー。次回も見ていただけると嬉しいです』
猫野まふが手を振って動画が締めくくられる。
私は、ふうううううと大きく息を吐いてしまう。だけど、そうしているのは私だけじゃなかった。三島君も同じように息を吐いている。千代もだ。
めっちゃくちゃああすればよかったこうすればよかったはある。あんなダメダメ感丸出しの話し方で世の中に出して良かったんだろうかとか。
だけど、
「本当に出来ちゃったね……」
千代の言葉に私たちは顔を見合わせる。
そして、
「やったー!」
千代と私はハイタッチ。もちろん、三島君とも。思わずやってしまったという感じで、慌てて手を引っ込めてたけど。
色々と言いたいことはあるけれど、自分達は作り上げたのだという満足感。それだけは確かにある。
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