第25話 第二回計画会議

「で、なんでこうなったにゃ」


 思わず語尾がおかしくなった。


「それ! それっ! 最高だよ! 私が思ったとおり!」

「はぶっ!」


 千代は叫び、三島君は何故か顔を覆っている。


「大丈夫か? 鼻血か?」

「大丈夫……。おかまいなく」


 三島君は千代に答えながらも顔を上げようとしない。

 どうしたんだろう。体調でも悪いんだろうか。

 また、会議の為に三人で私の部屋に集っているのだが、無理して来てくれたんだろうか。


「三島君、もしかして体調悪い?」


 私も心配で声を掛けたんだけど、


「大丈夫。大丈夫だから」


 なんか慌てた様子で向こうを向いてしまった。


「そう?」


 まだ心配だけど本人が言うのなら仕方ない。


「もし、辛かったらすぐに言ってね」


 私の言葉に、三島君はこくこくと頷いている。

 三島君、千代とは親しそうに話してるけど私とはあんまり話してくれない。ちょっぴりさみしい。

 そういえば、結局タヌマルの話は出来てない。今度何かタイミングが合ったら話してみよう。もう、そんなことを話したのも忘れてるかもしれないけど。


「天音っちがノリノリなら、これでいいんじゃないかと思うんだけど、どうだろう」

「ノリノリでは、ない」

「でも、さっき語尾が」

「あれは、ノリ」

「ノリじゃん! それに三島も気に入ったみたいだし」


 三島君、何も言ってないけど気に入ったんだろうか。


「常々、天音っちには猫耳とか付けたらかわいいだろうなーと思ってたから、キャラにも生かしてみたんだけど。えへへ」


 この前と同じように囲んでいる机の上には千代の描いたオリジナルのイラストが載っている。しっかり描かれているわけじゃなくて、まだざっくりしたラフって感じだ。

 確かに私も千代のオリジナルイラストが見たいって言った。けど、けど!

 猫耳眼鏡っ娘とは聞いてない!


「初めてだからなかなか上手くいかなかったし、既存のキャラとか参考にしちゃったところもあるけど頑張ったんだ~」


 が、嬉しそうに言う千代を見ていると何も言えない……。

 自分には描けないと悩んでいたのも、見てしまっている。今は普通に笑っているけど完成させるのは、きっとすごく大変だったに違いない。

 それを思えば、


「ちーちゃん、すごいよ! 初めてでこんなに描けるなんて!」


 褒め称えずにはいられない。


「えへー、そうかな。ありがとう。あ、でもね。まずは原案だから、何か意見があったら言ってね。どうせならみんなでよりいいものにしたいし」


 そう言いながらも、千代はにこにこと目尻を下げている。


「ええと、三島君はどう?」


 とりあえず、三島君にも振ってみる。


「……可愛いと、思う。けど」

「けど?」

「む。三島、なんか意見ある?」


 意見が欲しいと言ったわりには、千代の言葉にトゲがある。やっぱり、一生懸命描いたものに何か言われるのは嫌なのかもしれない。


「キャラ自体はすごく可愛いと思うんだ。けど、藤沢って、タヌマル好きだったろ? タヌキが好きなんじゃないかと思ったんだけど、違った?」


 三島君がチラッと私を見る。


「あ、うん」


 突然のことに私は頷くことしか出来ない。

 ちゃんと覚えててくれたんだ。ちょっと嬉しい。


「あ、そっか。タヌキかぁ。そういえば、前にそんな話してたっけ。て、なんで三島、そんなこと知ってるの?」

「そっ、それは……」

「前に少し話したことがあるんだよ。その時にね」

「へー、そうなんだ。へー」

「でも、全然猫でもいいよ。私、猫も好きだし、描いてきてくれたの、すっごく可愛い感じだし」


 せっかく千代が描いてきてくれたんだ。直したりするのもきっと大変だと思う。

 それに、確かにタヌキは好きだけど、本当に猫も好きだし。近所で見るなら猫。動物園で見るなら猫科とタヌキ。

 つまり、ふかふかした動物が好きってことだ。もふもふ動いてるだけで可愛い。

 だけど、ハコモンではタヌマルが好き。


「そう? そう言ってくれると嬉しいよー。それに、猫耳っ娘の方がさっきの語尾も可愛いしね!」

「え! あれ、やるの!?」

「やろうよー」

「うー」

「まあ、藤沢がいいなら、いいけど。破壊力が強すぎるのが問題だが……。でも、タヌキ耳もなかなかに破壊力が……」


 三島君も納得してくれているみたい。途中から小声でごにょごにょ言ってたから、よく聞き取れなかったけど。


「これってさ、どこまで描いたら元に出来る?」

「ん、アバター作るだけならラフからでも出来るけど、色とかわかった方が助かるし、後は3Dモデルだけじゃなくてイラストで止め絵にした方が見栄えがいいとことかあるから、どういう動画にするか次第かな」


 さくさくと三島君が答えている。すごい。


「そっかそっかー。進行次第で書き足すのもありって感じかな。じゃあ、まずはこれ仕上げてみればいいかな」

「頼む」


 この前のぐだぐだと違って本当に企画が進んでるって感じだ。

 なんだろう。二人を見ていると私も何かやらなきゃって、うずうずしてきたような?

 二人がどんどん前に進んで行って、私だけが置いていかれている気がする。一緒に行動しているはずなのに私だけが何も出来ていないような、そんな気がして。

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