第20話 今度は父に言えない!

「いや~、よかったね。三島、考えといてくれるって」

「あれは、ちーちゃんがあんまり強く言うから断れなかっただけでは?」

「そうかなぁ、本当に嫌だった断るでしょ」


 うんうん、と千代が頷いている。

 本当にそうだろうか。あんな風に押されたら私だって、その場を収める為にとりあえず考えておくなんて言ってしまうかもしれない。


「三島君、困ってたよ。無理矢理やらせるの、よくないよ。ちーちゃん、嫌われちゃうかもしれないよ?」

「え、三島に? あー、そうか。確かに一緒にやってくなら仲良くした方がいいよね」


 あっけらかんと、千代は言う。

 千代は三島君のことが好きなんじゃないんだろうか。もしかして、私に知られたくなくてわざと気にしていないような態度を取っているのかもしれない。これを口実に仲良くなっていく作戦なのかもしれない。だとしたら中々の策士だ。

 私、そのためにだしにされてる?

 それはそれで、言ってくれれば協力するんだけど。

 千代はそんなことを言う出す気配は全く無い。好きな人のことを話すの恥ずかしいに違いない。

 それなら、千代が話したくなるまで私も黙っておくのが良さそうだ。こっそり応援してあげよう。そうしよう。


「びっくりしてたけど、案外あっさり理解はしてくれたよね。やっぱり、私の読みに間違いは無かった。誰にも話さないって言ってくれたし」

「絶対内緒にしてくれるかな、私がVtuberやろうとしてるなんて」

「それは大丈夫でしょ。あんなに約束したし」


 どうやら千代は三島君のことをものすごく信頼しているらしい。


『三島、Vtuber作れる?』


 なんて千代がストレートに聞いたときはびっくりした。もうちょっとマイルドにぼやかして聞くかと思っていた。

 しかも、これはさすがに伏せるかと思っていたら、私が声を担当するということまで話してしまった。

 三島君は一瞬びっくりしたような顔をしていたけれど、納得したようだった。なんで!?

 そして、最後には誰にも言わないと約束してくれたのだった。

 千代はそこまで三島君が信頼できる人だと知っていたのだろうか。本当にいつの間に!?

 恋ってわからない。


「というか、話いきなり進めてるけど私、まだVtuberやるって決めてないんだけど」

「またまた~。結構やる気なくせに~」

「もう、勝手に解釈しないでよ」


 ちょっとだけいいなとは思うけど、まだ決めたわけじゃない。私なんかにVtuberなんて務まるかどうかもわからないし。

 千代が急に言い出したことだ。

 三島君も急なことで頷くことしか出来なかったっぽいし訳が分からなそうだった。本当にこの話が進むかどうかなんてわからない。だから、そこまで心配するようなことでもないかもしれないけど。




 ◇ ◇ ◇




「天音、どうした? 食欲無いのか?」

「あ、ううん? ちょっと考え事してただけ」


 今日あったことを考えて、夕食中に手が止まっていたら父が心配そうに声を掛けてきた。


「考え事か? 悩みがあったら、ちゃんとお父さんに相談するんだぞ」

「大丈夫だよ」

「そうか? まさか……、いじめられてるんじゃないだろうな。そんなことするやつはお父さんが許さないぞ!」

「もー、和孝さんてば心配性なんだから。天音がいじめられる訳ないじゃない」


 と、母が笑って暴走した父を止めてくれるかと思いきや、


「……って、本当にいじめてる子がいたら許さないけどね!」


 箸を止めて父と、ね! と目を見合わせている。


「だから、大丈夫だって! いじめとか無いから!」


 全く二人とも心配性というか、過保護というか。

 これまでも、小さい頃から二人に悩みを聞いてもらってそれで楽になっていたり、解決していたりしていたこともある。それはそれですごくありがたかったと思うし、感謝もしている。

 これからだって、何か聞いて欲しいことがあったらきっと話すと思う。心配してくれるのもちょっと過保護だなとは思うけど、嬉しくはある。

 だけど、だけど!

 今回のことは、ちょっと言いにくい。

 だって、Vtuberやってみようって友達に言われてるんだけどとどどうかな、なんて言えない。

 それに、私が声を担当するなんて父にバレたらなんて言われるかわからない。


「ああ、そうか」


 父が何故か納得したような声を出す。


「いじめは、大丈夫だよな。昨日、家に来てくれたちーちゃんがいるんだから」

「そうだよ」

「うんうん。お父さん、本当に嬉しかったんだよ。天音、あんまり家に友達連れてきたがらないもんな」


 それは、父のせいなんだけど。


「ごめんな。お父さんが、声優やってるせいで」

「あ」

「友達には知られたくないもんな。けど、昨日はイベントにまで来てくれた子だっただろ? だから、きちんと挨拶した方がいいかと思ったんだよ。ダメだったかな」

「ううん」


 私は首を横に振った。

 ちゃんと気付いてたんだ。いつも学校行事に来るときにはマスクとか帽子とかで顔はわからないようにはしてくれていた。それは自分の為だと思っていた。ちゃんと、私の為でもあったんだ。

 最初はバレたことで父をちょっと恨んだ。でも、最終的には千代と前よりも仲良くなれた気がした。それも、父のお陰だから。本人には言わないけど。だって、そんなこと口に出すのは恥ずかしい。


「天音に仲のいい友達がいてくれるのは、お父さんも嬉しいよ」

「……うん」

「いつも言ってることだけど、もし悩みとかあったらちゃんとお父さんにも相談するんだぞ」

「わかったよ」


 本当に心配性なんだから。

 別に父の言葉が嬉しくない訳じゃない。むしろ、ありがたいくらいなんだけど。

 やっぱり、私がVtuberやろうとしていることなんて相談できない。千代に父のことをバレたくないって、その問題が片付いたばっかりなのに。

 今度は父にバレたくない問題が出来てしまった。前とは逆だ。

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