第18話 ちーちゃんの好きな人?

「それにしても、Vtuberなんて。何やるの。何も考えてないんでしょ?」

「うーん」


 私が聞くと、千代が腕組みをして唸った。


「アバター作る。しゃべる。歌う。配信する」

「なんでカタコトみたいになってるの……。謎の中国人?」

「違うアル」

「さては、本当に一ミリも考えてなかったんだね……。いや、そうじゃなくて。私、歌とかそんなに得意じゃないよ?」


 確かにVtuberといえば歌っている人は多いけど。


「アイドル声優といえば歌って踊るでしょ」

「アイドル声優じゃないし」

「うむ」

「更に、話すのも苦手だし。というか、しゃべるとか歌うとかはともかく、アバターとかどうやって作るの? 知ってる?」

「知らん」

「というか、動画とか作ったことある?」

「ない」


 詰んだ。

 暗礁に乗り上げた。

 って、ちょっぴりがっかりしている気分なのは多分、気のせい。


「あー、でも、それなら」


 何かを思い付いたように、ぽむんと千代が手を叩く。


「うちの高校って、パソコン部なかったっけ?」

「あったっけ? でも、パソコン部って何。まさか、手伝ってもらうとか言う?」


 絶対嫌だ。千代にならともかく、他の人に私がVtuberやるとか、てか、やらないけど。もしやるなら絶対知られたくない。


「いいかなーと思ったんだけど。まず、どんな活動してるのかも知らないや」

「それは、私もだ」


 まずパソコン部があることすら知らなかった。


「どれどれ」


 千代はスマホで何かを検索し始めたようだ。


「んー」


 それから、難しそうな顔をして眉間に皺を寄せている。


「なんか・・・・・・、あんまり期待出来なさそう」


 スマホをのぞき込むと、うちの高校のホームページが映っていた。あんまり見たことなかったけど、なんだかつまらなそうなページだ。


「なにこれ、ブログってやつ?」

「そうみたい」


 学校行事のことが書いてある日記みたいなものが、画面に表示されている。それに写真が添えられている。


「小学生の日記みたい」


 思わず私は呟いてしまう。


「ねー。自分で日記書いといて、そこにこれからも頑張ってくださいとか自分でコメント入れてる感じ。いっそのこと花丸でも付けとけばって感じ。あ、部活動紹介だって。ぐへー、あの鬼部活、『楽しい仲間が待ってます』とか、『有意義な高校生活が待ってます』だって。体育会系の部でそんなの書かれててもやっぱ信じられないんだよね。私らの楽しいとは違うんだよな~。有意義な高校生活潰される。て、そんなとこ見てる場合じゃなくて。えーと、パソコン部のページあった。『先輩と後輩の垣根無く楽しく過ごせます』、か。こっちはきっと本当だな。オタク、信じられる、オレ」

「だから、なんでまたカタコト」

「なになに? 先生に協力して学校のホームページを作っています。文化祭に向けてゲームを作っています? こんなことしてるのか。ゲーム……。それはそれで気になるけど、動画とか作ってないのかなぁ」

「へー、そんなことやってる部活あったんだ。なんか面白そう」

「天音っち入る? うん、それもいいか。それを機に距離が縮まるなんてことも……」

「? 何言ってるの、入らないよ。部活とか面倒だし」

「だよね~。家帰ってやりたいことやってる時間が無くなるのもったいないし!」


 あっはーと笑う千代も私と同じく帰宅部だ。


「うーん。でも、ここに書いてないからって他のことやってないわけでもないよね、きっと。なんか、この説明自体ずっとあんまり更新されてなさそうだし」


 確かに、いつも見ているようなアニメとかゲームのホームページに比べて、べたっとした背景に適当な写真を付けて、なんの工夫も無いフォントが並んでいるだけのページは、とりあえず作りました感が強い。

 更新なんてきっと一年に一回されていればいい方な感じがする。むしろ写真だけ今の部員のものにして、後は何年も同じなのかもしれない。

 ぼんやりと写真を見ていたら、知っている顔があることに気付いた。さっき話に出ていたから目に留まった。


「あ、三島君。パソコン部なんだ」

「今、気付いたか……」


 と、呆れたように言う千代は最初から知っていたような口ぶりだ。そういえば、さっきも三島君の名前が出たのは千代の口からだ。

 もしかして、千代って三島君のことを?

 千代と恋愛話なんかしたことは無い。まさか、まさか?

 そんな想像を膨らませていると、千代がいそいそとスマホをポケットにしまっていた。


「まずはちょっと聞いてみればいっか。うん。思い立ったが吉日ってやつ」

「え、聞くって何を?」

「よし! 行ってみよう!」


 だっ! と千代が急に走り出す。


「え、え? 待って、ちーちゃん!」


 あまりに突然なことに、私は千代の背中を追いかけることしか出来ない。

 どこに行くつもりなの-!?


「三島ならきっと信用できるはず!」


 千代がまた三島君の名前を口にしている。

 そんなに気になってるの!?

 信用できるってことは、二人の間に何かがあったの!?

 いつの間にそんなことに!?

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