Ep.1 塗り替えられていく真実
『女子高生Aが起こした事件は現代の若者の暴力性を語っている。ゲームやアニメ文化が今も誰もを暴力に駆り立てている』
なんて書かれている雑誌を買ってから、踏みつけにした。何も知らない。この記事を書いている人はただ買ってもらいたいがために大袈裟に書いているだけ。
僕は自身で調べ上げていた。
彼女が本当にやりたかったこと。それはSNSで繋がっていた相手の復讐だ。と言ってもSNSで出会って現実で知り合って、どんどんと二人の女子の絆は深まっていた。しかし、その子は突如首を吊ったらしい。
随分前に彼女が家に帰ってこなかった日があった。その日は彼女がその子の真実を知るために遠い場所まで出向き、墓参りをしたそうなのだ。
当然、彼女はちょくちょくそこへ出向き、情報を手に入れていった。僕も電車で同じ街へ行き、彼女が訪ねた学園に足を踏み入れ聞いてきたことだ。間違いはないと思う。
最後に彼女が触れたのはいじめによって、彼女が死んだことだった。
社会の暴力性に触れたのは志儀ではない。そのいじめの犯人であり、デジタルで被害者を誹謗中傷して楽しんでいたとのこと。
誹謗中傷じゃ飽き足らず、泥水やヘドロを飲ませられるなんて軽い方。時には万引きなんかもさせていたそう。近くのコンビニの店員がその顔をハッキリ覚えていたと語っていた。ついでにそのことを熱心に聞いていた志儀の顔も。
「あの時は大変だったよ……なんたってその子、おばあちゃんっ子だったみたいで何度もお母さんに言わないでって店長に言ってたみたいで……でも、結局、そのおばあちゃんもね……」
おばあちゃんも実は道で倒れていたとのこと。
しかし、そのいじめをした奴等はその祖母すら足蹴りにして歩いていたと。そのせいで今も病室で昏睡状態であると。
その事実は流石に医者は語らなかったものの違う人から手に入れた。
たまたま病室の近くにいた人が事情を知っていて「あそこで救急車を呼んでるか、もしくは何もその子達がしていなければ……」と僕に嘆いてくれたのだ。後から違う人も似たような情報を提供してくれたから記憶の錯乱などはないと思う。
そして、その子は親戚の元に。しかし逆に親戚は追い詰められた彼女の感情など無関心。僕が来た時も追い返そうとしていたが、必死に噛みつき情報を教えてくれた。
「ああ……教えりゃいいんだろ? その殺人鬼の女の子だっけ? 何度も噛みついてきて、墓の場所を聞いてたよ。まぁ、あの場所でやりそうだなとは思ってたが……じゃあ、これでいいだろ!」
と言って、僕の手をはたく。そこで叫んでやりたかったが、そもそも今ここで僕が不法侵入などで訴えられたら負ける。そう思って引き下がることしかできずにいた。
新聞や記者が情報を連ねたのもこの人のせいだとは思っている。この人が自分勝手で面白いと考えた情報を手渡していたのだ。あの日、彼女の目は血走っていただとか。家の中でに忍び込んで来ようとしたとか。
きっときっと、彼女は単に涙目で墓参りがしたいと訴えていたことだろう。
ただネットで出会った関係というのがまず理解されなかった。彼女の強い優しい思いも壊された。
たぶんあいつらも原因だ。
僕の予想になるが彼女は怒りを燃やしたのだろう。
いじめには無関心を決める生徒や親戚。誰もいじめられた子に復讐などしない。それどころか悲しみすら見せない。
それならば彼女の存在が一生残るように。せめて彼女の生きた証が残るように。自分がいじめた人間共を血祭に仕立て上げよう、と。
彼女は絶望の末に勘違いしてしまった。それが正しい判断だと。
何も相談してくれなかったのは僕も何も理解してくれないと思ったからだろう。こちらに言っても、信じない。例え信じたとしても、どうしようもできない。何もしない。そう絶望されていたのだ。
今だってそう。タイムマシンで過去に戻れたとして、彼女になんて声を掛ければ良いかも分からない。
彼女が大切にした人の生きた証すら、見つけてあげられない。
自分で自分に失望した。今だって色々調べ上げてきたのに。前の自分はそれすらしないだろうとも。
「……ふざけんな」
それと同等に怒りがこみ上げる。
適当にものを書き上げる、この記事のことが。本当に知る努力をしたのか。それをしたとして、真実を本当に知ろうとするつもりはないのか。
彼女はゲームなんかで暴力を知った訳ではない。
テレビゲームで彼女に負けてゲーム機を叩きそうになった僕を隣で宥める位だ。
『それはダメだよ……怒るのはいいと思う。よくその趣味を大切にしているから怒れるって言うし……でも、そのゲームを壊したら楽しめなくなっちゃうよ。その怒り、今度は私にしっかりぶつけてよ。小細工とかし過ぎなんだよ。ごり押しで攻めてみたら、意外と勝てちゃうかも』
何故僕と彼女が逆にならなかったのだろうか。
そう思う位、彼女は優しかった。アニメだって人一倍楽しんでは面白いと僕に語ってくれた。平々凡々と何の気なしに生きている僕に刺激をくれた。笑いをくれた。
『嫌な時はアニメでも見て笑ってスッキリしよ?』
一緒に見ていたもの。
それで暴力性ができるのなら。
「ふざけんな……ふざけんなふざけんなふざけんな! 僕の思い出を汚しやがって! あの子は、あの子は、そんな子なんかじゃない!」
記事を思い出して更に腹が立った。せめてできることなら、この手でその編集長か誰かを殴り込みに行きたい。
と言っても、そこまで暴力をしたらいけないと自制する。
人のふり見て我がふり直せ。
殺人鬼のふりを見て、人を傷付けないようにするというのもおかしな話だが。彼女と同じ真似をしたら、誰かが困るとのことを知っている。
だけれども話し合いはしたい。だから都内のビルへと向かう。そもそもだが取材の約束は受けている。彼女が殺人を犯した後でわざわざ僕の家に来た理由を知りたがっているのだ。
僕は知らない。
彼女はここから遠い街で人を殺している。それなのに死体を隠し、わざわざ捕まるかもしれない覚悟を持って移動してきたのだ。ヒッチハイクであるというのは証言者がいた。「あの時は大きな鞄を持ってたけど、臭ってはいなかったから単に部活の帰りかと思っていた」と。大きな鞄は剣道のバッグ。被害者がやっていた武道の道具を使ったらしい。
そんな危険な真似をしたのか、聞いてきたのだ。
独占取材ということで僕は部屋の扉を開けた。
その途端、息を塞ぐ。あの臭いがしたから。そして、目を疑う。デスク越しからでも見えてしまったのだ。その記者の胸に深々と包丁が刺さっているのを。
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