第36話 野営バーベキューは突然に 照焼きチキンとサーモンフライタルタルソースがけ(1)

 私がお姉ちゃんと山羊のミルクを温めて赤ちゃんドラゴンたちに与えていると、フーリュンくんが滋養たっぷりという珍しい果物を持ってきて私たちにくれた。

 それはバナナみたいな形で皮を剥くと中身はスイカそっくりだった。バナスイカと呼ぼう。

 フーリュンくんは他にはりんごと桃が半分半分の不思議な果物の「桃りんご」も採ってきてくれた。

 翼を折られた赤ちゃんドラゴンには添え木と包帯で応急処置がされた。私とお姉ちゃんは滋養がある果物をすりこぎで潰して、人間の赤ちゃんの離乳食みたいにした。

 果物もあげると赤ちゃんドラゴンたちはちょっぴり元気を取り戻したみたいで、ぴいぴいとひな鳥みたいに可愛く鳴いた。

 抱っこすると頬を私に擦り寄せたりペロペロ舐めてくる。


「かわい〜い」

「ホントだね。こんな仕打ちをした強盗団の奴らが憎いわ。ううっ、許せない」


 ふたたび腹を立ててるお姉ちゃんの身体の周りからシュウシュウと煙があがる。

 こっちの世界に来てからのお姉ちゃんはいっそう正義感に溢れている。

 お姉ちゃんは私が近所のイジワルな男子にいじめられていた時に助けたくれた頃と全然変わらない。


 異世界にやって来ても、お姉ちゃんは頼りになる私の大好きなお姉ちゃんのままだ。ほんのつかの間離れていた時だけで変わったような気がしたのは、お姉ちゃんがドラゴンソードマスターとかいう能力を授かって戦うことを決めたからだ。

 お姉ちゃんの潔い覚悟が私には眩しい。




 アーロン副料理長が私たちのところに戻って来た。

 彼が野営基地に呼びに行って、レッドドラゴンのアレッドおじいちゃん、それからミントさんとバジルさんと一緒に救護班の人たちが駆けつけて来てくれた。


 そういや、強盗団の一味の監視役を追い掛けて行ったローレンツ料理長はまだ戻って来ないのが気になるな。大丈夫かな?


 私、アレッドおじいちゃんとミントさんにバジルさんの顔を見たら、なんだかすごくホッとしてる。

 

「フリード様! ヤヨイ! これはまたとんでもなく大騒ぎですなあ」

「アレッド、ご苦労。風のドラゴンたちとの対話はお前に任せる。良いな?」


 アレッドおじいちゃんはレッドドラゴンの姿に戻っていた。ただし、サイズは小さめ。あんまり大きいと話がしづらいものね。


 ミントさんとバジルさんが駆け寄って来て、私を抱きしめてくれた。

 

「まあっ、ヤヨイ様! 良かった! 何度も襲撃されたと聞いて肝を冷やしました。本当にご無事ですか? 手当てが必要とあらばすぐに駆けつけて参りますからね! 今朝旅立たれた折は私、とーっても寂しかったのですよ? でも嬉しいわ。すぐにまた会えましたものね!」

「うんっ。すぐでしたね」

「ふふふっ、良かった。無敵のフリード様のことはまったく心配していませんでしたが、ヤヨイ様のことはとても心配しておりました。杞憂であるとフリード様は仰られてましたけれどね」


「姉の葉月です。弥生がお世話になりました」

「まあっ! お姉様っ!?」


 お姉ちゃんがミントさんとバジルさん、アレッドおじいちゃんに挨拶をする。

 ミントさんとバジルさんはお姉ちゃんと私を一緒に抱きしめた。


「ああ、ほんとうに良かったですわね」

「弥生様はお姉様と再会できましたのね」


 ミントさんたちに抱きしめられ、あらためてお姉ちゃんと再会できたことに浸るとぐすっと泣けてきた。

 気づけばみんな、アレッドおじいちゃんまで嬉し泣きをしてくれてた。



       ◇◆◇


 お日さまが沈みとっぷりと暮れて、満月に照れされた山々の連なりが影になり、いつかテレビで見た時代劇のような風景が広がっている。

 異世界の幾度めかに迎えた夜は、最初に居た野営基地より不気味な魔物や魔獣の遠吠えがしていた。


 テレビもスマホもない世界。

 私が異世界召喚転移をさせられた時に持っていた荷物は、転移の魔法の衝撃かほとんど手元に無かった。

 ずいぶんテレビも見てない、スマホも触っていないな〜。

 でも、なんか平気。あんなひつようだったのに、無いなら無いなりになるもんだ。ここでは、異世界では生きるの、必死だからかな。

 もっと自分の世界が懐かしく、ホームシックのような寂寥感に襲われると思ったのに、意外……。

 そこでフリード様の美しすぎる顔や悪戯に笑う顔が浮かんで、ボッと顔が熱くなった。


 教会の敷地に急遽張られたキャンプ、集まっている人々やドラゴン族やらエルフ族やら魔族に教会の神父さんたち、一同総出で近くの川や森でいっせいに食料調達の狩りや魚獲りや木の実集めに奔走する。


 アレッドおじいちゃんが先日フリード様と一緒に討伐したロックバードの保存していたお肉を保存庫から持って来たりもした。


 一時間ほどすると大量に食料が集まってきて、みんながお待ちかねの夕食の調理を初める。


 野営バーベキューと称して、急ごしらえのかまどでご飯を炊いたり、野菜とともに串刺しにした猪獣いのじゅうやロックバードのお肉をどんどん焼いていく。塩コショウのもの、それから私は大きなフライパンで照焼き(ロックバード)チキンを焼いていく。

 お子ちゃま舌なフリード様なら、照焼きチキンは大好きになってくれると思う。

 ご飯の上に乗せても良いし、パンに挟んでも良い。

 パンはパン屋さんで働くお姉ちゃんの専売特許なので作っておいたパン種を渡して焼いてもらうことにした。お姉ちゃんはパン屋さんで職人として働く傍ら開発と営業も学ぶという多才ぶりだ。

 いつかはおばあちゃんのお店『たんぽぽ洋食亭』を盛り上げていずれは継ぐためにって言っていた。

 私は夢が漠然としていたけれど、野営キャンプをしているうちに『たんぽぽ洋食亭』の空き時間にこども食堂をやってみたいと思っていた。もしくは二号店を作ったてやってみたいと思った。もっと勉強しよう。自立なんて程遠い高校生、子供の私にはまだまだ足らない。何もかも。もっとお料理の知識と見聞を広めて、もっと特訓しなくっちゃ。


 私はアーロン副料理長と教会の近くの澄んだ清流の川で豊漁だったサーモンそっくりの魚をサーモンフライにしていく。タルタルソースも作った。


 こうして作っていくと、おばあちゃんのお店で教わったことや、お父さんやおじいちゃんと料理したキャンプ料理のテクニックが役に立ってる。


 私は天国のおじいちゃんとお父さんにそっとお礼を言った。

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