第33話 〜奇跡の再会と風のドラゴン〜

「お姉ちゃんっ!! 弥生だよ!」


 私は必死で上空の風のドラゴンに乗って勇ましくガーゴイルと対峙している姉の葉月に訴えかける。

 だけどお姉ちゃんには、風のドラゴンたちが起こす烈風の轟音で私の声が聞こえてないみたい?


「フリード様、お姉ちゃんに声が届かない」

「大丈夫だ。俺がなんとかしよう」


 よく見れば、風のドラゴンたちはガーゴイルを追いかけて来てて攻撃を仕掛けようとしていたんだよね。

 両者のあいだに緊迫した睨み合いが続いている。

 そこで、フリード様が炎を龍みたいにまとい湾曲した愛刀をいつものように何もない空中から魔法で取り出すと、自分で張った結界からサッと飛び出て、ガーゴイルの群れにひと振りした。


 するとたちまち「ギャッ!」とか「ギィヤアァァァッ!」とか断末魔の声をあげながら、ガーゴイルたちは次々と倒れて滅せられていく。


「――フリード様! かっ、かっこいい〜!!」


 私がフリード様の剣のその鮮やかさと素早さに見惚れているあいだに、ガーゴイルは反撃する余地すら与えられずに黒い光の粒子となって続々と霧散していった。

 まるでそこにいただなんて信じられないぐらい、跡形もなくガーゴイルの群れはフリード様の手によって退治されちゃった。

 あっという間の出来事に、驚いている風のドラゴンたちとお姉ちゃん。

 フリード様の持っている剣はシュウーッと煙をひと吐きして、手元からまた消える。

 もう今は振る必要はなくなった、役目を終えたとばかりに。


「わあっ! さすが、フリード様」

「なに、造作もない」


 フリード様は私をチラッと振り返り、すぐに風のドラゴンたちに視線を戻した。


「そこの偉そうな奴うっ! すぐにドラゴンの赤ちゃんたちを返しなさ〜い!!」


 数日離れてただけだけどすでに懐かしいお姉ちゃんの凛とした高い声があたりに響く。


「お姉ちゃんっ!!」

「えっ!? ええっ!? ええ――――っ!? 弥生? 弥生なのっ!?」


 ようやくお姉ちゃんに私の声が届いたみたい。

 私を認識したお姉ちゃんがぶわっと涙を溢れさせ泣き始め、乗っていた風のドラゴンが地上にゆっくりと降りてくる。


 フリード様が横に立ち、私の肩を優しくぽんっと叩いた。


「弥生、良かったな」

「フリード様ぁ……」


 私も感極まって、泣けてきちゃった。

 そしてフリード様は私の背中を軽く押す。


 すぐ目の前に、風のドラゴンに乗ったお姉ちゃんが着地して、ドラゴンから飛び降りて来た。


「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

「弥生っ!!」


 私もお姉ちゃんも駆け寄って、抱き合った。

 ぎゅううって、必死に存在を確かめ合うように。


「ああっ! 弥生! あんたが無事で良かった。……しかし、なんであんたそんな格好? どうして男装なんかしてんのよ」

「お姉ちゃん! お姉ちゃんも無事なんだよね? ケガとかない? 捜したんだよ。あそこにいる人、フリード様が協力してくれたんだ〜。あちこちに人を動かしてくれたり情報をかき集めてくれて。……ああそうだ、他の人には私が女だって内緒だからね?」

「ああ、弥生。もしや、誰かの指示? そっかぁ……、ここ私たちの世界よりぶっ飛んでるよね。こんな凄い色んな意味で危ない世界じゃ男の子の格好の方が好都合かもね」

「うんっ! フリード様の提案なんだよ」


 フリード様は私が振り返ると、微笑んだ。

 お姉ちゃんが一瞬息を呑んだのが分かった。


「やだ、あんたに夢中で気づかなかった。弥生、弥生! ねえねえっ、なに、あの超絶イケメンは! ちょっとちょっと美形すぎないっ!? ほんとに人間なの? あの人。規格外過ぎる。実は天空から来た麗しい神様とかじゃなくって? あんな顔も姿も完璧な人間がいる異世界、やばいわ〜。そっかあ、あれがもしかして噂に名高い炎帝フリード?」

「あー、お姉ちゃんも知ってるんだ。そうだよ、炎帝フリードって呼ばれたり覇王とか呼ばれてる」

「へえ〜、彼、この世界の有名人だよね」

「そっ、有名人」


 お姉ちゃんは私を抱きしめ離さずに、私越しでフリード様を眺めていた。


「……へえ、アレがねえ」

「アレだなんて失礼だよ、お姉ちゃん。フリード様はね、私のことゴブリンから助けてくれて。あれこれ世話を焼いてくれてるの!」

「とにかく弥生。あんたが酷い目に遭ってなくって良かったよ」


 お姉ちゃんも私も涙声、嗚咽混じりに喋るもんだから、風のドラゴンたちや黒馬のシルヴァにペガサスのサーガまでが寄って来て心配そうに私たちを囲った。

 それから、私とお姉ちゃんにすり寄ったり、慰めようと涙をペロッと舐めてきたりする。


 私とお姉ちゃんは動物たちの優しい気持ちがくすぐったくって、二人ともたまらず笑い出した。

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