第19話 大好評! ロックバードの竜田揚げ
私の竜田揚げを作る料理の工程と手順を見ていたローレンツ料理長とアーロン副料理長が横で真似て、あとは口伝えに他の料理人の人達に伝えていく。
衣は三種類。
片栗粉(原料はカタクリではなくこの世界でもあるだなんて……といってもじゃがいも馬鈴薯のデンプン)と、アーモンドスライスと、あとはじゃがいもの千切りにハーブソルトとにんにくの刻んだもの。
大勢の料理人で手際よくどんどんロックバードを揚げていく。
すっごい良い匂いがしてきた〜。
この香ばしい香りたまりません。
竜田揚げの揚がる香りはきっと野営基地のすみずみまで、いいや、ちょっと遠くの村とかにまで漂っているんではないでしょうか。
大皿にロックバードの竜田揚げがうず高く積み上がっていく〜。
まるでエジプトのピラミッドのごとし。
レモンを添えて出来上がったおかずを、私はまずはフリード様の天幕に運んでもらうことにする。主食は白い炊きたてほかほかご飯だ。
ディップソースも作ろうかと思ったけれど、下味もつけてあるし今日はそのまま食べてもらおう。
充分、ロックバードのお肉の中まで味が染み込んでいるはず。
「味見するの忘れてた」
揚げ物を揚げるので必死過ぎて、料理人としての大事な味見を忘れちゃダメだよね〜。
「皆さんも味見をしてみてくださーい」
ローレンツ料理長とアーロン副料理長が「どれどれ」と言いながら出来たて揚げたて竜田揚げを頬ばると唸った。
「はふっ、はふっ。うんまいっ!! こりゃあ、いける! すっごい美味いぞ、ヤヨイ殿」
「ふぉっ、あつあつっ。んーっ、めちゃくちゃ美味だっ! ワインかビールが飲みたくなる」
満面の笑みで、二人とも2つ3つと口に竜田揚げを次々と放り込んだ。
料理長達が味見をしたので、待ってましたとばかりに他の料理人達も続々と味見をしていく。
「うんまっ!」
「すっげえ、美味い。いくらでも食えるぞ」
「おいしーい!!」
「美味です、美味です。今までの人生で、こんな美味しいロックバードのお料理をワタクシ食べたことがありませんわ」
「なんてジューシーで美味しいのかしら?」
料理人さん達に混じっていつの間にかミントさんやバジルさんが試食を召し上がっています。
それから広場にロックバードの竜田揚げ三種類とご飯にミネストローネとお味噌汁(大発見! 食料貯蔵庫にお味噌があったの! わーい)を並べてもらった。
私は【覇王の料理番】なので、食後にフリード様にあとは例のものを用意したよ。
ふっ、ふっ、ふっ……、例のものですよ、フリード様。
あのフリード様お気に入りの大好きな物をバージョンアップしたのです。
◇◆◇
フリード様の天幕に入ると、今朝にはなかった大きな丸い食卓テーブルがあった。セイロン様が用意したんだって。
一気にフリード様の天幕が賑やかになっていた。
「良い匂〜い」
「はやくたべたいでち」
「これはこれは。ロックバードの生肉しか食べたことがない儂らには革命の瞬間ですじゃ」
「ヤヨイちゃん、すごいすごい」
フリード様を囲むように、魔法チワワ犬のケルベロスくんにグリフォンのリーフォくんとドラゴン二匹のアレッドおじいちゃんとライティくんが座っていた。みんな、今はヒト型に変身しているけどね。
「何してる? フェルゼンとセイロンも座れ」
「えっ、そんな」
「フリードと一緒に? 俺も食卓に着くのか?」
「俺のすすめに異論があるのか?」
「いや。一緒に食事を囲むのは久しぶりだな」
「否、よろしいのでしょうか……」
「ごちゃごちゃ言ってないで座れ。皆で揃って弥生が作った飯を食おう」
それからフリード様に着席を促されて、躊躇いがちにセイロン様とフェルゼン爺やさんが椅子をそっとひいてフリード様の真向かいに座る。
「すっげえ、美味そうだな。弥生。でかした」
「はい、けっこう自信作ですよ。味見したら美味しかったですもん。私の太鼓判です」
「また俺を差し置いて先に味見したのか」
「しましたよ。料理人はみんなしますって」
一瞬、私はちょっぴりジト目を向けられたけど、「召し上がれ」と言うとフリード様は満面の笑みで笑った。
フリード様のなかに蓄積されてる
思わず見惚れそうだったのに、フリード様の笑顔の眩しさに目が開けてられなかったよ。
私はフリード様のすぐ隣の席に座るよう言われた。フリード様があろうことか私のためにすくっと立ち上がり椅子をひく。
なんだか私は、お恥ずかしながらいっぱしのレディかどこぞのお姫様かになった気分になった。
照れが襲って、フリード様の方が見られないですぅ。
……まあ、男装してるんですけどね。
しかも私はまだコックの姿です。後片付けとかありますし。
「弥生はせっかく露天風呂で湯浴みをしてきたのに、揚げ物では油くさくなっちまったかな? すまん、俺達のために」
「なんですか、ぜんぜん良いんですよ。私は私の作った料理を美味しそうに食べてもらえることが至福なんです。さあ、冷めないうちに召し上がってください」
全員で「いただきますっ!」と言ったら、やっとディナータイムの始まりです。
◇◆◇
「くーっ、美味いっ! すっっげえ、美味い!」
フリード様の声がすぐ横で聞こえる。
――すっごく嬉しいっ。
私、自分が作った料理が食べてくれた人に美味しいって言ってもらえた瞬間、恍惚というんでしょうか、胸のなかに喜びが広がります。
料理をする人すべてが報われる「これ美味い」「すごく美味しい」って言葉。
その時、すべてが昇華されちゃうって感じじゃないかな。
材料入手やレシピを考えたり、時間をかけた食材選びや下ごしらえも手間も調理しているあいだに神経を尖らしてることも、もうそんな疲れも吹っ飛んじゃう。
どんどんロックバードの竜田揚げはお皿から消えていきます。
「これこれ、ライティよ。そんなにがっつくではない」
「アレッドおじいちゃん、だってヤヨイが作ったご飯すっごく美味しんだもん」
「ライティ、良いんだぞー、たくさん食え。皆のもの作法などかまわん。ガツガツ食え。思うままにたらふく食ったら、よく眠って英気を養え」
フリード様が一同を見渡して言うと、フェルゼン爺やさんがハンカチで涙を拭いた。
そうだ、フリード様って食事が苦手だったんだよね。
きっとこうやって大勢で食卓を囲ってご飯を食べたりすることなんてあんまり無かったんじゃないかなあ、
うん、だからフェルゼンさんが歓喜に満ちた顔をして、フリード様と私を交互に見つめているのね。
腹ペコだった胃袋がたっぷり満たされたら、きっと心配な気持ちやイライラとか憂いやネガティブな気持ちも紛れて、良い考えが浮かんだりすると思う。
それにやる気がみなぎるでしょう?
食べるは「活力」だ。
それから、食べることは「生きること」ですよね。
(おばあちゃん、お母さん、お姉ちゃん。食卓に着いたみんなが、私の作った料理を美味しいって食べてくれたよ〜)
私はほんのり感動すらおぼえて、うるうるとしてきた。
「弥生、お前も食え。人の食べているのを嬉しそうに眺めているだけでは腹はふくれんぞ」
「ああ、はいっ。ちゃんと食べます」
「明日から弥生、お前と数日街に出るからしっかり休んでおけ」
「――えっ? なんですって?」
「だーかーら。お前、何度も言わせんな。俺がお前を連れて城下街やあちこち視察に向かうんだ。……その、ランタン祭りとか言う幻想的で美しい夜祭りもあるようだから見せてやる。心しろよ?」
私とフリード様が街に出る?
それってどういうことですかあっ?
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