第8話 ギャップ萌えな覇王フリード様にハンバーグを作ろう!

 さあっ、ギャップ萌えな覇王フリード様にハンバーグを作ろう!



 ミントさんとバジルさんが付いて来てくれた。途中途中で野営基地の説明を丁寧にしてくれるので助かる。

 調理場キッチンには大小があり、フリード様向けの食事専用の調理場もあるそう。ただ、あんまり食にこだわらないフリード様、最近では騎士たちと皇帝の料理を隔てないのであまり区別なく使われてるんだって。


 きっと今朝、私がフリード様に案内されプリンを作ったのは、フリード様専用の調理場だったんだ〜。


「そもそもフリード様は食にはあまりご関心がなく……」

「城下や都では味付けに凝ったものもあるし、変わった食べ物を作るコックもいるとは聞きますが、この国では基本焼いたものに塩をかけたり、肉や魚を水で煮て岩塩で食したりなどシンプルですから」

「そうなんですね……」


 歩いていると、女性からの熱い視線を感じる。

 私を少年騎士だと思っているのだから、ちょっと申し訳なく……。

 ごめんね、この姿は偽りで変装なんです。

 私、男の子だったらモテていたのかな〜。そしたら告白されたりして恋人がいてリアルが充実してたんだろうか。

 まあ、おばあちゃんの洋食亭のお手伝いに夢中だったし、男の子でもあまり変わらない生活だったかな。


「それにしてもヤヨイ様は眉目秀麗なハンサムでらっしゃいますね」

「えっ? そうですか? ありがとうございます。私、あまり実感と言うか自覚できないですけど」

「ヤヨイ様って瞳がまん丸くキラキラしてますでしょう? 笑顔も煌めいて可愛らしい美形で。甘くとてもチャーミングです。わたくしども、お洒落させがいがあるってもんですわ」


 ミントさんとバジルさんの声がだんだん熱がこもってくる。二人は私が女の子だって正体を知ったうえで熱弁を振るってくれるあたり、褒め言葉は本気なのかしら?

 今まで容姿になんて自信がなかったから服装も着心地や動き重視だったけど、自分の世界に帰ったら少しはお洒落してみようかな?


 調理場に行くまでに何人かの女子に声をかけられ、私は笑顔で返す。

 そのうち皆ともお喋りもしたいなって思うけれど、今はフリード様のランチを作ることが最優先事項だ。


 女性達が群がってきそうになると、ミントさんとバジルさんがあしらって追い返してしまう。ちょっぴり罪悪感……。


 調理場に着いて、私はその場にいたコックさんをミントさん達に紹介された。


「こちら、ローレンツ料理長とアーロン副料理長です」

「よろしくお願いしますっ!」

「おお、よろしく。俺がローレンツだ。野営基地の料理は俺の指揮下で作っとる」


 この人、さっきフリード様に話しかけてた人だ。最前列にいた恰幅の良い魔法騎士だ。斧を持ってたよね? 筋肉隆々で大きーい!

 料理長かつ、いかつい戦士だ。


「ローレンツ料理長は、食材確保も弟子を連れて自ら行かれますの」

「魔獣肉に魚の狩猟にキノコ山菜採り、料理長は博学でなんでもござれですわよ」

「その場で猪獣いのじゅう焼いてな、新鮮なうちに燻製肉にもしちまうこともあるぜ。燻してる間に暇だかんな、山から木材を伐りだして野営基地用の焚き木も作る。乾燥には時間がかかるが、俺は魔法騎士でもあるから風魔法でたちまちあっという間に薪の完成さ」


 ああ、だから持ち武器が斧なんだ。

 豪快そう……。

 ローレンツ料理長は猪獣いのじゅうとか熊とか仕留めるのが似合うと思う。ジビエ料理もお手のものっぽい。


 それからこちらのアーロン副料理長さん、なんかフリード様とも違うイケメンだよね。

 甘い雰囲気、チャーミングだ。

 くせのある豊かな赤毛が可愛さを加えて、瞳は紅水晶に茶色が差している。


「ああ、どうも。ヤヨイ殿のことはフリード様から聞いております」

「フリード様って……根回し上手なんですね」

「うんうん、頭が切れる方だからね」


 フリード様、かなりお忙しいだろうに……、私のために皇帝なのにあれこれ世話を焼いてくださってるんだなあ。


「いやー、君も料理に関心が? 貴族なのに料理人を目指しているんだってね。って僕もだけど」

「アーロン様は侯爵家の8男でいらっしゃるんですよ。ちなみにフリード様の従臣のセイロン様は大公爵家の跡取りになります。申し遅れましたが、私たちの出身は伯爵家なんですよ」


 伯爵だの大公爵だの、実はよくわからないなあ。フリード様にひととおり簡単に教わってたけど、あとでメモろう。


「辺境伯家とは君も遠い場所とこから来たんだね?」


 ああ、すいません。私は一般家庭の平民、庶民も庶民なんです。


 自己紹介とか終わって、私は調理場の料理を作る承諾を得た。


「材料はお好きなようにお使い下さい。我々は騎士たちの昼食作りに入ります。では、何かありましたら呼んでくださいね」


 フリード様の招集は私のお披露目会ということもあったしで、お昼はとうに過ぎてしまったので申し訳ない気になる。

 本来なら、もうお昼ご飯は食べてる時間だよね。


 ああ、料理のプロたちを気にしてる場合じゃなかった。

 私は異世界に来たてで右も左もわからない、ちょっとおばあちゃんの洋食亭のお手伝いをしてるだけのただの高校生なのだ。

 失敗しないよう美味しく作るためには、集中してハンバーグとオムライスを作ろう。


 私は鼻歌を歌っていた。


 竈門の中火に鍋をかけお米を炊く。

 なんと驚くことに異世界にもお米があったのだ!

 嬉しいっ。

 私、食材庫を見た時に確認しておりましたっ。これには狂喜乱舞しますです。


 美味しくなあれと真心をこめながら、オムライス用の玉ねぎピーマン人参ロックバード肉を食べやすいサイズに切っていく。玉ねぎはハンバーグにも使う。卵を割ったりつなぎにパンを削りパン粉を入れる。玉ねぎは炒めて冷ましておく。

 二品作るから、同時進行だ。


 ……それにしても、パン、堅かった〜。

 こっちではパンは堅いものなのだろうか。魔物討伐に行くから、日持ちするように水分が抜けたパンなのかな?

 立派な窯もあるのに、美味しいふかふか焼き立てパンが食べられないだなんて、もったいない!

 近いうちにパン作りにも挑戦しようっと。


 ハンバーグには私の世界の牛に近い牛っぽい魔獣肉と猪獣肉を合い挽きにして。猪獣は豚肉と一番近いみたい。刻んだ玉ねぎはあえて炒めずに食べごたえ重視なので生で加える。あとは牛乳卵にパン粉を混ぜ、塩コショウをして〜。

 サラダ油? オリーブオイルっぽい? 油を熱したフライパンに入れ。

 じゅーっといい音がした。

 ハンバーグ種を入れる。片面に焼色が付いたらひっくり返そう……。そしてちょっとのワインと水を入れ、蓋をする。


「うーん、いい匂い」


 あとは別のフライパンでバターを溶かしてからチキン(ロックバード)ライスを作って、隠し味(醤油! なんと異世界にもほぼほぼ醤油と味が一緒の調味料があるのだ)入りの卵を焼いてチキンライスを包む。

 ハンバーグのソースはとろ火で作る照り焼きと大根おろしにする。

 フリード様はお子ちゃま舌だもん。照り焼きって子供が喜びそうな味だから、きっとフリード様、食べたら美味しいって言ってくれるよね?


 たくさん作ったので、残りは食用安全きのこ(椎茸に近し)【鑑定済み】を加え煮込みハンバーグにして……。


「「ヤヨイ殿!」」

「わわっ、びっくりした!」


 私は熱中して料理をしていたから、四人の人にじっと見つめられてるのに気づいていなかった。


 目をランランとさせ、ミントさんとバジルさんとそれにローレンツ料理長さんにアーロン副料理長さんが私の作った料理を見ていた。


「「私たちにも作ってください!」」

「こりゃあなんて美味そうなんだ! 実に興味深いですぞ、ヤヨイ殿。俺はこんなにも食欲をそそられる料理は知らん」

「料理の勉学のためにも、僕にも作ってくれないか? それから作り方も手取り足取り教えて欲しい!」


 ええ――っ!?


「ちょっと待ってください。皆さん、落ち着いてっ」


 四人で同時に一気に捲し立てるように話されても、私には聞き取れませ〜んっ。

 私はすっかり剣幕に押されてしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る