第6話 覇王フリード様からの加護と腕まくらー!?

「……弥生。……そろそろ起きろ、弥生」

「キィヤアアアッ! 男〜っ!」


 目を覚ましたら、すぐ目の前に男の人の顔があって、驚いた。


「しっ、静かにしろ。寝ぼけんな、俺だよ、フリードだ」


 お昼の騎士招集時間の間近になって、私はフリード様に起こされたのだった。


 さらにびっくりしたのが、フリード様に腕枕をしてもらっていたこと。


 ――ドキッン!


 すぐ目の前に、フリード様の顔がある。

 ううっ、すごい破壊力だ。

 ……美しい。

 かっ、格好いいんだもの。

 人気のアイドルもイケメン俳優も負けちゃいそうなぐらい魅惑的すぎて、ドキンとさせられてしまいますっ!

 うーん、ほんと格好いい。


「そんな……、弥生お前な、俺をマジマジと見つめすぎ。ああっもう、恥ずかしいからあんまり見るな」

「ふえっ!? うっ……。えっとフリード様。こっ、こんなに近くちゃ、見るに決まっているでしょう」

「ふーん」


 見つめていたい。


 一種、絵画のように。フリード様はこの世の奇跡、芸術とも言える。

 凛々しく整った眩いばかりの綺麗な顔……、でもこうして見るとあどけなさもあって。


 フリード様は私の頭を撫で、柔らかい笑顔で笑う。


「……フリード様」

「よく寝れたか?」

「はい。すっきりです」


 耳元に落ちるフリード様の優しい声音に、騒いだ気持ちが穏やかになっていく。

 私はフリード様の腕の中のあたたかさに瞳を閉じて。

 心地良さに浸っていた。

 うっとりしてくる。

 正直、陶酔していた。


 このかたにはホッとする何かを感じる。

 理屈じゃない、何か。

 本当に惹きつけられちゃう。


「ありがとう、フリード様」

「んっ? 腕枕の礼か? ……役得だな」


 ちょっ、ちょっと良い雰囲気ってやつですか!

 変に甘い空気が漂って照れる。


 私とフリード様、お互いの唇同士が近すぎて、下手に動いたら口づけしてしまいそう!


「おっ、起きますね」

「もう少し。……弥生お前をこの腕にまだ抱いていたい。久しぶりに俺も熟睡できた」

「抱きまくら代わりですか、私?」

「そっか。そうかもな」


 私はフリード様の胸の中にすっぽりとおさまっていた。

 密着したフリード様の胸、確かな心音がする。

 鼓動は……早い。


「フリード様?」

「なんだ?」

「私にドキドキしてらっしゃいます?」

「ゔぁっ、あっ? ……馬鹿言ってんじゃねえ。俺がお前にドキドキしてるだって?」


 だって、フリード様の鼓動がこんなに早い。


「心臓の音、早いです」

「つっ、疲れてんだよ。魔物退治とお前の回復で力使ったからな」

「ごめんなさい。ありがとう」

「嘘だ。……悪い。ほんとはぜんぜん疲れてねえよ、お前が作ったぷりん食べたし元気が満ちてる」

「もしかして照れてます?」

「……ああ。かもな」


 きゅんっ。

 わわっ、私の胸の奥がきゅんってしちゃった。


 フリード様、ツンツン否定してたのに……。

 急に素直になった。


 そのまま、しばらく二人でベッドの上でじっと寄り添っていた。




 ――うんっ?


 テントの出入り口の方でガサガサカチャンと音が聴こえ、私はフリード様の腕から抜け出し飛び上がった。

 クスッと笑うフリード様の声がする。



「殿下、そろそろよろしいですか? バジルとミント参上いたしました」

「ああ、ご苦労。ちょっとそこで待て」

「「御意」」


 フリード様がベッドからスッと立ち上がる所作、一瞬伏せられた瞳がなんか色っぽい。

 艶があるというか……。


 キリリとした表情に変わる。


 フリード様は気品ある振る舞いで炎帝の制服(?)をサッと羽織り、腰に柄に装飾を施されたつるぎを差し込んだ。


「……弥生、見惚れてんじゃねーよ。照れるだろうが」

「ええっ! フリード様に見惚れてなんか……」


 つかつかと歩いて来たフリード様に顎をくいっと持ち上げられ……。


「あのっ! いっ、いけません」

「――弥生」


 ちゅっと甘くて軽い音が鳴った。


 フリード様から、ほっぺたにキスされちゃった私……。


 私、フリード様の不意打ちキスに、――放心しちゃってます。


「プッ……、お前な、隙ありすぎだ。俺のキスは魔法入りだかんな。加護、さらに強化しておいたぞ」

「そ、そっか。魔法……加護強化のため……」

「フフッ。弥生、男装したらそれらしくしっかりキリッとしろ。なっ? ちゃんと男前に変装させてもらえよ。……バジル、ミント、テントに入れ」


 フリード様は漆黒に近い藍色のマントを翻して、テントを出て行った。


「こいつ、頼んだぞ」

「「はっ、畏まりましたわ、殿下。お任せ下さいませ」」


 彼と入れ替わりで入って来たのは……。


 一人は騎士の制服に身を包んだ背の高いご婦人で、一人は魔法使いのローブにエプロンを掛けた背の小さなご婦人。


 フリード様がばば達といったけど、年齢はうちのおばあちゃんほどではなさそうで、お母さんとおばあちゃんのあいだぐらいに見える。


「ヤヨイ様、初めまして。私はバジルです。さあ、仕度に入りましょう。うん、合格です。ヤヨイ様、可愛いわ。下地の素材がよろしい。これは腕がなりますわね〜」


 バジルさんは騎士の格好の人、じゃあこちらのローブにエプロン姿のひとがミントさんか〜。


「初めまして、弥生様。わたくしはフリード殿下付きの侍女、私はミントです。事情はさきほど、殿下から聞きましたよ」


「はっ、初めまして! バジルさん、ミントさん。私は弥生と申しますっ!! この度はよろしくお願いします!」


「ふふっ、元気でよろしい」

「まあ、可愛らしいかたね」


「「とってもチャーミングね♪」」


 二人の声が揃う。

 このお二人は、かなりの仲良しさんなのかな?


「うふふっ。私達、双子の姉妹なのです。外見はだいぶ変わりますがね」

「とうぜん、中身も違いますよ。私達、双子といっても分身じゃあ、ありませんからね。個々で別々の人間です」

「はい。そうですよね。あのっ、今日はよろしくお願いします」

「今日から、ですね。私達、弥生様には頼っていただきたいです。なんなら、故郷には帰らず、ずっといらしてくれて良いのですよ」

「だってあんな嬉しそうで必死な顔で頼みごとをしてくるフリード殿下……、わたくし、初めて見ましたもの! はあ、お二人は素敵ですね」

「ロマンスを感じるわ〜。陛下がこの世にお産まれになった奇跡の瞬間から私は陛下にお仕えしてきて、こんな色めきある出来事は初! ですわよ! 女性にデレる恋してるフリード様を見るのが。私はこの上なく幸せです」

「えっ、えっと〜、フリード様は恋なんかしてると思いませんよ。ましてや私なんかに」

「まあっ! 私なんかとはご謙遜なさって! 良いんですよ、ばば達には一目瞭然でございますから」

「だってですね、私とフリード様は昨日、出会ったばかりですし……」

「愛も恋も必要なのは時間じゃありませんっ! 無駄に時を重ねれば良いってもんでもないんですよ? 出会った瞬間、恋に墜ちて。互いに想い合うこともあるのです」


 ……そうだね。

 たしかに、そうかも。

 フリード様には出会ったばかりだというのに、ドキドキさせられっぱなしだし、胸は高鳴る。


 これが何かと問われれば、フリード様にずっと抱えてるドキドキは恋っぽいかも? 

 恋が始まる前のときめきに近いものなのかもしれない。


 もしくは、推し……?


 もうこうなったら、私はフリード様を異世界の推し認定します!


 美貌の皇帝様なんて、たとえばアイドルが同じ学校にいるようなものだもん。

 二人の距離は近くても、実際にはお近づきになるなどはなはだしく、地上と月ほどに遠い。


 私には雲のさらに雲の上の存在って感じだ。今は近くにいてくれても、向こうは高位な貴族で皇帝だし。

 私は平民、一般人。

 ううっ、格差がありすぎる。


 はっきりそうは断言できなくとも私、フリード様の優しさや頼りがいのあるとこや安心させようとしてくれてた気持ちに好意は寄せている。

 それは私、恋べたで恋愛関係は鈍いとか言われがちな自分でも自覚してる。


 ぽ〜っと考えごとしちゃっていたら、バジルさんとミントさんが魔法の杖を振るい出した。


「「さあ、始めますわよー?」」


 魔法の杖からは金色や虹色の光がほとばしって、私の体がその魔法の光に包まれた。

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