烙印を押される

 ニュージェネレーション賞とは言っても、所詮は落選、不合格なのだ。オーディションの勝者はただ一人、グランプリのみ。ニュージェネレーション賞を獲ったからといって、仕事が舞い込んでくるわけでもなく、今までと全く変わらない日常が待っている。

 この結果を屈辱と捉え、彼女は日々演技の練習に励んだという。凹んでいる場合じゃない、悔しかったら練習して実力で見返してみろ、そんな負けず嫌いな性格がみてとれる。

 実は同様にニュージェネレーション賞を受賞した人がもう一人いる。残念ながら彼女は2019年で芸能界を引退している(と思われたが、最近活動を再開した)。このことからも、ニュージェネレーション賞を取ればその後は安泰、とはいかないことがよくわかる。

 そんなわけであのオーディションの後、彼女は暗く厳しい試練の時期を過ごすことになる。振り返ってみると、あそこでグランプリを取らなかったからこそ、その後の彼女の演技力に磨きがかかり、いずれ訪れる日本を代表とする素晴らしい賞へとつながっていくのだが、まだこの時はそれに気づいていない。


 次に彼女が表舞台に出てくるのは2015年。人気アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」を実写化したスペシャルドラマである。このドラマのヒロインである本間芽衣子、通称「めんま」役に抜擢されたのだが、これがまた最難関の演技力を要求されるとんでもない役柄だった。

 なぜここまで難しい役柄だといえるのか。

 まず、アニメの実写化、それだけで難易度が跳ね上がる。なぜなら、漫画では許される演技、セリフが実写化された途端すさまじい違和感を伴ってしまうことがあるからだ。「も〜う、なんでぇ」とか「ぷんぷん」などというカットは漫画でこそ違和感なく受け入れられるが、実在の人物が実際に演技をすると突然陳腐なものに見えてしまう。かといって、それを削ってしまうと原作の良さが激減してしまうため、脚本家や役者は二者択一を迫られる。採用したまま、うまく演技をこなすか、もうその場面をカットしてしまうか。

 ただでさえ難しいといわれる漫画の実写化に加え、この「めんま」役がこれまた特殊な役であり、特別な配慮が要求される。淡々とした性格のキャラであれば実写化はたやすいが、「めんま」はまさに漫画に出てくる可愛らしさ、愛くるしさいっぱいのキャラなのである。

 何も考えずに漫画のキャラをそのままを演じれば違和感満載になってしまうし、だからといって演じなければもっとつまらない。

 さらにである、この話を知っている人ならおわかりだと思うが、この話はまさにこの「めんま」の謎を解く物語なのである。謎を残したまま、最後の一番大事な解決編で感動のクライマックスを迎えるわけだが、その全てにおいて、この「めんま」が重要な鍵を握っている、まさに扇の「要」である。

 「めんま」良ければ全てよし。

 「めんま」ダメなら総倒れ。

 このドラマを絶対に成功させたいのであれば、どんなことがあっても失敗できないポジション。そこに浜辺美波は抜擢されたのだ。


 そんな大役に何故、当時まだ実績の伴っていなかった浜辺美波が抜擢されたのか。

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