第2話 くろいかいぶつ
みーこが地面を走る最中に瑠璃は何かを見つけた。
背中を叩いて知らせる。
「なんかいるよ。止まって」
みーこは瑠璃が降り落とされないように徐々に減速し、瑠璃の指し示す方を見た。
そこには木偶人形が三体、槍を持って歩いていた。
「あれは初めて見たね。あれも私を見たら攻撃してくるのかな?」
ここにいる様々な存在はみーこ以外は襲い掛かってくる。
みーことの出会いも、あやうくバッタ人間に丸焼きにされそうだった所を助けてもらったのが始まりだ。
みーこが屈んだので瑠璃は地面に降りる。
それからそっと木偶人形に近づく。
みーこはどうでもいいらしく、毛づくろいを始めてしまった。
木偶人形たちは兵隊の様に規則正しく手と足を同時に動かして進んでいる。
「こんにちわ」
遮るようにして前に出て瑠璃は挨拶をする。
学校でも挨拶は大事だと教わった。木偶人形に挨拶をする人はあまり居ないだろうけど。
瑠璃が挨拶をした瞬間、木偶人形の動きがピタッと止まり、直立不動になる。
「どうしたの?」
不安になってもう一度声を掛けると、頭の部分から突然口が出てきた。
口の中は牙だらけで恐ろしい。
「敵だ! 赤兎様の敵だ!」
「わっ、なになに!?」
木偶人形たちは槍を構えると、矛先を瑠璃の方へと向ける。
そのまま突っ込んできた。
いきなり攻撃的になった木偶人形に面食らい、後ずさる。
運の悪いことに大きな石を踏んでバランスを崩し、転んでしまった。
「あいたっ」
怪我はしていないものの、背中をうった痛みにうめく。
そんなことをしていると木偶人形が一気に距離を詰めてきた。
木偶人形は瑠璃よりも少し小さい大きさだが、持っている槍は大きい。
矛先の刃がきらりと瑠璃の姿を反射した。
「みーこ! 助けて!」
このままでは危ないと判断し、この不思議な世界の中で唯一、そして一番頼りになる相棒の名前を叫んだ。
すると近くまで寄ってきた木偶人形たちがまとめて薙ぎ払われた。
みーこの尻尾が助けたくれた。
みーこ自体は動いていない。
毛づくろいを続けているが、尻尾だけが長く伸びて助けに来てくれた。
「ありがとう!」
手を振ると大きなあくびが返ってきた。
みーこにとってはあの木偶人形は脅威ではないらしい。
伸びた尻尾がするすると元の体へと縮んでいく。
みーこはただの大きな猫ではないのは一目瞭然だった。
木偶人形達は見事に粉砕されている。
少し時間が経つとその姿は薄れるように消えていき、そこにはメダルが落ちていた。
銅色のメダルが二枚。銀色のメダルが一枚。
瑠璃はそれを拾うと、虹色の空に掲げる。
メダルは出来立ての新品なのか、奇麗に磨かれており光を反射する。
瑠璃が顔を近づけるとメダルに顔が反射していた。
「これなんなんだろうね? ピカピカしてとってもきれいだけど……」
とりあえずポケットの中に入れる。
この世界にいる存在は死ぬと死体が残らない。
そして何らかのものを落とす。
殆どは先ほどのメダルがほとんどだが、偶に靴や帽子なんかも落とす。
今瑠璃が身につけている靴もそうやって手に入れたものだ。
童話の様にこの世界から持ち出しても消えたりはしない。
元々の靴は穴が開いていて、雨の日は水がしみてきてとても嫌だったので愛用している。
……靴が欲しいとメモに書いた時、1000円が置かれているだけだった。
靴がそれでは買えないのは子供でも分かる。
胸の辺りが苦しくなったので嫌な考えを追い出す。
この世界ではそんなことは考えなくていい。
時間も限られているのだから、楽しいことに集中したい。
縮んでいくみーこの尻尾に乗り、運んでもらう。
ここから見える小さな塔が今日の目的地だった。
再びみーこの背に乗り込み、ドライブを楽しむ。
風を感じているだけで清々しい気分になった。
あっという間に小さな塔に到着した。
中はどうやら工房になっているようで、トントンと叩く音がする。
瑠璃はそっと中を覗いてみると、帽子をかぶった犬達が忙しなく武器を作っていた。
そこには先ほど木偶人形たちが使っていた槍も見える。
「忙しい忙しい」
「赤兎は無茶を言う」
「逆らったら食べられるぞ!」
どうやらこの犬達は赤兎に命令されて色々と武器を作っているらしい。
先ほどの木偶人形も赤兎と言っていた気がする。
この世界に来て赤兎の名前はよく耳にする。
今まで瑠璃が聞いた話を纏めると、この世界で一番体が大きくて強いらしい。
それで暴れん坊で、暴力で皆に言う事を聞かせている悪いやつ。
みーことどちらが強いのかは分からない。
「最近黒いのが暴れてるって」
「赤兎に逆らうなんて恐ろしい。命知らずだ」
「黒い怪物も赤兎にきっと食べられる」
黒い怪物。
多分みーこのことだろう。
瑠璃の前では猫でいることが多いが、みーこには決まった形がない。
だからさっきみたいに尻尾だけ伸ばして助けてくれたりもできる。
一度だけどろどろの姿を見たことがあるが、その時はみーこは見られるのが嫌そうだった。
すぐに猫の姿に戻り、甘えてきて瑠璃の頬を舐めてきたのを思い出す。
(きっとみーこは怪物って言われたくないんだ)
瑠璃はそう思っている。
犬達の邪魔をする訳にもいかないので、みーこのところへ戻る。
塔の探検をしたかったのだが、見つかればまた追いかけられるだろう。
少しがっかりしていると、みーこが突然立ち上がる。
「みゃっ」
小さく鳴いて、移動を開始した。
瑠璃は驚いたものの、みーこに身を任せる。
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