童話「ケーキのなかなおり」
Zarvsova(ザルソバ)
ケーキのなかなおり
甘い匂いが漂う夕方の商店街の一角。匂いを追って歩いてみれば、そこにあるのは小さなケーキ屋さんです。レジの横にあるショーケースの中で、売れ残りのケーキたちが何やらおしゃべりをしていました。
「なあ君たち、二番目に人気のケーキは何だと思う。一番は当然のように僕だが」
ショートケーキがなめらかな生クリームの前髪をかき上げながら、他のケーキたちに向かって自身満々に言いました。頭の上のいちごが王冠のように輝きます。
それを聞いたチョコレートケーキが、
「お前も売れ残りの癖に何を言ってるんだ」
と言い返しました。
しかしショートケーキは
「一番人気はたくさん作られるからね。僕のように運悪く売れ残るショートケーキがいるのも仕方ないさ」
とクールに答えました。
「なんだ余裕ぶって。人間はチョコが大好きなんだ、ショートケーキに負けるか」
そう言ったチョコレートケーキの体が熱くなって頭の上のチョコが少し溶けてきました。ケンカが始まりそうになったところで、
「まあまあ二人とも落ち着いてよ」
いつもニコニコと明るいフルーツタルトが二人の間に割って入って、キウイでできた口でにっこり笑って言いました。
「ショートケーキもチョコレートケーキも定番だから売れるよね。でも僕の方がいろんなフルーツが楽しめてカラフルだから、本当に人気なのはフルーツタルトだと思うよ」
それを聞いたモンブランも続きます。
「フルーツだったら俺だって栗をのっけてるぞ。フルーツタルトにはもちろん、ショートケーキのいちごにも負けていない」
「いやフルーツって言われて栗が出てきたらちょっと複雑じゃないか」
「なんだと。お前は今、栗ようかんと栗きんとんとマロングラッセも敵に回したぞ」
ケーキ達が好き勝手におしゃべりを始めたので、ショーケースの中はホイップクリームを泡立てる厨房のように騒がしくなってきました。
その時です。
「みんな、お客さんだぞ」
チーズケーキの一言でケーキ達はすぐに話すのをやめて静かになりました。
やってきたのはお母さんと男の子でした。
どのケーキが買われてこの人たちを笑顔にするのだろう。それはきっと自分に違いない。
どのケーキもそう信じてケースから出されるのを待っています。
「予約していたケーキを取りにきました」
お母さんが言うと店員さんが
「はい、お待ちしておりました。では中身をご確認下さい」
と、お店の奥から大きなケーキを運んできました。そのケーキは、ショートケーキでもチョコレートケーキでもモンブランでもなく一匹の大きなドラゴンの形をしていました。
「おいあのケーキはなんだ」
ショートケーキが戸惑って言いました。
「何味のケーキなんだ」
チョコレートケーキも驚いて言いました。
「なんだ、あの見た目は」
フルーツタルトが震えながら言いました。
嬉しそうにドラゴンのケーキを持って帰った親子をショーケースから見送ったケーキ達に、モンブランが言いました。
「あれはキャラケーキってやつだ。最近人気らしいぞ。あんな見た目だけのやつに負けていられない。俺たちはケンカせず、明日から一丸となって味で勝負しようじゃないか」
モンブランの言葉にケーキ達は拍手喝采。彼らの団結がより深まったのでした。
次の日、ショーケースの中のケーキ達は賞味期限が切れたので全て捨てられてしまいました。
新しいケーキを焼くとってもいい匂いが、朝から商店街に漂います。
童話「ケーキのなかなおり」 Zarvsova(ザルソバ) @Zarvsova
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます