第4話 新興貴族タック
タックは、ひときわ立派な扉の前まで案内された。扉の横に立っている兵士が言うには、ここで待てということらしい。兵士は扉をノックし、中へと入っていく。少しして戻ってきた彼はこう言った。
「謁見の間へ入れ」
「あ、はい!」
(謁見って……たしか王様に会うって意味!?)
緊張してきたタックだったが、扉のむこうにいた人物をみて拍子抜けするのだった。そこにいたのはひとりの少女だったのだから。玉座に座りながら頬杖をつき、退屈そうにしている様子だ。年齢は10歳くらいだろうか。小さな体を2倍ほど大きく見せる豪華な装束を身に着けており、王冠もブカブカのようだ……目がほとんど隠れてしまっている。
「あの子が王様……?」
「こらっ! 無礼者!!口を慎め!!」
「あっすみませんっ!!」
あわてて口をおさえるタック。少女はこちらを一瞥して言った。
「……かまわぬ。さあ、遠路はるばるご苦労であった。もっと近う寄れ」
少女が手招きをする。
(ちこーよれってなんだろう……仕草を見ていると……こっちに来いって意味かな。というか、本当に王様なの? え~~~~と……村で聞いた話だと、名前はクロムス様だっけ……すごく強い人で、僕が生まれる前からずっと王様だって話なのに。他の人が即位したのなら、村で噂話になってると思うんだけど……)
あれこれ考えながら一歩、また一歩と近づいていくタック。少女の前まで来るとひざまずくよう言われたので従うことにした。すると彼女はこう言ってきたのだ。
「もっとじゃ」
「いいのかな……」
「よいよい、早う書状をこちらへ」
そうだ、自分はこれを届けるために王都まで来たのだ。だが……渡す相手のことなど考えていなかった。そもそも少女が何者なのか不明だ。王冠をかぶっているとはいえ子供に渡していいのだろうか?
(団長のときはわざわざ付き人を経由したのに……)
タックは考えることをいったん捨て置いた。言われたとおりにしよう。団長が自分ひとりを行かせた理由があるはずだから。あの人は怖いけど悪い人ではない……多分。
「どうぞ!」
決心とともに声をあげ、両手で書状を渡した。受け取った少女の表情がみるみる変わっていくのがわかる。読むにつれて驚きか喜びか……良い感情であることはわかる。
「よくやったぞオーガス……コホン。おぬし、名をなんと申す?」
「タックといいます」
「そうか。ではタックよ……そなたに土地を与えよう」
城の兵士たちがいっせいにどよめく。
だがタックにはピンとこない。土地とはそこにあるもので、生き物が住むところである。人があげる? 渡す? 意味がわからない。大量の土をもらっても嬉しくない。村に帰ればたくさんある。
「あのぅ……土地をくれるってどういう意味ですか?」
「そのままの意味である。領地を与えるということだ」
「……………………………………????」
沈黙。
沈黙。
沈黙。
「……うむ、オーガスが書き記したとおりの田舎者のようじゃ」
少女はなぜか満足そうな顔でうなずいた。王冠がずり落ちそうになるのを手で支えながら……そして大声で叫んだ。
「皆のものよ聞け。クロムスの王オーロラの名において、タックを貴族に叙する!」
ざわつく場内。兵たちのあいだでささやきあう声が聞こえる。騎士ならまだしも、貴族の爵位をあたえるなど聞いたことがない。陛下は何をお考えなのか?
そんなざわめきのなか、ひとりの兵が声をあげた。それは先ほど門番をしていた男だった。
「恐れながら申し上げます! そのような引き上げは前例がありません。どこの馬の骨とも知れぬ男をなぜ……」
「黙れ!!!!」
小さな体からは想像もできない、空気が震えるほどの一喝だった。あまりの迫力に全員が押し黙る。静寂が訪れたのち、王は語りだした。
「この者は魔法使いを討った。前例のない難敵を初めて仕留めたのじゃ。前例のないことが起きても不思議はなかろう?」
***
その夜、さっそく宴がはじまった。兵たちの話によると『士気をあげるため』だそうだ。はるばるやってきたらしい貴族はもちろんのこと、兵や従者たちもほとんどが参加しているようだ。酒や料理が次々と運ばれて盛り上がってはいるが、タックの気分はそうでもなかった。
(みんな無理やり楽しくなろうとしてるみたいだなあ……)
かといって場の空気に水をさすのも気が引けるので、自分を褒めたたえる貴族たちに愛想笑いを浮かべつつ料理を頬ぼった。状況のせいで味などほとんどわからないほど空虚な時間だった。
ふとタックは、いつまでたってもオーロラの姿がないことに気がついた。国王なら出てきて当然だと思うのだが……もしかしたら体調が悪いのかもしれない。心配になってきたころ、ようやく司会の男が声をあげた。
「クロムス陛下のおな~~~~り~~~~!!」
にぎやかだった宴が静まりかえり、上階のバルコニーに出席者の視線が集まった。しかし――そこに現れたのは王冠をかぶった、年老いながらも大きな体格の男だった!
「だ……誰!?」
思わず口に出してしまった。一瞬、怪訝な目で見られた気がする。まずいと思いあわてて口をつぐんだ。
「万歳! 国王陛下万歳!」
周囲がふたたび騒がしくなるなか、どういうことなのだろう? わけがわからないまま宴は終わり、解散となった。帰り際になって門番の兵士に話しかけられた。
「おい、お前には部屋を用意してある。ついてこい」
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