第24話 影分身
「“
周囲の影が揺れ動き、無数の槍となってローズへと迫る。
ローズは指を弾いて炎を出現させると、それらの槍をすべて撃ち落とした。
「ヒヒっ、やっぱりやるねぇ」
「あんたに褒められても嬉しくないっつーの」
「おっと――――」
エヴィーの足元から、炎が噴き出す。
瞬時にステップでかわしたエヴィーだったが、内心で舌打ちした。
(逃げ込もうにも、炎が明るいせいで近くの影が吹き飛ばされちまう……こいつ、あえて光度を上げてやがるな?)
エヴィーへの攻撃として使用している炎は、すべてローズの意思によって光度が上がっていた。
炎を自由自在に操るローズは、その光の強さも自在に操ることができる。
影を利用して戦うエヴィーからすれば、厄介な相手ということだ。
(ま、それだけじゃ負けないから、あたしは特級なんだけどな)
エヴィーは地を蹴り、一気にローズに接近する。
近接戦闘では、わずかだがエヴィーのほうに分があった。
(手数で押して、炎を生み出す隙を与えねぇ……!)
魔力で強化した拳を、ローズに向ける。
ローズはそれを腕で防ぐが、あまりにも重い一撃に体が浮いた。
「“影打・乱舞”!」
足元の影が帯のように全身に巻きつき、エヴィーの身体能力を底上げする。
目にも止まらぬ高速ラッシュ。
ローズはそれを捌きながら、再び炎で影を吹き飛ばそうとする。
「させねぇよ!」
「っ!」
指を弾く構えを取った瞬間、エヴィーはその腕を掴み、空いてる胴体に三発の拳を叩きこんだ。
意識が魔術に向いた際、一瞬だけ隙ができる。
エヴィーはそれを待っていたのだ。
「……っ」
打撃が芯に響き、ローズを揺らす。
(下手に魔術で攻めるより、近接を主体にしたほうが主導権を握れる。このまま押すぜ――――)
「はぁ……仕方ないわね」
「――――え?」
刹那、エヴィーの頭が仰け反る。
どうやら、顔に一撃食らってしまったらしい。
「何がっ……」
「歯ァ食いしばりなさい」
今度はローズのラッシュが始まった。
人体における急所を、ローズは的確に打ち抜いていく。
そして最後は跳び上がり、エヴィーの頭に渾身の蹴りを叩きこんだ。
「がはっ……!」
血をまき散らしながら、エヴィーは地面を転がる。
(なんだ……⁉ 急に身体能力が上がりやがった!)
それでも、彼女がかろうじて体勢を立て直せたのは、とっさに“魔力強化”で身を守ったから。
反射的に身を守ることができたのは、日々の鍛錬と、度重なる経験の賜物だろう。
「“魔力強化”以外で身体能力を向上させるなんて、これまで考えもしなかったわ。いいヒントをありがと」
「……まさか」
ローズの周りの景色が歪んでいる。
それを見たエヴィーは、一つの答えにたどり着いた。
「体温を上げて、身体機能を向上させやがったな……⁉」
「正解」
自身の体温を調節することで、ローズの血流は飛躍的に加速。
肉体のリミッターは外れ、反応速度も向上した。
本来ならば血管が耐え切れず、破裂して死に至る。
しかし、ローズは全身の“魔力強化”により、血管すらも超強化したことで、これに耐えうる肉体に進化した。
「これなら、近い間合いでも十分戦えそうね」
「っ⁉」
立ち上がったばかりのエヴィーの腹部に、ローズの拳が突き刺さる。
(まずい……! なんとか距離を――――)
「魔術と体術の組み合わせ……どんどんアイデアが湧いてくるわ!」
エヴィーが後ずさろうとした瞬間、その足を炎の鞭が絡めとる。
いや、それは鞭というより『尻尾』。
ローズの背中から伸びた、九本の尾だった。
「ついでに……!」
肘から炎を噴き出したローズは、その推進力を利用して、音速の一撃をエヴィーへと叩き込む。
(っ……意識が……)
エヴィーの意識が飛びかける。
しかし、彼女の特級兵士としてのプライドが、最後の最後で意識を保った。
「っ!」
ローズは、とどめの一撃を放つ前に、手を止めた。
その瞬間、エヴィーの口から漆黒の槍が飛び出してくる。
とっさに身を逸らし、ローズはなんとかその槍をかわした。
「まさか口の中の影まで利用するとはね……ちょっとバッチくない?」
「ゲロ吐きながらでも戦ってやるよ……あんたに勝てるならなァ!」
エヴィーは、瞬時に物陰へと飛び込み、影の中に消える。
すぐに森ごと吹き飛ばそうとしたローズだったが、そうする前に、信じられない光景が飛び込んできた。
「「「“影分身”ってやつだ。さあ、最終ラウンドと行こうぜ」」」
「……また厄介なことを」
自身を取り囲む、数多の
それを眺めながら、ローズは面倒臭そうに頬を掻いた。
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