第22話 鎬を削る戦い
「ヒヒっ、来たね、ローズ=フレイマン」
「二度と顔合わせないんじゃなかったっけ?」
「事情が変わったんだよ。あたしは嬉しいぜぇ? お前とまた戦えることになって」
「私としては面倒臭いから勘弁してほしいけど」
再び鬱蒼とした森の中で、ローズとエヴィーは対峙する。
相変わらず不気味な笑みを浮かべているエヴィー。
その隣には、前回はいなかった屈強な男が立っていた。
「こいつが『真紅の庭師』ローズ=フレイマンか……ちと細いな。魔術師はどいつもこいつも筋肉がなくていかん」
「出たよ、筋肉理論。熱苦しいからやめてくんね? それ」
「何を言うか! この世に筋肉を超える武器などありはしない! 戦場では、そのことを理解していない者から死んでいくのだ!」
「はいはい……分かった分かった」
声のでかいその男は、着ていたローブを勢いよく脱ぎ捨てる。
そして露わになったのは、鋼の筋肉と、その魅力を引き立てるための芸術的な刺青だった。
「ずいぶん仕上がってるわね。私の好みじゃないけど」
「笑止! 好みを語るなら、この肉に抱かれてからにせい!」
男は鋼が仕込まれたグローブを腕につけ、大きく拳を振りかぶる。
「“
ローズは、自身に向かってくる拳をただ眺めていた。
すると拳と彼女の間に、アルフが飛び込んでくる。
そして、耳をつんざくような金属音が鳴り響いた。
「あっぶな……! 僕抜きで始めないでくれない⁉」
「あんたの足が遅いのがいけないんでしょ?」
「足を使わない人に言われたくないね! 飛んでいくなんてズルじゃん!」
「魔術師が空飛んで何が悪いのよ」
そんな会話をしながら、アルフは巨漢から距離を取る。
「ほう、俺の拳を受け止めるとは……細身にしてはよく鍛えられているな。貴様がアルフ=ランドメルクか」
「そうだけど……君は?」
「俺はサンドレイズ帝国軍五番隊隊長、バレル=ジルクレイドだ。貴様の筋肉と俺の筋肉、どちらが強いか勝負といこう」
「筋肉にはあんまり興味ないんだけど……」
「笑止! そのような男がこの世にいるわけなし!」
「……ローズ、よかったらでいいんだけど、こっちの人と戦ってもらえない?」
そんな風に助けを求めてきたアルフを、ローズは鼻で笑う。
「別にいいわよ? パッと見だとそっちの男のほうが強そうだし? あんたが
「むっ……そういう言い方をされたら、逃げるわけにはいかないね」
アルフの意識が切り替わる。
普段の軽薄な態度から一変。
戦闘に入ると、彼は誰よりも優れた集中力を発揮する。
この状態の彼は、天下のローズであっても正面から戦うのを避ける。
「ヒヒっ、説得サンキューな。あたしはどうしてもあんたとヤりたかったからさ」
「だと思ったわ。私もね、あんたに入れられた二発をいまだに根に持ってるのよ」
四人の特級の魔力がぶつかり合う。
その余波で、近場の魔物たちは一斉に逃げ出した。
「アルフ、ここは任せたわよ」
「うん……あ、何か発破をかけるような言葉もらっていい?」
「勝て、以上」
「ローズらしいや――――了解!」
アルフが剣を振る。
魔力が込められたその一撃は、斬撃を受け止めたバレルを大きく吹き飛ばした。
「むっ⁉」
「僕以外の男をローズに近づかせたくないんでね!」
「笑止! 男が愛するのは女ではなく筋肉! 戦いは筋肉をより愛しているほうが勝つのだ!」
男たちがぶつかり合うのをよそに、ローズとエヴィーは互いに構える。
「楽しもうぜ! ローズ=フレイマン! 同じ特級同士、どっちが上か決めねぇとなァ!」
「いいわね。あんたが下なのは揺るがないけど」
こうして、特級同士の鎬を削る戦いが始まった――――。
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