第21話 臨戦態勢

「私は確かめたかったの。私自身の本質を……本当は何を求めているのかを」


「……答えは見つかった?」


「さあね。あんたに教える義理はないでしょ」


「旦那なのに?」


「旦那じゃない!」


「いでっ!」

 

 ローズは再びアルフの足を蹴った。

 

「……アルフ」


「いでで……分かってるよ」


 二人は顔を見合わせる。

 この辺りに現れた大きな気配を、すでに二人は察知していた。


「まさかわざわざ辺境の地に戦力を送ってくるなんて……」


「どうせ足止めよ。私たちに本隊と合流されたくないんだわ」


「あー、なるほどね」


 アルフは剣を持ち、ローズは何も持たず家を離れた。

 彼らは知っていた。

 自分たちのもとに、必ず敵が現れると。


「あ、そうだ。ローズ、これ」


「ん?」


 アルフは、自身の魔力袋の中から真っ白なローブを取り出した。

 それを受け取ったローズは、嫌そうな顔をする。


「なんでこれをあんたが私に渡すのよ。もう辞めたのに」


「国王とエルドリウスが、必要だろって」


「……なんでもお見通しみたいね。ムカつく」

 

 渋々といった様子で、ローズはそれを羽織った。

 そのローブは、宮廷魔術師の証。

 高貴なる白は彼らの立場を示し、あらゆる不浄を祓う。 


「やっぱりローズはこの姿が一番だね」


「……ふんっ」


 そっぽを向いたまま、ローズはアルフと共に向かう。

 まるで誘っているかのように気配を垂れ流す、強敵のもとへと――――。


◇◆◇


「国境が突破されたか……」


 兵士の報告を聞いて、ブラウン=ヴェルデシアはため息をついた。

 サンドレイズ帝国の厄介なところは、とにかく行動に移るのが早いこと。

 思いつきで国を落とし、欲望のままに蹂躙する。

 帝王が国を私物化しているからこそ、周りはそれに従い、迷わず動くのだ。

 セブン=サンドレイズの意見は絶対。

 誰も彼に逆らうことはできない。


「この調子だと、丸一日くらいで先頭を走る連中はここまで来そうだな」


 国境を守る関所から送られてきた報告を見ていたエルドリウスは、面倒臭そうにため息をついた。


「特級が三人……向こうの軍隊長どもだな……居ない二人は、おそらく辺境の足止めってとこか」


「あの二人が辺境にいるのは、果たして正解か否か……」


「勝てば正解。負ければ不正解。それだけの話だぜ、国王」


 エルドリウスは、吸っていたタバコを消し炭にする。

 

「……やれるか、エルドリウス」


「訊くなよ。あんたは一言命令してくれりゃいい」


「ふっ……頼もしい奴だ」


 ブラウンは玉座から立ち、窓から自身が統治する国を見下ろした。

 平和でのどかな城下町には、強い恐怖が満ちている。

 すべては迫りくる戦争という名の悲劇のせいだ。


「これは愛すべき国民たちの明日を守る戦いである。宮廷魔術師、エルドリウスよ」


「……おう」


「サンドレイズ帝国を――――蹂躙せよ」


 エルドリウスは、手に持っていた宮廷魔術師のローブを肩にかける。

 そして拳を一つ鳴らし、ブラウンへ背を向けた。


「お安い御用だ、我が主」


 

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