第3話 笑顔が終わる日
入院して七日目。
昼食後に病院の中庭に来た双子。
「やっぱりさ~なんかおかしいよね優笑ちゃん」
あの昼休みに感じた日差しより、もっと夏らしくなったと優笑は思う。
優笑の綺麗な艶のある肩までの黒髪が揺れた。
優楽は背中までの長い髪を、今は三つ編みにしている。
支給された紙パックのいちごみるくを飲みながら、不満げな顔だ。
「うん……そうだよね」
病院の中庭には、同じ学院の生き残りがチラホラいた。
もう入院して15日も経つのに、退院の話も出ず家族の面会も許されていない。
一般病棟とも隔離されていて、携帯電話も没収されてしまったままだ。
ストレスが限界なのか、看護師に向かって怒鳴り散らしている女子もいる。
あれは学院で有名な不良の先輩だったろうか。
学院で有名な聖女と呼ばれた先輩や、生徒会長も見かけた。
生き残りの32人がいるはずだが、ほとんどが個室で過ごしている。
なので32人で仲良くおしゃべりなんてことはない。
双子同士で肩を寄せ合って、大人しく過ごしているのだ。
「私には優笑ちゃんがいて良かったぁ」
支給されたパジャマ姿で、優楽に抱きつかれる。
「うふふ、優楽ったら。でも私もだよ~~」
可愛い笑みを浮かべる妹を優笑も微笑み抱きしめた。
優笑にとっても優楽は心の支えだ。
しかし不安はよぎる。
事件の真相も解明されていないのだろう。
あれだけの人数が殺された事件は、世間をどれだけ騒がせているだろうか?
テレビもニュースは禁止されているので、優笑と優楽は海外ドラマのシリーズを延々と見続けている。
外界から遮断されている事で、本当に学園の皆が亡くなってしまったのか現実味があまりない。
でも、たまに死んだ友人達を想い出し泣いてカウンセラーと話す日々だ。
一体いつになったら帰れるのだろうか。
「ムンバの新作飲みたいよねぇ~」
ムンバとは優楽の大好きなムーンバックスカフェのことだ。
甘えん坊でちょっとワガママな面もある優楽には入院生活はかなりストレスのようだった。
せめてスマホくらい返してほしいとも思う。
優しい両親は、どれだけ心配しているだろうか。
セキュリティの高い学院に無理して入学させてくれたのに、いつもいつも余計な心配をかけてしまっている。
早く無事な姿を見せたい。
「退院したら、速攻でムンバ行こ! クッキークリームチーズケーキも食べるんだから!」
ずっと悲しみに暮れていたら、狂ってしまう。
優楽の明るさが、優笑には救いだ。
「うん、私も優楽と一緒に食べる!」
「うん~優笑ちゃん大好き!」
また抱きつかれて頭を撫でてあげる。
「そういえば、普段使ってる基礎化粧品とメイク道具や下着のメーカーとか書けってアンケートさぁ、書いた?」
「あ~うん。えへへ普段使ってないのに、クリーンクの敏感肌用シリーズ使ってるって書いちゃった」
「あはは! 私もメイク道具シャルルのって書いた~! アイシャドウ8000円もするやつ!」
「そんな高級品、支給されるわけないのにね!」
「ホント、あはは。下着もシルク100%希望って書いた!」
「私も~」
近所では評判の美人双子姉妹。
たまにくる芸能事務所からの熱烈スカウト以外はなんのトラブルもなく平凡で平和で、世界情勢なんて関係なく平和が続くと思っていた。
それが崩壊しつつあり、今夜完全に破壊される事を少女達はまだ誰も知らない……。
「じゃあ、今日は点滴しますからね~まずは優笑さんからね」
身体に異常はないのに、定期的に点滴や採血をさせられ少しうんざりだ。
文句を言えるわけもなく、大人しく針を刺される。
いつもは就寝後も優楽と少しお喋りをして眠るのに……点滴の液が体内に入ってきたと思った瞬間に優笑は眠りについてしまう。
そして夜中の病院が慌ただしく動き出す。
ストレッチャーで運び出されたものは……。
「32体の搬出、完了しました」
防護服を着た男が無線でどこかに報告した。
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