第2話 聖女学園毒物混入大量殺人事件

 

 混乱する優笑のもとに、医者と看護師とカウンセラーもやってきた。

 ゴム手袋に医療用ビニールエプロン、弁のついたようなマスク姿。

 物々しさに、また驚く。

 まるで病原菌や危険物扱い……?


「貴女は天乃あまの優笑さん、学院高等部二年生の十七歳。間違いないですね?」


「はい……」


 診察を受けたが、とりあえず目立つような問題はないようだ。

 

 状況を教えてほしいと話すと、優しそうな年配女性カウンセラーが説明を始める。


「セレンナ聖女学園で毒物混入事件があったのです」


「ど、毒物……?」


「そうです。貴女も飲んだ花聖水はなせいすいに毒物が混入されていたようなのです」


「え、あの花聖水に!?」


 一ヶ月に一度の当たり前のように行なわれていた、花聖水を飲む行事。

 魂を浄化する……と言われている花聖水。まさかあれが死へと導く毒だとは……。


 しかし優笑は、全部飲み干したのを覚えている。


「私……全部飲んでしまったんですが……」


「はい、全ての生徒と教員はそうでした。学院長もです」


「……な、亡くなった人はいるのですか……?」


「生き残った貴女達が奇跡で……」


 生き残ったのが奇跡?

 恐ろしい言い方だった。

 

「じゃあ……生き残った人は何人いるんですか?」


「生存者は32人……です」


「さ、さんじゅうに……? え? 生き残った人が32人……?」


「そうです……」

 

 カウンセラーも医者も看護師も、皆が下を向く。

 優笑の手が震える。

 学院の高等部には、300人ほどの生徒がいたはずだ。

 つまりは270人は死んだという事なのか……。


 楽しい学園生活を共に過ごした友人達や、先生がほぼ全員?

 ウッと吐きそうになる優笑のもとに、優楽と看護師が寄り添った。


「優笑ちゃん……」


 優楽も涙を流す。


「そんな……嘘、どうしてこんな酷い事……」


「学院長も死亡しており、調査を進めていますが何もわかっていません。犯行声明もなく、何が目的なのかもわわからないままです。……ですから、こうして助かった皆さんもしばらく入院してもらいます」


「今後どんな影響が出るのかわからないからですか?」


「保護という面もあります」


「で、でも……それより……」


 一体自分の身体に何が起きたのか、優笑は不安になる。

 毒物が数日を経て身体に異変が生じる事にでもなったら……ゾッとする。


「わ、私達、何を飲まされたんですか?」


「胃酸に反応する毒物で、稀に胃酸の分泌が悪い方が発症しない事もあるという結論です」


「優笑ちゃん。助かってよかったんだよね私達」


 胃酸の分泌……?

 確かに幼少の頃の事件で精神不安定になり、胃腸の調子が悪い事もある。

 疑問に思えど、毒になど詳しくない少女には納得するしかなかった。

 優楽がさめざめと泣くので、自分の涙と交互にティッシュで拭ってあげる。


「助かった生徒さん達は、みな容態は安定しています。……大変な事件です。不安なことや辛いことがあったらいつでも話してくださいね」


「は……はい。あの家族には」


 きっとお父さんもお母さんも心配している、と優笑は優しい家族を思い出す。

 あの事件からいつも心配してくれる優しい両親に……もう苦労させたくないのに。

 自分は悪くないのに、優笑の心は痛む。

 

「すみません、面会はまだ無理なんです。寂しいと思いますがもう少し我慢してくださいね」


「……はい……」


 文句を言えるわけもなく、自分には妹の優楽がいるんだと優笑は自分に言い聞かせる。

 点滴を取り替えてもらい、入院生活の仕方なども聞いた。

 部屋は優楽との二人部屋らしい。

 他の生存者もここに全員入院しているらしいが……物音ひとつ聞こえなかった。


 そしてこの入院生活は七日目で突然、終わりを告げる。

 

 

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