第11話 ビッチ

「ここっしょ」

「ここは?」

みかんさんが不思議そうに尋ねてくる。

「ここは、ゲーセンだよゲーセン。ここらで1番大きいゲーセンね」


ここはここら辺で大きいゲーセン。名前は確か「ビッグ・大舘おおたち」だったはず。

一部の高校生などには、「」などという不名誉すぎるあだ名がつけられているゲームセンター(なお、私もビッチと呼んでいる)。しかしそんな「ビッグ」という名に恥じないゲーセンとなっていて、ゲームの種類がとんでもなく多いのだ。


「へ〜ここってこんなところだったんだ〜」

もーねが少し驚きの声を漏らす。


もーねの反応は当然の反応だ。

というのも、ビッチは、外観だけ見れば全くもってゲーセンに見えず、ただただ大きい何かの施設……?ぐらいにしか思えないのだ。

私のような地元民からすればゲーセンというのがわかっているのだが、もーねのような引っ越してきて日が浅かったり、観光の人はわからないことが多い。

ゲーセンなんて観光名所に載らないし……。


「高校生が何人もここに入っていくのが見えたけど、ゲーセンだったからなんだね」

「そうだよ。ビッチってここは呼ばれてるね」

「びっ⁉︎」


……流石にやばいか。今度からもーね達の前でビッチというのは控えよう。


「まぁ、ゲーセンの前で立ち話もなんだし、入ろっか」

「そうしよ〜」

いちごさんがてくてくとゲーセンに一番乗りで入って行った。


「何するの?」

みかんさんが聞いてきた。

「そうだなぁ……」

私が考えている時に、どこからか飛んできたコインが……

バゴッ!!!

なんともまぁ、鈍い音が鳴った。

「いったぁ……」

音の鳴った方向を見るとコインがぶつかったであろう頭の部分を押さえながら少し涙目になっているみかんさんの姿があった。

「はぁ……」

と、なぜかため息を漏らすいちごさん。

「ま、まぁなんか運が悪かったっぽいね?」

と言おうとしたら、さらにコインが飛んできた。そしてそれはコインが当たった部分を押さえているみかんさんの額に直撃した。


みているだけで痛々しかった。それは、男の頃についていたアソコを蹴られたりする際の痛々しさに近いものを感じた。


「お姉ちゃんって、不幸体質なんだよね」

ため息混じりにいちごさんがそんなことを言った。

「不幸体質?」

「うん。不幸体質」

「そりゃまた、めんどくさい体質なこと……」

「そのせいでお姉ちゃんは……」

そう言いかけて、いちごさんは止めた。

「?」

何を言いたかったのだろうか。


流石に入り口付近でつっ立っているわけにもいかないので、肩を貸しながら休憩ができるスペースまで移動した。

ちなみにコインの出所はクソガキだった。

ぶつけてきたのに謝りもせずに遊んでいるからクソガキだ。


「くぅぅぅうっぅスォぉぉぉおぉぉグァぁぁぁぁぁくぃぃぃぃいぃ!!!」

クソガキという単語をうめき声のような声で呟いている。

美少女が出していい声じゃないんだよな……。

まぁ、怒るのも無理はないと思うが。


「お姉ちゃん……」

いちごさんがみっともない……という視線をみかんさんに向けている。


「そういえば、あえちゃん、さっきから体が震えていたりするけどどうしたの?」

「いや、なんか猛烈な視線を感じるなぁ……と思って」

「え?もしかして……例の組織……?」

もーねが真顔になって周りを見渡す。

「殺気とかみたいな感じじゃなくて……怖いっちゃ怖いんだけど、なんか気持ち悪い視線というか……おっさんにダル絡みされているみたいな感じが……」


視線の感じた方向を見るとそこには———

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