第34話 黒幕
襲撃事件の後、犯人の男子生徒は気絶したまま捕縛されて連行された。私は教師や騎士団の人たちに状況を説明し、開放された時には午後の授業は終わってしまっていた。イーサラムの授業を受け損ねてしまったじゃない!
「エマ! 大丈夫!?」
職員室から出てきた私の元へ、カーラが駆けつけてくれる。取り敢えず一息吐きたかったので談話室へと移動すると、そこには皆が待っていてくれた。シアーラまでいる!? 実は襲われた時、一瞬彼女の陰謀ではないかと言う考えが頭を過ぎったのよ。喋ってみると全然悪い女性ではないんだけど、ミステリアスだしゲームパッケージのイメージが強い。実際ゲームの中には登場しなかったし悪役かどうかも分からないんだけど、セオリーで言えば悪役なのよね。
「おい、大丈夫なのか?」
「有り難う、ユージーン。でも怪我したわけじゃないから平気よ」
「一体、どうして襲われたの!? サイモンたちの話じゃ、相手の男子生徒は普通じゃなかったって聞いたよ」
ユージーンもマシューも心配してくれている。聞けば二人は剣術の授業の裏で生物学の授業を受けていて、カーラとシアーラも一緒だったらしい。ってことはシアーラ黒幕説はないか。
「相手の男子と面識はないのか?」
「ないわね。多分別のクラスの男子だと思うわ」
「普通じゃなかったって……どんな感じだったか教えてもらえるかしら?」
シアーラも一応心配してくれていて、これで黒幕だったらびっくりだけど……彼女からはエマに対する悪意を感じない。それは初めて会った時からそう。前の扉の中でエマが殺害された場面を思い出すと、犯人の三人の人物には独特の雰囲気があった。それは多分悪意とか殺意とか、そう言ったものなのだろうと思う。エマに向けられたそれは周囲の空気を変えてしまうほど本当に重苦しいもので、ドロドロと体に纏わりつくような感じ。今思い出しただけでもゾッとするわ。
「相手はどこか目が虚ろなんだけど狂気に満ちていて、ウーとかアーとか歯を剥き出してにして唸ってたわ」
そうだ、獣だ。前の扉の中の殺意とは違い、今回の男子生徒はまるで獣の様に私に襲いかかってきた。本能のままに目の前の私を殺しにかかっている、そんな雰囲気で、悪意や憎悪みたいなものは感じなかったわね。
「まだ分からないけど、強い暗示……イーサラムの影響を受けている可能性があるわね」
真剣な表情になってそんなことを言い出したシアーラ。なんであなたがそんなことを知ってるの? と言う疑問と、そんなイーサラムってあるの? と言う疑問が同時に押し寄せる。シアーラはそれを私の表情から読み取ったかの様に答えてくれた。
「イーサラムと言っても、イーサグラムを使ったものではないわ。現在はそんなイーサグラムは存在しないし。旧王国時代よりもっと前、イーサグラムを介さずにイーサラムを使っていた時代のものと思うの」
イーサラムの授業でならったイーサリズムの歴史。確かに旧王国より以前の戦乱の世では戦いの手段としてイーサラムが使用されていて、その時代に人はイーサグラムの補助なしにイーサラムを発動していたらしい。要は魔法陣や魔法詠唱で魔法を発動するのと同じだ。
「どうしてあなたがそんなことを?」
「私の家は小さいとは言え商家だから、古書なんかも取り扱っているのよ。イーサラムの古書はコレクターが結構いて高値で取引されるの。そう言ったイーサラムの中には、人に暗示を掛けるものもあるって聞いたことがあって」
あー、そう言えば『秘密の部屋』に並んでる古書の中には古代のイーサラムについて書かれたものも沢山あったわね。そうか、あれはそんなに高値で取引されるんだ。王族所蔵のものともなればその価値は計り知れないだろうな……あれ? こんな話を以前に誰かとした気がするんだけど……前の扉の中だったかな? んー、違うか。上手く思い出せない。
「と、言うことは、黒幕がいるってことだよな」
「そうね……一体誰が王女であるエマを殺害しようと言うのかしら」
サイモンとカーラが喋っているのを聞いて、『君たちも前の扉の中でエマを殺害したけどな!』とツッコミたいところだけど、それは違う世界線の話だからね。彼等の言う通り黒幕がいる可能性が大だけど、ふと気がつく……前の扉の中で私を殺害した三人。その背後にもひょっとしたら黒幕がいたのだろうか?
もし今回の黒幕と前の扉での黒幕が同一人物だった場合、それはエマにごくごく近しい人物と言う事になる。しかも前の扉の中でインファンテ、フォーセット、ラッシュブルックにエマが赴いたいずれの場面でも同行していた人物……あー、こういう時人が多すぎるのは欠点ね。王女が移動するとなるとぞろぞろ人が付いてくるからなあ。今みたいに護衛はレオだけってことが奇跡だわ。
「今は男子生徒の取り調べ結果を待ちましょう。今回は私が狙われましたが、他国の王子であるあなた達が狙われる可能性もまだ残ってます。身辺には十分気を付けてください。アカデミーの護衛を増やす様にお願いしておきますので」
三王子にも注意を促して、今日の所は解散に。帰りの馬車にはレオが乗って来てくれていて、やたらに心配されてしまった。まったく、あなたがおじ様の授業に出たくないが為に王都外に仕事でいかなければ、私が直接剣を交えることもなかったんですからね! まあ剣の腕が確認できたのは収穫だったけど、面白いからしばらくはこの事でレオをイジっちゃおう。
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