第28話 恋愛の形
マシューたちが王宮の庭園を訪れてから数日、放課後にマシューと私、それにカーラの三人でティータイムを共にする。マシューはどこか中性的で、三人でいると女友達と過ごしている様な錯覚すら覚える。
「エマ、この間は有り難う。庭園はとても興味深かったよ!」
「どういたしまして。楽しんでもらえた様でお母様も喜んでいたわ。またいつでも来てちょうだい」
「ホント? 一部しか見れてないから、是非また行かせてもらうよ」
「なあに? マシューは王宮へ行ったの?」
そう言えばカーラには言ってなかったわね。カーラも花が好きみたいだから一緒に……とは思ったんだけど、あの時は近くにいなかったからなあ。
「王宮には庭園があってね。カーラもいつでも来てちょうだい。お母様も喜ぶわ」
「ええ、是非」
「あんなに沢山の草花があるっていうのに、サイモンは全然興味なさそうなんだよね、酷いなあ」
筋肉組は花には興味ないでしょうね。しかし、ここでサイモンの名を出すとは、自らネタを提供してくれている様なものよ。じゃあ、恋バナでもしましょうか!
「でも、サイモンは庭園で夢中になっているマシューを見て嬉しそうだったわよ」
「そ、そう? 前から庭園に行ってみたいってサイモンには言ってたから……」
恥ずかしそうにして視線を逸らす。ただでさえ母性をくすぐるくせに、いちいち行動がうぶで可愛いなあ、チクショウ。マシューのこの反応にカーラも何か察した様子だったけど、何も言わない。友達同士の会話とは言え、他国の王子の恋愛事情にまでツッコミは入れられないか。でも、私は違うからね!
「……好きなの?」
「えっ!?」
マシューだけでなくカーラもビックリした顔。『それを聞くの!?』ってことだろうけど、そりゃ聞くでしょう。
「ど、どうかな……幼馴染だし、ずっと一緒にいて僕のことを守ってくれるから、ま、まあ好きか嫌いかで言えば好きだと思うけど……」
そんなこと聞いてんじゃねーんだよ! と、エマの中身の私は突っ込みたいのを必死で我慢しつつ、追い打ちを掛けてみる。
「そう? サイモンはまんざらでもなさそうだったわよ」
もじもじしだすマシューと、明らかにワクワクしているカーラ。カーラ、あなたもひょっとしてこっち側なのね!? そうなのね!? あなたにもユージーンとの仲を色々聞きたいんだけど、それはまた後ほど。
「その……正直、良く分からないんだよね。ここに入学する前はエマの婚約者候補にってことで連れてこられたんだけど、僕には全然実感がなくて。エマやカーラと話してるのは楽しいけど、恋愛とかそういうのは良く分からなくて」
前の扉の中ではエマがグイグイ行って婚約一歩手前まで進んだけれど、結局マシュー本人は周りから言われてエマの婚約者になっただけだったのね。エマが気がついていたとは思えないけど、私は何となくそんな気はしていたわ。
「え、えーっと、マシューはサイモンに対してその……幼馴染以上の感情を持っているのかしら?」
ワクワクに耐えかねたのかカーラも援護射撃。普段は割りとクールな雰囲気なのに、ちょっと前のめりの彼女は珍しい……やっぱりこっち側ね! マシューはと言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。前のめりな女性に質問攻めにされれば当然と言えば当然の反応か。
「ぼ、僕は一応王子だし、男性同士で好きっておかしいよね……女性と恋愛したことないから、サイモンに対するこの気持ちが幼馴染としてのものなのか、それとも恋人に対するそれなのか分からないんだけど、す、好きなんだと思う……でも、ここだけの秘密にしてよ! 誰にも言ったことないんだから!」
フフッ……フフフッ……キターッ!! カーラの方を見ると彼女も何とも言えないニンマリした顔。前世なら同性愛は割りと普通の恋愛の形だったけど、こっちではまだまだ珍しいし、しかも王子と護衛の騎士だなんて! カーラとはこの後じっくり話さなければなるまい。
「マシュー、恋愛の形に正しいもおかしいもないのよ。あなたが好きなら、私は応援するわ。もしフォーセットに居づらくなったらイグレシアスにいらっしゃい。あなたの好きな研究もできるし、サイモンと二人で暮せばいんだから」
彼の手を取ってそう言うと逆に驚いた様子のマシューだったけど、ちょっと涙を浮かべながらも満面の笑み。
「有り難う、エマ! カーラも。君たちがクラスメイトで良かったよ!」
その母性をくすぐる感じでBLはちょっともったいない気もするけど、カーラもきっと思っているはず……『ごちそうさまでした』と。
その後も暫く恋バナで盛り上がって解散。マシューが去った後、カーラと二人で廊下を歩く。随分満足そうな顔をしているところを見ると、ここ最近恋バナ不足だったのだろうか。
「はぁ、素敵ねえ。男性同士でも、ああやって好きな人と結ばれるって」
「まだ結ばれた訳じゃないわよ、マシューとサイモンは。でも、素敵なのは同意だわ……カーラの恋愛はどうなのかしら?」
「えっ!?」
自分は聞かれないと思っていた? 私は皆の恋愛事情を把握してるのよ! まあ、お陰で未だにエマの婚約候補は決まってない、と言うか決めるつもりもないんだけど。
「わ、私は別に……」
「あなたとユージーンの仲は、誰もが認めるところだと思うけど?」
「……」
あらら、急に暗い顔になっちゃったわね。やはりユージーンが言っていた通り、彼に対して遠慮があるのだろう。
「好きなんでしょう?」
「そ、そんなことは!」
「じゃあ、彼が私の婚約者になっても問題ない?」
「!?」
本音と建前が彼女の中で葛藤しているのが一目で分かる、とても複雑な表情をしたカーラ。
「エ、エマがそう望むなら……」
「あー、もう! 素直じゃないわね!」
「あイタッ!」
彼女の背中をバシッと叩くと驚いた表情になるカーラ。もう、こちらが望んだ通りの顔をしてくれるんだから。
「あなたは素敵な女性よ、カーラ。だから自信を持って。私も協力するし、きっと上手くいくわよ!」
「本当に? 私なんかが彼に釣り合うのかしら?」
「……」
ユージーンが実はカーラのことを気にしていると耳打ちすると、マシューの様に真っ赤になったカーラ。はぁ、こっちはこっちでイジり甲斐のある二人だわ。立場上、皆のキューピッドをやってる場合ではないんだけど、他人の恋愛でも成就して欲しいと思うのはやっぱゲーマー魂なんだろうか。
その後もしばらく彼女とキャッキャ言い合いながら盛り上がる。なかなかオイシイ一日だったわね。このネタだけでご飯三杯は行けそうだわ。しかしこれで三王子には手を出さないことを周りには印象付けられただろうし、前の扉の中でエマを殺害した人たちから命を狙われることも、取り敢えずはないだろう。今の世界線がそう言った方向に収束しないとも限らないから、まだ油断はできないけどね。
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