第29話 注文の品
マシューとカーラと恋バナで盛り上がった後、マシューは度々王宮の庭園を訪れる様になった。庭園の植物たちが気に入ったのもあるだろうけど、自身の恋愛感について私が理解を示したことで安心したんだと思う。お母様にはマシューのことは話してあって、私がいなくてもマシューと一緒に庭園を回っていることも。一緒にお茶したりもしてるし、もうすっかりお母様とも仲良しだ。
私は毎度庭園を見て回るのも時間がもったいないから、対応はお母様や庭師に任せて自分の研究に没頭。以前工房で注文したものが手に入れば、浮遊のイーサグラムを小型化できる目処は付いたわ! 工房からの連絡を心待ちにしていると、ようやく連絡が。
「レオ! 工房に行くわよ!」
「えー、またかよ。着替えてくるからちょっと待ってろよ」
面倒臭そうにしながらも、ちゃんと付き合ってくれるのが彼の良いところ。ウキウキしながら工房に向かうと、店に入ってきた私たちの元へ前回の女性店員が駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ! お待ちしておりました」
「有り難う。早速見せてもらえるかしら?」
「どうぞ奥へ」
応接間に行くと店主と職人の親方が待っていてくれて、テーブルの上には品物が並んでいた。
「姫様、ようこそおいでくださいました」
「楽しみにしてたのよ! これが?」
「へい、苦労しやしたが、何とか完成しやしたぜ」
おーっ! これは予想以上にいい出来だわ! 一つはユニバーサル基板に相当する手のひらサイズの銀のプレート。規則正しく穴が空いていて、そこに小さい釘の様なものを挿せる様になっている。この釘は銀製のものとミスリル製のものがあり、銀製のものは絶縁できてミスリル製のものはイーサーを通す。そしてミスリル製のワイヤー。これが最難関だったと思うんだけど、思っていたよりも細い! 髪の毛程とまでは行かないけど、1ミリぐらいの細さ! これなら特別なイーサラムがなくても曲げられる。あとはオマケみたいなもんだけど、メガネの様に耳に掛けられるルーペ。前世では大学で基板いじったり細かいアナログ絵描くのにハ◯キルーペ使ってたから、あると便利かなーと思って。
「凄いわ! 流石ですね!」
「お褒めに預かり光栄です。しかし、こんなもの何に使うんです? ミスリルのワイヤーなんて聞いたことありやせんが」
「それはね、うーん、今はナイショよ。でも上手くいったらまた親方に相談させて頂きます」
「それは楽しみだ」
ちょっと値は張ったけど代金を支払って早々に王宮に戻る。だって早く試してみたいんだもん! レオには呆れられたけど、あなただってホーバーボードができたら絶対興味を示すはずなんだから!
買ってきたものを蔵書室の奥にある秘密の部屋に持ち込んで、早速実験。銀のプレートの穴には釘をはめ込み、その間をミスリルのワイヤーで結ぶ。まさにユニバーサル基板ね。そして浮遊移動体に使われていたものを小型化した様なイーサグラムを描き、これに鉱石からイーサを供給してやると……浮いた! プレートがフワフワと浮いてる! 上から押さえつけてみても、机から一定の距離以上には近づかない。壁に押し付けてみても同じ。このイーサグラムは『浮く』と言うよりも、対象物から一定の距離を保つことができるものなんだ。
もう一つは前方向に進もうとするイーサグラム。これは本当に一方向に移動しようとする。その移動量は鉱石からのイーサ供給量に比例しているようで、これを調節する機構は発案済み。ボードの後部にペダルの様なものを付けて、踏めばイーサ供給が増える仕組み。これでスピード調整もできる。ボードの場合方向転換は体重移動でできるから、もうホーバーボードが完成したも同然よ! 本体は木製で、実はこれも別の工房に依頼して作成済み。スノーボードほどの板の裏にパッドが付いていて、そのパッドの中にイーサグラムを入れる様になっている。ユニバーサルボードだから鉱石からのイーサ共有がシビアで、前後二枚入れるイーサグラムのバランスを取るのに苦労したけど、何とか完成! 安全のために付けたハンドルもバッチリだわ。
床の上にフワフワ浮いているボードに、こわごわながら乗ってみる……割としっかりしている! 私が乗っても大して沈むことなく、床に反発して浮いたまま。そしてペダルを踏むとゆっくりと前進を始めた。やった! これよ、これ! これに乗りたかったのよ!
今回はイーサグラムに小さな鉱石を載せてイーサを供給していたけど、10分ほどでイーサが切れてゆっくりと床に着地した。これはもっとデカい鉱石を載せて前後の浮遊プレートと前進プレートにイーサ共有すれば良さそうね。この鉱石の大きさで10分なら、あれぐらいの鉱石だったら一時間はいけそうだから……ああ、次から次から改善点が思い浮かぶ! 時間がいくらあっても足りないー! 王女でなければ徹夜でもなんでもして完成までまっしぐらなんだけど、今日はもう遅いし明日にしよう。明日は大きい鉱石を買い込みに行こうかな。また街に行くといったらレオは嫌がるかしら?
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