第27話 シアーラ

 庭園に着く手前でレオは『サイモンに王宮内を案内する』と言って二人で別行動に。そうよね、野郎どもは草花には興味ないもんね。それは分かるんだけど、マシューとシアーラと私の三人になってしまってちょっと気まずい。私もレオたちと一緒に行きたかったが、そうもいかないもんなー。


「ここが庭園ですわ」

「わーっ!!」


 キラキラした目をしているマシュー。植物全般が好きな彼にとってはここ以上にそそる場所なんてないだろう。自慢ではないけど、お母様が整備されたこの庭園は国内でも最大。しかも対外的に公開しているわけでもなく、希望があれば要人を案内する程度。王宮に勤務している人間なら誰でも入って良い場所だけど、今は時間的にあまり人影はない。


「見ていいの!?」

「ええ。好きなだけどうぞ」

「有り難う!」

「姫様、私も宜しいのですか?」

「シアーラさんもどうぞ。広いから全部を見るのは無理かもしれませんが」


 ん? シアーラの声、どこかで聞いたことがある様な……どこだっけ? 思い出せない。でも彼女はどこか危険な香りがする。本能的に近付けないと言うか、自然と警戒してしまう。女の勘ってやつ!?


「どうぞ、私のことはシアーラとお呼びください、姫様」

「有り難う、シアーラ。同級生ですしあなたの方が年上みたいだから、私もエマと」

「はい、エマ」


 危険な香りと言いつつも、妖艶と言うべきか彼女と話していると惹き込まれそうになる。魔性の女か!? マシューを含め男性陣は特に何もなさそうだったけど、もしかして百合体質なのかな!? この世界はBLだの百合だの、思ったよりも危険な世界だわ、大好物だけど。いやいや、今はオタク魂に対するご褒美を喜んでいる場合ではなかった。


 マシューは子供の様に庭園を見て回り、時々シアーラの所に戻ってきては何やら植物の話で盛り上がっていた。私も花を見つつもそんな二人の様子を少し離れて観察する。エマの記憶としてレオとここを走り回っている光景があり懐かしい気分になる反面、今はここをホバーボードで移動している自分の姿が思い浮かばれてニヤニヤしてしまう。そうだ、完成した暁には庭園を手入れしてくれている庭師にも提供しようか。きっと作業が楽になるに違いない。


 二人の植物に対する興味は尽きることがなさそうで、私は庭園入口近くにあるベンチに座って遠くの二人の姿を眺めていた。と、王宮見学を終えたサイモンが一人で戻ってくる。


「レオは?」

「騎士団長殿に呼ばれてたから、多分仕事だ」

「そう。サイモンは城の中を堪能して頂いたかしら?」

「ああ、フォーセットとは随分違うものだな。騎士団長殿も素晴らしいお方だった」


 そうでしょう、そうでしょう。おじ様はとても素敵なナイスミドルなのよ。流石に昔ほどムキムキではないけど、それでも剣術でおじ様の右にでるものなんて騎士団の中にもいないんだから。


「マシューは楽しそうだな。今日は有り難う、あいつのワガママを聞いてもらって」

「これぐらい大したことじゃないわ。またいつでも来てくれていいのよ……サイモンは彼の保護者みたいね」

「ハハハ、小さいころは人見知りで体も弱くて、どこに行くにも俺の後ろに隠れてる様なヤツだったからなあ。でも植物研究に出会って随分強くなったよ。王子として、もう一人でやっていけるぐらいにな」

「それにしては二人は随分仲が良いじゃない。マシューはあなたが一緒だから、自由に研究を楽しめてるんじゃない?」

「そ、そうか?」


 おいおい、そこでちょっと頬を赤らめたらもう確定じゃないか! ああ、こうなるとマシューにも色々確認したいけど、『サイモンが好きなの?』とストレートには聞けないか。あの感じだと悪びれもなく『好きだけど?』とか答えそうだしなあ。いや、そう言う好きじゃなくてね、ほら、色々あるでしょう。どっちが受けなのか、とか……フフフ、楽しみが増えてしまった。おっと、こんなところで腐ってる場合ではなかったわね。ちゃんと王女として振る舞わねば。放っておいたら夜まで居続けそうだから、ここらで切り上げてお茶にでも誘おうかしら。その内レオも戻ってくるだろうし。


 予想通り程なくレオも戻ってきたので、庭園内にあるガゼボでティータイム。マシューとサイモンはそれはもう恋人……家族の様に楽しげに話しているので、私はシアーラに質問してみる。


「シアーラはどうしてアカデミーに?」

「我が家は小さな商会をしておりますが、仕事がら他国の貴族や商人と付き合うことも多いんです。なので、今後父を手伝うためにも勉強をと思いまして」

「そう、偉いわね。でも、あなた程頭が良ければ、アカデミーに入る必要もなかったんじゃない?」


 そう、シアーラの成績は学年でもトップクラス。私は理系科目については上位に食い込んでいるけど、文系科目はエマの知識を活用してなんとか付いていけてる感じだ。エマの知識がなければ赤点ね、きっと。レオは実は意外と真面目なので、アカデミーに入ったからにはと結構勉強している。良くサイモンやレジナルドの筋肉仲間に勉強を教えてるもんね。


「歳を取っている分知識があるだけで、学ぶことも多いわ。エマこそイーサラムや数学の成績がとてもいいじゃない? 王女様はそういう勉強も王宮でするものなのかしら?」

「まあね」


 いや、王女は数学とかあんま勉強しないでしょう、普通。中身がリケジョのオタクってだけなのよね。


 他のメンバーが一緒だったからか、喋ってみるとシアーラは全然悪い印象はない。ゲームパッケージではいかにも悪役って雰囲気だったけど、ひょっとしてそうでもないのか? 恋愛ストーリーならライバルになる可能性はあるものの、今のところ私に恋愛意思がないからなあ。しかしまだ油断はできないわね。何らかのルートで彼女が関わってきて命を狙われないとも限らないし。引き続き、要警戒だわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る