第26話 ボスラッシュは続く―――その時、最大のライバルにして戦友が―――!?

「―――――ハツッ!」


「グアアアアこのオレっちが吹っ飛ばされっとはぁぁぁ!?」


 今また一人、邪魔(助っ人)を打ち払った晃一こういちと、袋詰めを続ける奈子なこ


 しかしツーバッグ制――二袋を詰める形式とはいえ、これほど手間取っていて、闇世界の覇者たる《魔王》にかなうのだろうか。


 今、黒服二名を従えて袋詰めする《魔王》は、というと。


『よし、ここは我に任せて……ええーい貴様ら邪魔をするな! ここはゴボウを縦に詰めてつっかえにするのがセオリー! 黙って我のやり方に従え――』


『折れるだろ細長いんだからそんくらい分かれバカ! 毎回毎回オメーのリカバリーに手間取ってんだよコッチは! 少しは成長しろタコ《魔王》!』

『いつもいつもオマエが一番、足引っ張ってんだからな!? いねー方がマシでスムーズに進むって何なんだよ《魔王》やめろアホ!!』


『……………そ、そこまで言わなくていいじゃん……』


『えっ……いや、その……でも、本当のことだし……』

『お、おい……そんな、泣くほどのことじゃねーだろ……』


『……………ぐすん……………』


『な、泣くなって……い、言い過ぎたからさ……』

『そ、そうだよ……ほら、落ち着けって……』


(なんかアッチはアッチで大変そうだな……)


 一人一人に、それぞれの想いがある。サッカー(袋詰めする方)の世界とは、深淵しんえんにして複雑なのだ。


「――奈子お姉様~。ねーねー、これ、こっちの袋に詰めてイイー?」


「……あ、は、はい。大丈夫ですよ、イロカちゃん」


「はァ~い♡」


 奈子の承諾をきちんと得て、とてとて、と別の袋での作業に戻っていく。《色欲の大罪》、なんか中学生感が出てきたな。中学生感ってなんだよ。


 だが、今サッカー大会に出場してきた猛者もさは、まだ存在する――新たに一人、老練たる雰囲気をかもす存在が、奈子に声をかけた――!


「―――ふぉっふぉっふぉ。奈子ちゃんや……」


「!? あ、お……《おきな》さん、どうも……」


 いかにも好々爺こうこうやといった笑みを浮かべる《翁》に、奈子が思うのは。


(………ど、なの………!?)


 その〝どっち〟の意味とは――


〝袋詰め自体はちゃんとするという一回戦突破の実績〟

〝二回戦で負けた時のような、あの何とも言えない感じ〟


 前者ならば戦力、後者ならば……もうぶっちゃけてしまうと、邪魔。


 果たして、続きを待つ奈子に、《翁》がニヤリと笑みを深めて言うのは――!


「――――昼飯は、まだかのう……?」


「うん、試合が終わったら出てくると思うので、どこかに座ってゆっくり待っててくださいね~おじいちゃん!」


「ほっほっほ、すまんのう……♪」


「いえいえーお体、お大事にー!」


 ご老人には丁寧、さすが内気で気弱だが心優しい奈子である(一安心)。


 と、そこまで三人の敵(助っ人)を相手に大立ち回りを繰り広げていた晃一が、数の不利のためか――《暴威の大嵐》を通してしまい。


「ッ……すまん奈子、一体そっちに行った!」


「呼び方がもう完全にエネミー! って、ど、どうすればっ……」


「やれるか!?」


「やれるワケあるか!」


 正当なツッコみをしている場合ではない奈子のレジ袋に、《暴威の大嵐》の直接攻撃が襲い掛からんとしている(助っ人)。


 が、《翁》を横切ろうとした――その瞬間。


「ホ―――若者の邪魔をしちゃ、いかんぞい?」


「喰らえオレっちのサッカー(袋詰め)……へっ? ……ぐええっ!?」


《翁》が、ひょいっ、と腕を絡め、軽く足払いをすると――《暴威の大嵐》の巨躯が一回転し、背中から床に叩き付けられる。


 相手の力を利用して投げ飛ばしたのだ、と奈子が驚きつつ、ハッとして《翁》に告げるのは。


「す、すごい……あっ!? ……あの《翁》さん、お手数ですけど、さっき投げ飛ばしたその人、押さえておいてくれませんか!?」


「ホッホー。奈子ちゃんに頼まれちゃあ、しょうがないのう……じーさんに任せなさい♪ ほっ、はっ――フンッッッ!」


「え……ぐっグエエエエ!? おっ《翁》このっ、妖怪ジジイがぁぁぁ!? ギャアアア関節がァ! 完璧にまってるうぅぅぅぅ!?」


 奈子のお願い通り、《暴威の大嵐》(助っ人)は《翁》が封じた――今なお交戦を続ける晃一も、《鉄壁の守護者》と《激情の大門》(助っ人と助っ人)だけなら余裕で立ち回れている。


「よ、よしっ、これなら何とかっ……」


 奈子も後は、袋詰めするだけ――自分のサッカー(袋詰めする方)の、プレイスタイルを貫くだけ、なのだが。


 ―――虎視眈々と隙を伺う、蛇のような目が、一つ。


「―――イヒヒッ! ここがチャンス――伏兵とは誰もが気付かぬからこそ最大の効果を発揮するでゲス! 美少女・女子高生よ――この《卑劣なる蛇助》が、助っ人してやるでゲスよ! ウオオ喰らえ、あっしの反則技ァー!!」


 叫びつつ飛び出してきた《卑劣なる蛇助》が――奈子へ向かって走り寄る――!

 そのあまりに意外な助っ人に、奈子が思わず叫ぶのは。


「……いや、それならそれで! 《魔王》の方へ行け! コッチくるの完ッ全におかしいでしょ!?」


「卑劣とは常道じょうどうれてこそ卑劣! 何より、男に反則なんてしても楽しくないでゲスしぃ~~~!!」


「クソが!!」


 ……う、内気で気弱とはいえ……いや! そう、内気で気弱だからこそ、卑劣には特に厳しいのだ――!(力で押し出せ押し出せ~!)


 とはいえ、もはや奈子の目前にまで、《卑劣なる蛇助》の魔の手(助っ人)は迫り――かと思いきや。



「――――死ねカスッ!!」


「へ―――う、ウボアァァァァァでゲスッ!?」



《卑劣なる蛇助》の横っ面に、あまりにもクールなドロップキックをお見舞いした存在――即ち《氷結女帝ブリザード・エンプレス》こと、霧崎きりさき氷雨ひさめが介入した――!


「ひ……氷雨さん! ありがとうございますっ、本当に怖かったです~!」


「フッ、気にしないで、奈子。と、と……友達を助けるのは、当然だしっ! あとあのカスに一発喰らわせることが出来て、少しは溜飲も下がったし」


(ホントあの卑劣な何とかさん、どんな反則したんだろ……)


「っと。……礼なんて後よ、奈子。今は……試合中なんだから。アタシ達、サッカー選手は、ただ――袋詰めするだけよ」



 キッ、と顔を上げた氷雨が、女帝の威風をこめて言い放つのは――



「アタシと奈子で―――さっさと、勝負を決めるわよっ!」


「氷雨さん―――はいっ! あとイロカちゃんもですよ!」


「奈子お姉様~。これ、こっちでいいかしらン~?」



 ついに、決勝戦で激戦を広げた、最大の好敵手にして戦友が――


 未来の《サッカーの女王》と《氷結女帝》が―――並び立った―――!


(※あと《色欲の大罪》さんも)


 とはいえ、相対する《魔王》とてる者。黒服二人を従えるその恐るべきバトルスタイルは、もはや完成を迎えようとしており。


『……ほ、ほら、最後はコレな。ラストは任せてやるから、そろそろ気ぃ持ち直せよ《魔王》……』


『…………うん…………』


『なんかさ、色々言っちゃったけど……オマエとサッカー(袋詰めする方)するの、結構楽しいよ。じゃないと、こうやって付き合ってねーよ《魔王》』


『………………ホント?』


『マジだって! ほら、あと袋持って提出台いこうぜ! 一緒に持ってやっから!』


『ぐすん。………うん、いく………』


(なんか〝はじ〇てのおつかい〟みたいになってるな……)



 心の中でツッコむ奈子、だが――もはやゴール間近の《魔王》一味に、《氷結女帝》こと氷雨が焦燥を表に出す。


「っ! まずいわっ……い、急がないと! コッチだって、もう少しなんだからっ……い、今こそアタシは、アタシの最高速を超えて――!」


「うわわわわ待ってください氷雨さん!? 大丈夫、落ち着けば充分に間に合いますから! 冷静に、冷静になって――!?」


「っ!? れ、冷静に、って……アタシはクールよ! 《氷結女帝》なんだから! で、でも、早くしないと、でもクールに……う、うう~~~っ」


 あまりにもクールな氷雨の、身をよじるような煩悶はんもん、心の内で複雑に吹き荒れる感情――その嵐の如き衝動が、爆発するように――!



「う、うっ……うわああああクーーーールーーーーッ!」


「きゃああああ全くクールじゃないっ! ……って、え……ええええ!?」



 瞬間――その場にいる誰もが、目を疑った。


 そして誰より焦りを見せるのは、《魔王》側の――黒服の一人――!


『ほら《魔王》、ちゃんとレジ袋を持って………え? な……な、なっ……何でオレの腕が、凍っているンだぁーーーっ!?』


『えっなにそれ………すごい………』


『いやオレの仕業しわざじゃねーよ!? こ、これは……ウグッ!? ウソだろ、《氷結女帝》の方から、冷気が――!?』


『ウッ……や、やべえ、オレまで凍えて……!?』


 そう、氷雨の体から立ち昇る謎のオーラじみた何かが――今、吹雪の如く、《魔王》達を襲っているのだ――!


 だが戸惑っているのは氷雨も同じ。思いがけぬ異能の発現に戸惑いながら、サッカー界(袋詰めする方)の有識者にしてコーチたる、いまだ交戦中の晃一に大声で問う。


「ウ、ウオオッ……な、何なの、この吹雪は!? まさかこれが、サッカー選手として覚醒したことで得る力……!? コーチたる晃一、この力は一体!?」


「知らん、なにそれ……怖っ……」


「「ええええええええええ!?」」


 サッカー界(袋詰めする方)に詳しいコーチですら知らぬ現象――謎の力を発揮している氷雨自身も、隣で袋詰めを続ける奈子も、同時に驚きの声を上げる。


 だが、そうして驚いている隙を突くように――《魔王》達が三人で二つのレジ袋を提げ、慌てて提出台へ走っていく。


『な、何が何だか分からぬが……今の内だ! 行くぞ者共、我についてこい!』


『おっ気を取り直したな《魔王》! よし、ゴールすっぞ!』

『行くぞオアアア! あっちあっちオアアアア!!』


「……はっ!? お、驚いてる場合じゃなかった……私も、終わったから……ありがとう氷雨さん、イロカちゃん! 《翁》さんも!」


「なんなの……何なのこの力、怖いよお! あっうん、いいわよ奈子!」

「がんばってねェ~ん、奈子お姉様~♡」

「ほっほっほ……頑張るんじゃぞい♪ フンッッッ!」


「いでででででで!」


 氷雨とイロカの声援に後押しされ、今も《暴威の大嵐》の関節をめる《翁》に見送られ。


 奈子は二つのレジ袋を手にげ――走る。


(っ! さすがに、重い……それに、ここまでの疲れが……特にツッコミ疲れのせいで、息が……でも、もうすぐ……ゴールは、目の前っ……!)


「ウオオオオ! ここは通さんでごわすーーーーっ!」

「卵を入れさせろでファラオーーーーッ!」


「敵だろうがもう! って……きゃあっ―――」


 往生際悪く迫ってくる《激情の大門》と《鉄壁の守護者》(助っ人)を――けれど、幾度でも、間に入ってきた存在が。



「今、陰と陽の64卦を八つと成し、我が身の内に宿す!

 ――――八卦掌――――!!」


「「ぐっ―――ぐわああああああ!」」


「! ……コーチさんっ……!」



 両の掌に籠められし晃一の全力が――二人まとめて弾き飛ばす――!(助っ人を)


 そうして、サングラスを外しながら、晃一が奈子を真っ直ぐに見つめ。



「―――いけ、奈子! 勝利をその手に、掴みとってこい!」


「―――はい! コーチさんっ!」



 こうして、黒服二人を従えつつ、提出台へと走る《魔王》と。


『うっ……うおおおお! 勝利するのは、この我だぁぁぁぁ!』


『バカ先走んな! 三人で持ってんだから足並みを揃えろ!』

『すぐ調子乗んじゃねーよ! 少しは反省をともなえ!』


 最後の最後に、デッドヒートを繰り広げて。


 二つ分の、総重量10㎏以上にもなるレジ袋を抱える、奈子は。


「はあ、はあっ……っ、っは……はあっ―――」


 どうか、しているのかもしれない――後にコメントするならば、


〝ホントどうかしてました〟


 と述べること、請け合いだろう。


 けれど、この時だけは――会場の人間達の熱気に、てられてしまったのか。


 それとも―――コーチたる者から受けた、最後の声援が原因か。


 奈子は。



「負け、ませんっ………うわああああーーーーっ!!」



 叫んでいた―――それはまるで、未来の《サッカーの女王》の、産声うぶごえの如く。



 ――――その時、不思議なことに。


 、気がした。


 その、奈子の雄叫びを。




 ――――世界中の、まだ見ぬ〝〟が――――


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