第25話 これはかつてのライバルたちが助けに来る熱い展開でしょうか? いいえ、ボスラッシュです――ボスラッシュなんです――……

 今サッカー大会を通じ、奈子なこと戦い、そして出会ってきた強者たちが――狡猾こうかつなる《魔王》の罠に抗うべく、今、奈子を救わんと加勢する――!


「いや、くるな、って言いましたよね!? ちょっと審判さん、助っ人とかも反則じゃないんですか!?」


『うーん、ゴメンね栄海奈子選手、助っ人禁止もルールブックにダメって書かれてない。でもこの件はしっかり持ち帰って、ルール改定するかどうかちゃんと議論にかけるね』


「お役所仕事か! できれば早々の解決が欲しいんですけど!? 助っ人とか言ってる人達も、私一人で大丈夫ですから、来ないでくださいってば!」


『ハハハ! 水臭いことを言うな栄海奈子! 遠慮など不要、我々の力を貸してやるからなァーーーッ!』


「純粋に邪魔でしかないから、くんなってんですよ!? ホンット話を聞きませんよね! どいつもこいつもですよホント!」


 奈子も思いがけぬ助っ人に興奮しているのか、声が荒ぶっている気はするが、まずは最初の魔の手――もとい救いの手が伸びてくる。


「ファーッファッファ! 病み上がりとてナメてもらっては困る! 心配は不要ぞ、美少女・女子高生よ……この《鉄壁の守護者》が、恐るべき防御力で守ってくれるわーっ! ではまず、最初に卵を入れて、と……」


「どけっ! じゃなくえっと……ああもう余計なことすんなですよっ! 卵とかは後! ていうか入れる商品は自由なんだから割れやすい卵とか持ってきてないのに、何でわざわざ持ってきたんです!? 邪魔ッ!」


「なっ……ま、まさか、余の入れた卵を速攻で追い出されるとはっ……ばっ、ばっ……バカなでファラオーーーッ!? ………ぐふっ!?」


「ああもう二度手間っ……えっと、とにかく次っ……」


 なぜか《鉄壁の守護者》はもんどり打って倒れるが、気にかけるようなことは一切せず、奈子は慌ただしく袋詰めサッカーを続ける。


 しかしさすがは未来の《サッカーの女王》、少しばかり手間が増えようと、その丁寧な商品コントロールに乱れはない――が、その時、頭上から降り注ぐ大声が。


「ぐわーっはっは! このオレっちも手ェ貸してやるぜェ~~~! 出し惜しみナシだ、いきなり大技――必殺! 《大嵐ハリケーン》―――!!」


「やめろバカ! じゃなく、あ……きゃ、きゃあっ!? ちょっ、このっ、ハッ! やめ、ちょ、ばっ……商品を投げるなバカ! とっとと墜ちろ!」


「なっ、まさか全部受け止めてから丁寧に袋に入れただとゥ!? さすがオレっちを破った大した女だぜ……ぎゃ、ギャーーーーッス!!」


 めでたく顔面から落下した《暴威の大嵐》――商品を慌てて受け止めたため、内気で気弱な奈子とて言動を正す暇もなく、そのまま息切れする。


「はあ、はあ……つ、次は……えっと……」


「―――ねェん、奈子お姉様ァん? こっちの袋に入れるの、コレでいいかしらン?」


「えっあっ。《色欲の大罪》だとかの、イロカさん……あいえ、中学生なんでしたっけ。あ、はい、その辺なら大丈夫です……」


「オッケ~♪ じゃ、ちょっとずつやってくわねン♡ えーと、これとー、これとー……」


「は、はい。イロカさん……いえイロカちゃん? ……中学生、中学生、か……」


《色欲の大罪》ことイロカは手際が若干悪く袋詰めも遅めだが、珍奇ちんきなことをせず普通に作業してくれるだけ、他よりよほどマシとも言える。


 そんなことより〝セクシーなお姉さんだと思っていたら中学生だったショック〟がまだ抜けきらず、微妙な心境の奈子だった……が脅威は、じゃなく助っ人はそこだけで終わらない。


「ウオオオオオ! この《激情の大門》を忘れてもらっちゃ、困るでごわーーーーっす! この溢れるパワーで商品を全力フルパワーマックスでブチこんでやるでごわすよーーー!!?」


「帰れ! 商品が全部ダメになっちゃうでしょ!? ……あ、うっ……で、でもあんな邪魔、私じゃ止められない……」


 迫ってくる《激情の大門》は、その大柄な体躯たいくとフィジカルを余すことなく爆発させ、全力で握りしめた商品を両手に走り込んでくる――


 止めようにも、一般的な十六歳女子のフィジカルの、何より内気で気弱な(重要)奈子では、あまりにもパワー不足だ。


 もはや、この恐るべき助っ人にレジ袋を破壊され、蹂躙じゅうりんされるしかないのか。


 悲劇の到来に、奈子が強く目を閉じた―――刹那。



「――――下がっていろ、奈子」


「…………えっ?」



 迫りくる《激情の大門》と、奈子の間に、突如として割り込んだ、一人分の長身男性の影。


 それは奈子の、コーチたる人物――木郷きざと晃一こういちだった。


 が、猛然と襲い来る《激情の大門》(助っ人の方)に背を向けている状態で、思わず奈子は両手で口元を覆った。


「!? こ、コーチさん、危ないっ……!」


「ウオオオどけどけでごわーっす! 何もかも吹っ飛ばしてやるごわすよーっ!?」


「あなたホントに助っ人です!? ってツッコんでる場合じゃないっ……こ、コーチさん、避けてっ!」


 奈子が促すも、微動だにしない晃一の無防備に見える背に、フルパワーの《激情の大門》が激突する―――


 直前、晃一は軽く膝を曲げ、踏み出した足を《激情の大門》の足に引っ掛け――


「八極拳の技が一つ―――」


「きゃあああっ! ……って、へ?」


「――――貼山靠てんざんこう――――!」


 背中の体当たりをしたたかに打ち付け―――《激情の大門》を吹っ飛ばした―――!


「!? ば、バカなっ……おいどんのパワーが、全て流されて……その挙句、おいどんのほうが吹き飛ばされるとはァァァ!? ご、ごわーーーっす!!」


 結果、突っ込んできた《激情の大門》は、もんどり打って倒れ床に転がる。


「ふう、大丈夫だったか、奈子。……奈子?」


「………………」


 間一髪のところをコーチたる男に救われ、呆然としていた奈子が、次の瞬間に口にしたのは。


「………いやもうコーチさんが自分で、何かスポーツやったほうが良いんじゃ!?」


「? フッ、何を言っている奈子、俺はサッカー(袋詰めする方)のコーチだぞ」


「いえですから、どうせコーチングとかしないんですし……ていうか卵の殻で傷ついてた人とは思えない運動神経ですよね、何なんですかもう――」


 即座に出るのがツッコミな辺り中々だが、ツッコミきれない内に――先ほど倒した(?)《鉄壁の守護者》が、隙をついて襲い掛かってきた――!(助っ人??)


「―――油断したでファラオなぁーーーっ!? 今がチャンス! さあこっそりと卵を入れてサポートしてやるでファラオーッ!!」


「もう敵でしょアンタら! というか全然こっそりじゃないですし、その卵への執着は何なの!? ああもうっ――」


「――――形意拳が金行」


 が、再び晃一が割って入り、《鉄壁の守護者》へと左腕を向け。


 向けた左手の方角へ沿うように、右手を滑るように走らせて――


「ファッ? ――――ラオオーーーッ!?」


「――――劈拳へきけん


 掌底一発、《鉄壁の守護者》の防御力など成す術も無く、吹っ飛ばす――!


 何やら一気に戦場センジョーめいてきた、このサッカー(袋詰めする方)という舞台で――倒された助っ人たちが、不屈の闘志で起き上がってくる


「う、うぐぐ……まだだァ~……オレっちは、まだまだやれるぜェ~……?」

「おいどんは、おいどんは負けんでごわすぅぅぅ……オオオオオォ……」

「卵をォ……卵を入れさせるでぇ……ファ~ラ~オ~……」


「ゾンビか! ああもう、起き上がってこないで――」


「――――奈子」


「! ……こ、コーチさん……?」


 今、コーチたる男が――正直コーチとしてではない気がする躍動やくどうを見せる、そんな晃一が告げるのは。


「キミの背は、俺が守る――なぜならば俺は、コーチだからな! さあ、気兼ねなく、安心して――戦え! 戦え――奈子!」


「! ……コーチさん……」


 正直、奈子の心中に渦巻く思いは。


〝いえやっぱりコーチとしての行動じゃないと思うんですけど……〟

〝ていうか初めて役に立ったな、この人……〟

〝どう考えても他のスポーツやれって感じですけど……〟


 と、ツッコみだらけなのも否めない。


 けれど、それでも、今。


 晃一に守られ、背を預け――口をついて出たのは。



「―――後ろ、任せます! コーチさん!」


「ああ―――任せろ、奈子!」



 今、背を預け合い――



 ―――師弟が初めて、共闘する―――!!




※逆説的に、今までは一切の役に立っていなかった、という意味も内包します。

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