第24話 最終決戦! 《魔王》の脅威、しかしその時――現れたのは助っ人か――!?

 土下座する《魔王》、戸惑う未来の《サッカーの女王》――この恐るべき攻撃を受けている奈子なこは、「うう」とうめきながら、とりあえず移動しようとする……が。


「や、やめてください……う、うう……もうっ、私、あっち行きますから――」


「――お願いします! そこを何とか! どうか! 対戦オナシャスお願いしますの意!」


「いっいやあぁぁぁ追ってきた!? 気持ちワルっ!?」


 土下座の姿勢のまま、両手と両膝を使ってサカサカと追いかけてくる光景、なかなかものがある。


 思わず後ずさりする奈子に、平伏して懇願こんがんを続ける《魔王》。繰り返す、平伏して懇願を続ける《魔王》。


 さて、そうはいっても、一度は毅然きぜんとした態度で断った奈子である。いかに対戦を願われようと、オナシャスされようと、断れば良いだけではないか。


 それは、確か――だが、奈子は、しかし。


「……う、ううぅ……そ、そんなこと、言われてもぉ……」


 そもそも。

 奈子が晃一に誘われ、このサッカー(袋詰めする方)という〝新しい世界〟に飛び込んだことといい――何となく、その、そういう気質がある、というか。


(うう、すごいイヤ、こういう空気……いやまあ、対戦する義理なんて無いのは確かですけど、でも……袋詰めだしなぁ。球技の方とかだと、そもそも出来ないし、勘弁してくださいって断れるけど……袋詰めくらいなら、私も買い物とかで普通にやることだし、少しくらいなら……う、うう……ま、まあ……じゃあ……)


 心の中で自答じとうを繰り返し、一つの結論が出来ていく……そう、何というか。


 ……ぶっちゃけてしまうと、奈子は。



「………あ、ああーもうっ、わかりましたっ! やればいいんでしょう、やれば! すっごく不本意ですけど、これが最後ですからね! 絶対、最後っ!」


「――――――!!」

『『『――――――!!』』』



 奈子は、結構―――のである―――!


 ところで〝流されやすい美少女・女子高生♡〟って書くとちょっとえっちですね♡

 あっスイマセン何でもないです、本当にゴメンナサイ、殺さないでください……。


 とにかく、そんな流されやすさでサッカー選手(袋詰めする方の)にまでなった奈子の承諾を得て、《魔王》は立ち上がりながら〝してやったり〟と高笑いする。


「クククッ……フーハハハハ! 言質げんちは取った、取ったからなぁ! 吐いた唾は吞めぬぞ!? ククッ、思いもしなかったろう……まさかこの《魔王》が初手土下座を決め込むなどとは、思いもなっ! 全ては我が策の内よ、フーハハハハー!!」


「やっぱりやめましょうか、撤回するのだって自由ですよね?」


「ククッ、そんなことを言って良いのか……? 栄海奈子よ……」


 ニヤリ、いびつな笑みを深めた《魔王》が体を軽くらせ、指さしながら見下ろすように言うのは。


「また………土下座するぞ?(キリッ)」


「そんな脅しあります? 本当に恥とか知ったほうが良いですよ?」


「ククッ、言ったであろう、《魔王》だからこそ、恥など知らぬのだと――! あと恥知らずついでに言わせて頂きますと、低い位置に頭を下げているとスカートの中も見えそうで、フフ、何ていうかその……何ならもう一回やりたいくらいと言いますか……」


「よし、警察だ。訴訟も辞さない構えですからね私」


「よせ! すぐに警察とか呼ぼうとするのはよせ! 《魔王》は国家権力に弱いのだ! み、見えてませんから! 本当です、ごめんなさい! 土下座しましょうか!?」


「さっきの話を聞いた今となっては、土下座するならその瞬間に通報ですよ」


「クッ! まさかこのような手段で、我が必殺の一つ〝土下座懇願〟を封じるとは……さすがは大会を勝ち抜いたサッカー選手(袋詰めする方)だな……!」


「サッカー関係ないんですよ」


 奈子のツッコミはいつだって厳しい、さすがは未来の《サッカーの女王》だが――とにかく更なる試合が決まったことで、実況が今度こそはと迅速に進行する。奈子の気が変わらない内に、ともいう。


『何と、さすがは大会の覇者・栄海奈子選手――《魔王》の挑戦を堂々と受けて立った! その勇気、称賛する他ありません! イヨッさすが美少女・女子高生――』


「なんか適当に褒めて持ち上げとけ、みたいなこびを感じるな……やっぱやめましょうかね……」


『ウッウワアアア試合開始を、開始を急いでッ! セットアップ……セタップ早口セットアップ! 審判、早く定位置に付かせてくださーーーい!』


 急いで促され、奈子もやや渋々とだが自身のサッカー台の前に立ち、《魔王》も対面側のサッカー台に意気揚々と陣取る。


 そして審判がいつもの試合前の如く、ルール形式を声高に叫んだ。


『いいか! この最終戦はツーバッグ制、つまり二袋に商品を詰め込んでの提出だ! 商品形式はフリースタイル、理解したか!?』


「フッ、ツーバッグとは面白い……我が得意とするところよ! さあ、さっさと始めろ審判! この《魔王》の実力、とくと見せてや――」


『黙れ。汚い口でさえずるな。《魔王》だか何だか知らんが、審判に逆らえば容赦なく制裁だ。精々ルールを順守して縮こまってろ乱入ヤロウ』


「ひっ!? ……ふ、ふんっ、そそのような威圧で、この《魔王》がびっビビるとでも思うか! 《魔王》だけに反骨はんこつの精神で――」


『ピピーーーーッ! イエローカード一枚! 次で即退場だからな』


「ヒィンッ! す、すいませんでしたァっ!!」


「……あ、あの審判さん、ちょっといいですか? 一応の確認ですけど、ツーバッグ……二袋でも、一つの袋につき5㎏以上で良いんですよね?」


『うん、その通りだよ栄海奈子選手。提出時には総重量が10㎏以上になっちゃって、重いと思うから気をつけてね。一応、一つずつ提出しても良いけど、それはそれでタイムロスが心配だよね。審判、心配。でも頑張ってね♪』


「あ、ハイ。……まあ買い物の時、たくさん買い込む日はそれくらい持つこともあるので、大丈夫ですけど……審判の人も、なんかな。優しいのは良いんだけど……変な人っていうのは、確かっていうか……」


 もうずっと態度。


 まあとにかく、こうして試合の準備は整い、商品も台車を使って冷凍食品棚ごと移動し、代わりに様々な種類の商品棚が配置される。


 そして、とうとう――思いもよらなかった裏世界の大ボス、《魔王》との試合を開始すべく――審判がホイッスルを構え。


『では、試合を開始するッ……3・2・1……ピィーーーーッ!』


「えっホイッスル吹きました!? 今までかたくなに使わなかったのに、急に!?」


『うん、決勝戦でも吹いたよ。栄海奈子選手、上の空だったから気付かなかったっぽいし、知らなくても仕方ないよね♪』


「そ、そうだったんですか、私、本当にボーッとしてたんだなぁ……って、試合! えーと、商品を……って、あれ? ……はあっ!?」


 駆けだそうとした奈子だが、《魔王》側に視線を向けて、驚愕――そこにいる《魔王》と、そして――そこには元気一杯にの姿が――!


「―――フーハハハッ! 見たか栄海奈子、これぞ《魔王》の必殺――名付けて〝人手が多ければ有利だよね〟だ! 《魔王》ならば配下を従え、扱うは当然! まさに一部の隙も無い完璧な理論武装と言えよう!」


「ざけんな! じゃない私は内気……じょ、冗談じゃないです! ちょっと審判さん、アレっ、アレ反則じゃないですか!?」


『おお、反則の抗議、サッカー(解釈にお任せします)っぽい……うーんでも、ルールブックにはダメって書かれてないんだよね。まあこの試合の後、ルールの追加申請とかされて改定されるかもしれないけど、今回はギリでアリかなぁ?』


「新興スポーツすぎてルール穴だらけかっ! あああもおおおーーー!!」


※ちなみに野球なども過去〝ボールにヤスリで傷をつけて投球に変化をつける〟〝塁を体でブロックする〟などの反則行為が横行したこともあるが、後にルール改定で正式に禁止とされている。つまりこれはスポーツあるある、むしろサッカー(袋詰めする方)がスポーツなのだという紛れもない証左しょうさといえよう。


 さて、数の優位性、早々に商品の山をサッカー台に並べた《魔王》(と黒服二人)は、その恐るべき手段で袋詰めを始めて――!


「フハハ、見よ、我が技量……イテッ。おい黒服、肘がぶつかったぞ気をつけろ!」


「うっせんだよ《魔王》おめーが邪魔なんだよ! 真ん中で手ェ広げてんじゃねーよ縮こまってろ少しは!」


「ホンット袋詰め下手だな《魔王》! まるで成長してねぇよちょっとは慣れろや! このド下手ッ!!」


「なっなんだと貴様らーっこの《魔王》に向かってーーー!!」


(なんかすごい、もたもたしてるな……じゃあまあ、大丈夫そうかな……)


 奈子は奈子で買い物かごに大量の商品を迅速に、かつ適切に用意し、サッカー台へと早々に並べていた。


 さて、あとは《魔王》(と黒服二人)に遅れぬよう、袋詰めをするだけ、未来の《サッカーの女王》の本領を発揮すればいい……


 が、その時。


 ―――思いもよらぬ声が、奈子に降り注いだ。



『―――――どうやらピンチのようだな、栄海奈子選手!!』


「…………へ?」



 キョトン、とする奈子――そこに現れたのは。



『この大会でキミと戦い―――』

『そして出会い――縁を紡いだ、我々が!』

『全てのサッカー選手(袋詰めする方)達が――――』


『『『――――助っ人に来たぞ――――!!!』』』


「……………………」



 そう、狡猾こうかつなる《魔王》の罠により、多勢に無勢をいられる、栄海奈子を。


 この大会で出会った好敵手ライバルたちが―――救いに来たのだ―――!


『さあ皆、今すぐ戦場(サッカー台のこと)に向かって、栄海奈子選手を助けるぞ!』

『『『オオオオオーーーーーー!!!』』』


「………………………………」


 この、あまりにも心強い存在――その姿を目視し、思わず沈黙してしまう奈子。


『ファーッファッファ……今、行くでファラオーーーッ!』

『今すぐ助けてやるでごわーーーーっす!!』

『ガッハッハッハ! 待ってろよォ奈子ちゃんよぉぉぉ~~~!』


「………く………」


 感極まっているのだろうか、ふるふると肩を震わせる奈子が。


 未来の《サッカーの女王》が、上げる雄叫びは―――!!



ーーーーーーーーーーっ!!」



 その、内気で気弱な女子高生の声は、会場中に響き渡ったという―――………。

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