世界一の女子サッカー選手になれ――えっ球技? いやいやサッカーといえば……スーパーとかで買い物袋に商品を詰め込む人のコトに決まってるでしょうがァァァ!
第21話 晃一と氷雨、あまりにも悲しき過去――……
第21話 晃一と氷雨、あまりにも悲しき過去――……
――
「一年前……アタシは晃一に、サッカー(袋詰めする方)の才能を見出され、コーチングを受けていたわ。厳しい特訓と修行を経て、出場する大会でも負けなしで……」
「えっちょっ待っ……特訓とか修業とか、あったんですか?」
「え? ええまあ、スーパーで買い物してレジ袋に商品を詰めたり……」
「ただの日常生活では?」
「けれど。そんな中で、あの悲劇が……悲劇が、起こってしまった……そう、晃一に決して消えぬ傷を刻んだ――あの、大事故が」
「えっ。コーチさんの傷、って……右目の横の?」
奈子が言いながら晃一に視線を移すと、彼はサングラスを外し――右目の横の傷跡を露にしながら、氷雨に声をかける。
「氷雨……この傷のコトを、まだ気にしていたのか? これは別に、キミのせいでは――」
「ウソよっ! だったら何であの日……あの大事故の後、アタシの前から姿を消したのよ! そう、あの……思い出すだに恐ろしい、あの
きゅっ、と血が出るのではと思うほど唇を強く噛んだ氷雨が、「イタッ」と小さく呟いてから、
それは、一年前――晃一と氷雨に何が起こったのか、その
▼ 一年前の回想 ▼
※『 』が回想の会話で、「 」が奈子のツッコミです。ウソだろオイ、こんな注意書きしたの生まれて初めてだよ、回想でツッコミってなんなのよ……。
厳しい特訓と修行――という言葉とは裏腹に、晃一のコーチングを終えた後、その日の氷雨は見ただけでも分かるほど上機嫌だった。
『~♪ コーチっ、今日もコーチング、ありがとうございましたっ。レジ袋に商品を詰め込んでる時、何も言わず見守ってくれて……心強かったですっ♪』
『フッ、気にするな。俺はコーチだからな』
「黙って見てただけなら、コーチングとは言わないのでは?」
奈子がツッコむも、ひとたび始まった回想は止まることなく――夕陽に紅く照らされる石階段を上りながら、氷雨は陽射しにも負けぬほど頬を染めつつ言う。
『な、なんだかこうして、買い物帰りに、一緒に歩いてると……で、でっ……デートみたい、ですねっ!?』
「なんですかコレ、
若干モヤッとしている気がする奈子だが、晃一が言うには。
「いや、コーチングだ」
『いや、コーチングだ』
「なんか氷雨さんが可哀想になってきた……」
『もうっ、コーチったら鈍感っ♪』
「そうでもないか……」
そしてレジ袋を手に
『コーチっ! これからも、ずっと……アタシの、コーチを―――』
けれど。
そこで―――悲劇が、起こった。
落下、したのだ。
氷雨が振り返った影響か、ずるり、レジ袋から。
落下、した―――1パックに収められし、それ、が――卵が、落下を―――
「なんかすごい大げさっぽく言ってますけど、普通に〝卵を落としちゃいました〟で良いと思います」
『あっ……た、卵がッ……きゃあああああっ!!』
「そんな叫ぶほどです?」
『くっ、氷雨(が落とした卵1パック)……危なぁぁぁいッ!!』
「いきなりどうした」
瞬間、晃一は反射的に飛び出した―――星の引力に導かれ、今まさに地に
けれど、それは―――あまりにも無謀で、そして悲劇の引き金となってしまった。
『くっ、間に合わんッ……はっ、しまった―――!』
『あ……うそっ、そんな――危ない、コーチ!?』
そこに神の慈悲はなく、無情にも卵は大地に散る――けれど本当の悲劇は、この先にあった。
飛び散った卵の殻が、鋭き刃の如く飛翔し――晃一の右目の横を、切り裂いてしまったのだ――!
『ぐっ―――ぐあああああああああっ!!!』
『コーチっ、いやっ―――コーチーーーーーッ!!』
「卵の殻が異様に固かったのか、コーチさんが妙に
これが、晃一と氷雨に起こった、大事件の全てだ――――
▲ あまりにも悲しき過去の回想終了 ▲
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