世界一の女子サッカー選手になれ――えっ球技? いやいやサッカーといえば……スーパーとかで買い物袋に商品を詰め込む人のコトに決まってるでしょうがァァァ!
第22話 《氷結女帝》の氷が融ける時―――だが、その時―――!
第22話 《氷結女帝》の氷が融ける時―――だが、その時―――!
あまりにも悲しき過去、
「あの、見るも涙、語るも涙の大事件の後、
「内気ですか。……あっ私も内気で気弱なんですけどね?」
「だからアタシは、コーチを……いいえ、晃一を恨んだ。アタシに謝らせてもくれないまま、一方的に関係を断った、晃一を……アタシから離れるなら、せめて一言くらい……何か、言ってよ……何か、言わせなさいよっ……!」
「ひ、氷雨さん……っ、ちょ、ちょっとコーチさんっ」
少し氷雨から離れ、奈子が晃一を引っ張り、声を潜めて内緒話する。
「どうするんですか、もうっ……というか、何でその小規模な事故で怪我した後、黙っていなくなっちゃったんですかっ!?」
「ああ、いや、俺を怪我させたなんて、氷雨が気に病んだら可哀想だなと思って。俺なら別に大丈夫なのに、謝らせて大げさになると悪いなって思ったし」
「そら大丈夫でしょうけども! 軽く怪我しただけですしね、しかも卵の殻で! でも、それならそれで……何か話してからにしてあげれば良いじゃないですか!」
「? 師弟関係だったし、言わなくても伝わるかなって」
「伝わってるように見えます!? 言葉ってものが何のためにあるか考えてくださいよ! ていうか本当、私にも一切コーチングしてくれてないし、大会の作戦とかも結局なかったし、少しは会話する努力してくださいよ!」
「フッ、奈子! 見ろ……勝利のVサインだ!」
「コミュ力デストロイヤーか! そういうトコだぞ!!」
(奈子のツッコミの声が大きくて、アタシにほぼ筒抜けなんだけど……)
何やら微妙な表情の氷雨に、その顔を見た奈子が晃一を促すべく背中を押す。
「あっ、氷雨さんが何とも言えない複雑な表情を……ほらっ、きっとコーチさんの言葉を待ってるんですよっ。何か声をかけてあげてください。……ちゃんと相手のことを考えて、
「おお? ……ふむ。考えて、気遣って、か。……ん~~~む……」
顎先に手を当てて考えながら、晃一は――何やらドギマギして言葉を待つ氷雨へと、語り掛けた。
「氷雨。……………元気か?」
(コミュ力! ゼロかっ!! ああもう、口出ししたい――)
「ひゃ、ひゃいっ!? げ、元気っ、元気だけどっ!?」
(ああ氷雨さんも似た者だった……どうしよう、コミュ力ゼロが向き合って会話するのって、不安しかないよお……うう~……)
頭を抱えたくなる奈子、気苦労が多そうで大変だなって思う。
まあそれはそれ、かつての師弟が向かい合い……
〝なんか喋っていいのかな〟
〝喋るタイミングが相手とかぶって遮っちゃったら申し訳ないな〟
〝ていうか黙ってるの気まずいな……〟
という複雑な、まるで心理戦の如き探り合いの果て――先手を取ったのは、かつての弟子である氷雨だった。
「コーチっ……いいえ、晃一! アタシから黙って去ったアナタを、アタシは許さないんだからっ……絶対に、どれだけ謝罪したって、何があっても決して――」
「――――氷雨」
「っ!?」
言葉を遮られて沈黙する氷雨に、晃一はサングラスを外し――かと思いきや〝ハッ〟としてかけ直し、でもやっぱり外し、やっぱりかけ直し……かけたり外したりを何度か繰り返した後、結局サングラスをかけたまま言う。
「――――すまなかった」
「! ……こ、晃一……っ、晃一っ――!」
どれだけ謝罪しても絶対に許さないらしい氷雨が、晃一の一言と共に彼の胸へと飛び込んだ。
「ばかっ……バカバカッ! 一言くらい、何とか言ってからにしなさいよっ……いつも、いつもっ……言葉足らずなのよ! アナタって人はっ!」
(それは私も本気でそう思う)
「すまない、氷雨……キミがそんなにショックを受けるとは……全く全然これっぽっちも、思いもしなかったのだ……」
(この〝全く全然これっぽっちも〟も、そこそこ腹立つな)
空気を読んで声には出さないが、心の中で奈子がツッコんでいると――成り行きを見守っていた観客たちも、感極まったような鼻声を漏らす。
『へへっ……あまりにも感動的すぎる話で、涙が出てきちまわぁ……』
『サッカー界(袋詰めする方の)の伝説に残る感動エピソードですね……』
『やれやれ、こいつぁ全米も涙が止まらねぇこと間違いナシだな……!』
「そうかぁ……?」
若干やさぐれ口調になるほど、奈子だけ懐疑的だが――それはそうと、どうしても気になることを奈子が晃一に尋ねた。
「あのーコーチさん、どうでもいいことかもですけど、さっき何でサングラスをかけたり外したりしてたんですか? 説明ナシだとモヤモヤするんですけど……」
「ああ。……いや、ああいう時はちゃんと目を見て話したほうが良いかなと思って、でも良く考えたら目の傷を見せていると気にするかもなと思い直して、でもやはり目を見た方が――と、とても迷った結果だ」
「コミュ力ゼロですか……いえまあ、相手のことを気遣っての結果なら、まあそこまでは言いませんけど、なんだかなぁ……」
微妙な顔をする奈子――だがその時、氷雨が晃一から離れ、奈子へと語り掛ける。
「奈子。……遅くなったけど、優勝おめでとう。悔しいけど、アタシの完全敗北よ」
「……へっ? あ、そんなそんな、えっと、ありがとうございま――」
「晃一の目には、今は奈子しか映ってないみたいだけど」
「え。……はっ!? やっ、それどういう……あっサッカー選手としてですね!? 袋詰めする方の! いや分かってましたけどね、ええ!」
何やらあたふたする奈子に、氷雨は軽く首を傾げつつ、けれど真っ直ぐな言葉を放った。
「いつか必ず、奈子――アナタにリベンジして、真っ向から奪い取ってやるわ。
今度は復讐とかじゃなく――尊敬すべき好敵手として、ね!」
「! ……氷雨さん……」
氷雨の堂々とした宣言――から一転、今度は何やらもじもじとして、頬を赤く染めながらおずおずと小さな声で言った。
「そ、それにっ……あんまり色々とこじらせて、奈子と雰囲気が悪くなっちゃうのも、イヤだから……せ、せっかく友達になったんだし……」
「へ? あ、えっと……私達、いつの間に友達に……?」
「えっ。……ち、違う、の……?(ふるふる)」
「うっウワアアアしょんぼりしないでくださいっ!? ち、違いませんっ、友達です友達です! よ、よろしくお願いしますね、氷雨さんっ!」
「! う、うんっ! あっ……ち、ちがっ、アタシはクールなんだからっ、別にそんなに喜んでなんてっ……よ、喜んでないワケでも、ないけどぅ……」
(あーカワイイな、もう。うちの妹を思い出す……氷雨さん多分、私と同い年くらいだと思うけど)
照れたようにもじもじと身じろぎする氷雨を、可愛がりたくなる奈子だが――ちなみに観客の反応はというと。
『さ、さっ――最高だァァァ! 最高のエピソードが爆誕したぞぉぉぉ!』
『こいつぁサッカー界(袋詰めする方の)に伝説を刻むエピソードだァァァ!』
『えっ、さっきの師弟の仲直り? 知らん知らん! 百合の足元にも及ぶか後ろ足で砂でも引っ掛けとけ百合こそ世界の真理ィィィ!』
「うるさいですね……」(イライラ)
な、奈子さんがキレそうなので、観客共その辺で……。
と、とにかく、《氷結女帝》の氷が融けるような、初めて見せる微笑と共に――差し出された手を、奈子は力強く握り返した。
「奈子、今日は対戦ありがとう――必ずまた、再戦しましょう――!」
「は……
(ん? ちょっと待って、それってつまり私、またこんな風にサッカーを……袋詰めする方のコレ、続けるってことです? えっいやいやそんな気なかったんですけど、そもそも他の大会とか知りませんし、今後とか分かりませんって! いやでも、こんな風に珍しく氷雨さん笑ってて、しかも握手まで返して、〝いやですよ〟って言うのもな~……いや他の人達なら〝別にいっか〟ってなったのに、氷雨さんにはちょっとなぁ、可哀想かなぁ~……うう、まあでもこの場だけでも、とりあえず……)
……はいっ!」
「なんだかすっごく意味深な長~い間が空いた気がするけど、きっとそれだけ感情がこもっているのね……何だか恐縮だわ、奈子っ!」
結果、氷雨も嬉しそうで、奈子は苦笑いで返すしかない。
まあ、何はともあれ。
こうして、今サッカー大会は、大団円に終わった―――
―――かに見えた、その時―――
『ククッ……クックック……』
「………………」
『クックック……ハハハッ……フハハハーッ!』
「………………」
『ハッハハ……フーッハッハッハ! フハッ、フハハハハハ!!』
「………あっ、じゃあ私、これで帰りますねっ。皆さん、お疲れ様でした――」
『フハッ!? フッフハッ……フハハフハハハハフハーッ!!?』
「……あ、あの奈子、コレ、この声――」
「あっ氷雨さん、良かったら一緒に帰りません? ちょっとどこかでお茶でも飲んで……あそうだ、連絡先、交換したいです♡」
「えっ本当……? それ、嬉しい……うん、する……♡」
『フッフハーーーーッ!? フハハーーーン!!?』
聞こえん、何も。
そう言わんばかりに奈子は氷雨を伴い、キャッキャと和やかに退散しようとする――がその時、晃一が周囲を見回しながら驚愕の声を上げる。
「!? なんだこの笑い声はっ……一体、何者だっ!?」
「あっバカ反応すんなですよコーチさん! くっ、早く帰ろ――」
『よくぞォ! 反応したァ! 反応してくれたァァァァァ!!
登場するからな、もう絶対登場するから! 待っていろよトオーウッ!!』
「あーもおぉー……なんかメンドくさい感じになりそうで、イヤすぎる……」
謎の闖入者への恐れか、大きく肩を落としている奈子――未来の《サッカーの女王》の勘が、警鐘を鳴らしているのだろう。
間違いない。
全ての戦いを終えたはずの彼らを――果たして何が待ち受けているのか――!?
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