世界一の女子サッカー選手になれ――えっ球技? いやいやサッカーといえば……スーパーとかで買い物袋に商品を詰め込む人のコトに決まってるでしょうがァァァ!
第20話 (3/3)決勝戦――ついに決着の刻、優勝者が決まる――!
第20話 (3/3)決勝戦――ついに決着の刻、優勝者が決まる――!
その手際、まさに《
奈子はもう、それを提出台の上に提出するだけ――そうなると、焦るのは対戦相手たる
「くっ、な、なんてコトっ……でもアタシは、まだ負けてないんだからっ! スピードアップして――今、アタシはアタシの最高速を超える――!」
そこまで慎重すぎるほど丁寧に、かつ冷徹に
―――だが、それは、逆に言えば。
《
「っ。あっ……しまっ、商品の順序、間違えちゃっ……きゃ、きゃあっ!? くっ……ええと、次、次はっ……ど、どれを詰めれば――」
ひとたびペースが乱れ、計算して積まれていた商品が崩れると、取り戻すのは困難――連鎖するように商品は崩れ、慌てて次を詰め込む手も乱雑になってしまう。
もはや、レジ袋の中は修正不能――焦燥が極まった氷雨の手が、商品ごとレジ袋を押し出してしまい。
「こ、こんなの、ウソっ……このアタシがっ……負けるなんてーーーっ!」
それはさながら、氷山が溶け、崩れるように―――
《氷結女帝》のレジ袋が―――サッカー台の上から、落ちてしまう―――!
落ちたレジ袋に駆け寄った審判が、ぐっ、と右手を上げつつ叫ぶのは。
『―――霧崎氷雨選手、レジ袋、サッカー台を場外―――失格ゥゥゥッ! でも凄く頑張ったと思う。過程にだって意義があると思う、審判はそう思う』
「きゃ―――きゃあああああああっ!!」
敗北を告げられた瞬間、氷雨は吹き飛ばされたかの如く、横向きに倒れる。もんどり打つのは危ないから、女子はやらなくても良いと思う。そうでしょ?
さて、その間に、奈子は――未来の《サッカーの女王》たる、栄海奈子は――そこに、そこにいるのが、もはや当たり前の如く――
「………………………」
提出台の横に、立っていた。
―――商品を詰めたレジ袋を、提出台の上に置いて―――!!
この決着の光景に、実況が最大限のボルテージを爆発させる。
『ゴール、ゴールッ―――ゴラッソォーーーッ!(↑) 栄海奈子選手が、栄海奈子選手が決めましたッ! 大舞台の大一番、大観衆の前で、決めてみせたァァァァッ! 何たる、何たるファンタジスタ! まさかこんなドラマが待っていようとはッ!』
「………………………」
『何ということでしょう、初出場の栄海奈子選手が、まさかの三勝を……あっ。……ハットトリックを達成し、優勝をォ決ィめてしまいましッたァァァァ!! ン
『少し落ち着いてほしいですね。全体的な意味で』
『フフッ♪ ……さァァァって! ついに新たな
「……………………………………」
遠い目をして沈黙する奈子、だが確かに右手を上げ、発言を求めているらしく。
一度、眼を閉じ――カッ、と
「―――結局! 対戦相手! 全員が勝手に自滅しただけですけど!?
あと全員、名前負けの見掛け倒しばっかなんですよ、んもぉ~~~!」
『新チャンピオン、優勝の雄叫びだァァァ! ありがとうございまーっす!』
『内容ちゃんと聞いた方がいいと思いますけどねぇ』
『オーオー♪』『ワーワー!』『オーオーッ!』『オオッオー♪』
もはや観客も歌っているのか叫んでいるのか分からないほど、バケツをひっくり返したような大興奮の雨。
そんな中、コーチたる
「フッ……良くやったな、奈子。キミならやれると、信じていたぞ」
「うわまた寄ってきた。はあ、別にいいですけど……この流れ、不本意ながら慣れてきましたし……」
「ナコ、コングラチュレーションッ! 優勝、ヤッタネ♪」
「誰ですかこの人」
「俺にも分からん。ずっと怖い」
名コーチですら恐れさせる、アメリカンガール(仮称)が――バチーンッ、と右目でウインクしながら、露出の目立つ胸元を強調するポーズで言う。
「ワタシはキャシー! ちなみにこんな見た目だけど、日本生まれ日本育ちだから英語とか全然喋れないし、喋り方とか雰囲気でやってるだけだヨ♪」
「なるほど、また見掛け倒しが増えたということでいいですか?」
「ちなみに用事とかもないから、観客席に戻るネ♪ バーイ★」
「本気で何だったんですかキャシーさん。どういう気持ちで喋ってたんですか」
「わからん。本当に怖い」
たわわなヒップを振りつつ、本当に特に何事もなく観客席へ戻った仮称アメリカンガール改めキャシーを見送り――
恐々とする晃一の横顔を、奈子が気付かれないよう横目で見る。
(……結局この人が、コーチでなければ、私にとって何なのか、なんて……分かりませんけど。……まあ、とにかく、一つだけ言えることはですねっ)
「何だったんだろう、怖くて仕方ない……ん? どうした奈子、俺の顔に何か――」
「―――私はコーチさんのこと、誰より一番、変な人だって思ってますからねっ!」
「おお。よく分からんが……照れるな、フッ」
「褒めてねーんですよ全然」
ツッコミも言葉が乱れ気味なのは、えっと、そう、ある種の信頼感の表れだろう――そんな奈子に、改めて晃一が語り掛ける。
「……さて、優勝おめでとう、奈子。先ほどコメントしていたようだが……他に何かあれば、コーチである俺が聞くが?」
「あ、はい。……うーん、言いたいこと、っていうか……その」
少し考えた奈子が、まあせっかくだし、と口にするのは。
「……ゴールとかファンタジスタとか、ちょいちょい球技の方のサッカーに寄せようとしてるのが、若干イラッとくるっていうか……今回の話だけでなく、前からちょくちょく思ってましたけど」
「フフッ、奈子! フフフッ、奈子!!」
「それやめろって言ってますよね?」
ここでも若干イラッときているっぽい奈子、だが――次に気付いたのは。
「………う、ううっ………」
「! 氷雨さんっ……そうでした、なぜか全く分からないですけど、さっき倒れて……なぜかは全く分からないですけど! ……だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄った奈子が、優しく氷雨の半身を起こす、と。
「……アタシは……そう、アナタに……奈子に……いいえ、奈子と晃一の師弟の絆に、負けたのね……ッ」
「いえ、コーチさんは何もしてないので関係ありません。私オンリーです。……そんなことより、氷雨さん……なんで、コーチさんに復讐なんて……もしかして、何かされたんですか?
「フッ、奈子は冗談が上手だな!」
「実は私も、少しばかり考えていなくもない、といいますか」
「ヘイヘイ奈子奈子~っ! 《サッカーの女王》ジョークか~!?」
何か後ろの方で騒いでいるコーチは、ガン無視する奈子に――氷雨は。
「……アタシが、復讐を……晃一に復讐しようとした、理由は……ッ!」
苦々しそうに、顔を
《氷結女帝》霧崎氷雨は――己の復讐の動機を、明かそうとしていた――
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