世界一の女子サッカー選手になれ――えっ球技? いやいやサッカーといえば……スーパーとかで買い物袋に商品を詰め込む人のコトに決まってるでしょうがァァァ!
第19話 (2/3)決勝戦――栄海奈子、覚醒の時――!
第19話 (2/3)決勝戦――栄海奈子、覚醒の時――!
決勝戦の相手たる
「確かにコーチは、出会った時からビックリするほど変な人で、いきなりこんな変な大会に私を放り込んで……そのクセ、ロクにコーチングとかしてくれず、何なら試合に向けてのアドバイスとかも一切なく、〝コーチって何だっけ?〟と思わせる、コーチと呼んで本当に良いのか疑問な問答無用の変人です……あと〝フッ〟もイラッときますし」
「奈子………フッ」
何やら照れ臭そうに鼻の頭を人差し指で擦るコーチ、だが奈子は続けて。
「――――だけど」
呟くようだった奈子の声は、徐々に大きく、高まる熱に比例していくように。
「それでも私は、ここまで来た……何だか流されちゃってるだけ、って気もするけど……でも、あの変な人に導かれて、変な大会を勝ち上がって、実況も観客も変な人ばかりで……それでも私は……内気で気弱な、こんな私が! どれだけ変な〝新しい世界〟でも――逃げ出したりせず、戦ってきました! だから!」
顔を上げ、放つのは―――未来の《サッカーの女王》の
「コーチのことは、いくら悪く言っても構いません――だけど!
ここまでちゃんと戦ってきた私の悪口だけは、許しません――!!」
「フフッ、奈子! フフフッ、奈~子っ! 逆、逆~!」
「……………………」
「お~い奈子~っ!」
コーチたる
これが、絆―――培ってきた、師弟の絆―――!
そんなあまりにも熱き絆を見せつけられ、今も袋詰めしながら対峙する氷雨は、ギリッと
「ッ、何よ、晃一との絆を見せつけてッ……試合中にイチャつくなんて、栄海奈子、アナタは分かっているのかしら!?」
「あ、はいまあ、氷雨さんが人の話、あんまり聞いてないっぽいな、ということは分かりましたけど……」
「観客がオーオー歌っててうるさくて……と、とにかく! 今は試合中、そして私はもはや袋詰め終了寸前――ここから巻き返せるとでも、思っているのかしら!」
言葉通り、その冷徹に
けれど、奈子は――未来の《サッカーの女王》は、一切の焦りも見せず、むしろ
「う~ん……氷雨さん、確かに丁寧に袋詰めしてて、それは良いんですけど……慎重すぎて、ちょっとゆっくりすぎませんか? せっかく保冷用の氷もビニール袋に入れてるのに、ちょっと溶けてきちゃってますし……」
「なっ……っ、大会初出場のクセに、この《
「あ、えっと、袋詰めの実力だとかの話は、いまだに良く分かりませんけど……まあいっか。じゃ、始めますね――」
「は? 始めるって、今さら何を………―――ッ!?」
その時、奈子の手が、〝一応〟のようにサッカー台に並べられていた冷凍食品を手に取り――次の瞬間には、商品が消えていた。
否、消えたのではない――入れたのだ、レジ袋に、商品を。
ただ、その動きはあまりにも迅速で、傍から見ている観客の目にすら鮮明ではなかった――実況でさえ、困惑の声を隠せない。
『こ、これはっ……一体どうしたことでしょう!? 栄海奈子選手が、商品を袋詰めしたのかっ……しかしあまりにも速い! そのスピード、まさに神速! これが、これが栄海奈子選手のサッカー選手(袋詰めする方)の能力なのか――!?』
「いえ普通に袋詰めしてるだけなのに、大げさに言わないでくださいよ。というかいつの間にか実況の人、代わってるな……そんな叫んでると、また喉を
『! こ、これはっ……ツッコミだ~~~ッ! 完全に調子を取り戻したか、栄海奈子選手がっ……いや《ツッコミ無双の女子高生》が帰ってきたァーーーァッ!』
「変な異名をつけるのやめろ」
帰ってきている―――奈子のツッコミが、帰ってきている―――!
しかも実況にツッコみつつ、袋詰めする手は一切止まっていない。次々と冷凍食品を詰め込んでいく奈子の手腕に、教え子のサッカー(袋詰めする方)を見守る晃一の横から、甲高い声が上がった。
「Heyコーイチ! どうやらナコ、とうとう覚醒したみたいネ!?」
「フッ、覚醒というほどではない――あれは奈子に、元々備わっていた本来の力だ。あのくらいは最初から出来ていたさ。ところでキミは誰だ?」
晃一の隣に立つのは、テキサス風なテンガロンハットをかぶった、金髪の女性――ほとんどビキニのような露出の多い上着と、デニムのショートパンツから覗く白い太股が眩しい。
些細な
「ナルホド……そーいえばナコ、一回戦でも二回戦でも、対戦相手が何かワチャワチャやってるのと関係なく、既にジブンのサッカー(袋詰めする方)して、提出台の上に置いてたネ……マサカ、その時カラ?」
「ああ、その通り……だが奈子は、それでも半分ほどの実力も出していない。で、キミは誰なんだ?」
「じゃあつまり……これから見せるのが、ナコの本気ってワケなのネ……一体ナコは、どれだけの実力を隠して……!?」
「誰なんだろう、本当に怖い。………まあとにかく、そういうことだ。今、奈子が見せている姿こそ、未来の《サッカーの女王》の技―――即ち!」
これもサッカーという世界の恐ろしさなのか、アメリカンガール(仮称)に震える晃一だが、今はコーチたる者として教え子の力を示す時。
そう、コーチが口にする、奈子の秘めた実力とは――!
「サッカー台の上を支配し、迅速かつ完璧に袋詰めをする――
眼にも止まらぬその両手――まさに《
(ちょ、〝ちょっと手際が良い〟程度のことを、なんかびっくりするほど大げさに言われてる気が――!?)
ガビーン、と擬音が聞こえてきそうなショックを受ける奈子だが、それでも両手は……いや《神の見えざる手》は止まらず。
氷雨の袋詰めに追いつき――いや、もはや追い越し、袋詰めを完了しようとしている――!?
「ま、まさかっ……こんな、こんなことっ……信じられないッ―――ッ!」
追いつかれて、いや――既に追い抜かれてしまい、いつの間にか追う立場に回っていた氷雨が、焦燥に駆られながらも、自身の手を早めようとする。
今。
氷をも溶かす、白熱と激戦の決勝戦が――終局を迎えようとしている――!
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