世界一の女子サッカー選手になれ――えっ球技? いやいやサッカーといえば……スーパーとかで買い物袋に商品を詰め込む人のコトに決まってるでしょうがァァァ!
第10話 《暴威の大嵐》……荒れ狂う嵐の破壊力……(後編)
第10話 《暴威の大嵐》……荒れ狂う嵐の破壊力……(後編)
《暴威の大嵐》が空中から放った、恐るべき勢いの商品たちが――
ドチュッ、グチャッ、バチュンッ、と着弾するたび、何かが潰れる鈍い音が連続して響き。
更に、特に支えなどなかったレジ袋は、その衝撃による慣性のまま吹っ飛ばされ――サッカー台の外側、室内競技場の床に、ドスッ、と落ちた。
その凄惨なる光景を見届け、審判はもはやレジ袋の中身を確認さえせず、高く掲げた両手で
『レジ袋、
「こ、このオレっちが……そんなバカなぁぁぁぁ! ……げふうううう!?」
跳躍していた《暴威の大嵐》が、敗北を告げられたショックからか体勢を大きく崩し――自由落下の速度で、顔面から墜落した。
まさか、まさかこんなことになろうとは――あまりにも意外かつ予想しえない
『こ、これは……《暴威の大嵐》の規格外のパワーに、レジ袋と商品のほうが耐えられなかった……それゆえに起きてしまった悲劇、ということでしょうか? 解説の澤北さん』
『投げ入れたりすれば、ああなっちゃうでしょうねぇ』
『なるほど、ありがとうございます』
こうして《暴威の大嵐》は敗退しました。
……さて、ならば対戦相手たる
今まで《暴威の大嵐》の暴れっぷりに注目せざるを得なかった会場中の人間が、今度こそはと彼女の姿を探すも――サッカー台の前には、奈子の影も形もなく。
けれど、彼女は、そこにいた。もはや、そこにいるのが、当たり前の如く。
未来の《サッカーの女王》たる奈子は、既に――自陣側の提出台の傍らに立ち。
―――提出台の上に、商品の詰め込まれたレジ袋を置いていた―――!!
この事態に実況が、ゴクリと生唾を飲み込みながら解説に問いかける。
『こ、これは一体、どうしたことでしょうっ……か、解説の澤北さん!?』
『すみません。見てませんでした』
『さすがです』
さて、一回戦とほぼ同じく、居心地の悪すぎる注目が集まる中――沈黙していた奈子が、やや投げやりな口調で説明した。
「……ですから。皆さんが暴威の何とかさんに注目してる間、普通に商品をレジ袋に詰め込んで、普通に提出台の上に置いたんですってば」
『……………………』
奈子の答えから、暫しの沈黙、その
『―――――
「だから何も嬉しくないですし、達成感も無いんですってば! 何なんですかこの試合! いや一回戦からずっと思ってましたけどね!?」
何やら奈子は不満の様子――さもあらん。未来の《サッカーの女王》たる奈子だ。恐らく実力を十分の一ほども出さず勝利し、ゆえにこその不完全燃焼が心地悪いのだろう。
間違いない。
だが、そんな彼女のコーチたる
「フッ……余裕の勝利だったな、奈子。勝利の味はどうだ?」
「だから、何も嬉しくないんですってば……結局また相手の自爆ですし、誰にも見られてなかったですし……ああ、どうせコーチさんだけは見てたとか――」
「おや? 今回は見ていなかった、と言ったらどうする?」
「――――は?」
コーチたる者にあるまじき言葉に、内気で気弱なことに定評のある奈子が目を見開き、あからさまに
「……何なんですか、それ。人をいきなりこんな妙な所に連れてきて、妙なことに巻き込んでおいて。その張本人であるアナタが、見てないとか。……ふんだっ、もういいです、知りません。もう私、帰らせてもら――」
「まあ冗談で、奈子しか見ていなかったのだが」
「うが。………っ……」
「良くやったな、奈子。良いサッカー(袋詰めする方)だった――この会場で、誰よりも強く……何より美しく輝いていたぞ!」
「っ、っ。……っ……っ~~~~!」
「む? どうした奈子、震えているぞ奈子、大丈夫か奈子――」
何度も呼ばわる晃一に、ぷるぷると肩を震わせていた奈子が――ばっ、と真っ赤になった顔を上げて、思い切り叫んだのは。
「う、う……うるさいんですよ~~~! だぁーーーもおっ!」
「おぉ……これが未来の《サッカーの女王》の、勝利の雄叫びか……!」
「うるせーーーーーっ!!」
………………。
そう! これはコーチたる晃一の言う通り、未来の《サッカーの女王》の口から自然と出た勝利の雄叫びであり、気弱で内気という性格がブレている訳ではないのだ!
気弱で内気な性格は保たれているので大丈夫です(大事なことなので二度)
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